1.学んだ分だけヤバくなる
白石涼は今年40歳になる、大学で民俗学を教える客員教授だ。彼の専門は日本の古代伝承と神話であり、その知識を活かして全国各地を訪れ、様々な地域の文化や風習を研究していた。彼は自分の研究に情熱を注ぎ、その一方で学生たちに日本の伝統や文化の重要性を説いていた。
その分野では右に出る者はいない評されていたが、それとともにヤバイやつとの評判も高かった。
「こんなに民俗学を学んでいるのに、何故だれも理解してくれないんだ・・・俺のことを。」
嘆きながら廊下を歩いていると、ある女子学生が話しかけてきた。
「白石先生、今日の講義で分からないところがあって、教えてもらえますか?」
キュピーン!その瞬間、涼の目は煌めいた。
「ど、どこが分からない?どこを教えてほしいんだ!伝承の儀式の事か?!それとも妖怪の事か?!それともあの%^##%*dj%$$#キェェェェェ!!!!」
「や、やっぱり、いいです!自分で何とかしてみます!」
そう言うと女子学生は足早に友達のところに戻り、やっぱヤバイよ!と叫んでいた。
知識もある、顔もそれなりだが、ひとたび民俗学の事になると周りが見えなくなり早口で捲し立ててしまう。学びによって自身を高めれば、モテるだろうと中学生の時から努力してきた結果がこれである。
「母ちゃん、俺はまだ結婚出来そうにないよ・・・」
実家に帰省した時に母に言われる小言の事を思いながら呟いた。
ある日、涼は大学の研究に使う古い書物を陰干ししようと保管室へ向かった。
その保管庫は普段は誰も近づかないが、涼にとっては居心地が良く暇さえあればここにいた。
【保管庫の怪人】、これもまた涼の数多くある異名の一つである。
「さて、今日はどこから手を付けようかな。」
涼が棚に手を伸ばすと、一冊の本が落ちてきた。
「あぶね~、傷でもついたら減給どころじゃないぞ。ん、なんだこれ?古代精霊学ってなんだ?こんなのあったかな?」
【記憶の化け物】の異名も持つ涼は、この保管庫にある書物の題名も、どの棚の何段目にあるかも記憶しているのだ。そんな彼が知らない本が出てきたのだ。涼は自分が知らない本がなぜここにあるのかより、知らない本を読めることに興奮していた。
「くふぉ~、俺の知識欲が刺激されるぜ~。」
気持ち悪い話し方をしつつ本を開くと、どこかで見覚えのある文字が羅列されていた。
「この本もしかして、昔、爺ちゃんの家で見て、もう一回見ようとしたら無くなってた本じゃないか?」
ちなみにその時無い本を読みたいと尋常じゃないくらい駄々をこね、爺ちゃんまでも元々そんな本は無いと言ったせいもあって。親族からヤバイやつと認定されたのだ。
一度パラパラと眺めただけの本であったが、強く惹かれ、探し続けていたのだ。
涼に民俗学を志す切っ掛けになった本でもある。
その本には、古代の神々に関する伝承と精霊を祀る儀式の方法が記されていた、子供だった時には理解できなかったが、民俗学を学んだ今では理解することが出来た。本には他にも不思議な文字がびっしりと書かれており、彼はその解読に夢中になっていた。
「ん、これってあの文字に似てるな・・・」
そう呟いた瞬間突然、本から眩しい光が放たれ、涼はその光に包まれた。
あまりの眩しさに目を瞑ると、いつの間にか意識を失っていた。
いったいどれくらいの時間気を失っていたのだろう目を開けると、見知らぬ場所に横たわっていた。そこには見た事ないの風景が広がっていた。
「神隠しってやつかwww」
気持ち悪い笑みを浮かべながら涼は、この状況を【不変の変人】の異名通りすんなり受け入れていた。
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