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【完結】勇者殺しの元暗殺者。~無職のおっさんから始まるセカンドライフ~  作者: 岡本剛也
第2章

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第66話 不穏な噂


「――こんなものでいいだろう。今日の指導は終わりだ」

「「ありがとうございました!」」


 指導を終えて、二人はへたり込むように地面に倒れ込んだ。

 トレバーは単純に体力の限界で、テイトは終始トレバーの動きに合わせていたため精神的疲れだろう。


 俺はさっさと街に戻って、新しい宿屋探しを行いたいところだが……二人に少し話を伺いたい。 

 会う機会がないどころか、街で二人を見かけたら避けているし、会話自体が一ヶ月に一度しかできないからな。


「少し話を聞いてもいいか? 二人の近況はどうなんだ? 以前より仲良くなっているように見えたが」

「先々週ぐらいに僕が誘って、パーティ登録をしたんです! そこからはちょくちょく薬草採取に行っているんですよ!」

「もう一緒に依頼も始めているのか。儲かってはいるのか?」

「いえ。二人で森の中を一日探って、銀貨二枚ってところです」


 一日で銀貨二枚か。

 分け前半分になる訳で、一人頭銀貨一枚。


 俺が『シャ・ノワール』で働き、一番最初に貰った給料が七日で銀貨十四枚だった。

 そう考えると最低賃金以下だし、正に底辺冒険者って感じの稼ぎだな。


「それは稼げてないな。割りに合わないだろ?」

「ギルドに持っていかれる手数料が痛いんですよ! それさえなければ、満足いくぐらいには稼げるはずなんですけど……」

「まぁギルドも慈善事業じゃないだろうからな。危険を冒し、魔物を狩らないと稼げないようになっているんだろう」

「はい。一応、明日からゴブリン狩りに行こうと思っています。連携も磨きましたし、恐らく勝てるだろうと思っていますので」

「良いと思う。ちゃんと戦えば、ゴブリンに勝てるくらいには強くなっているはずだからな」


 以前失敗しているトレバーと、今まで魔物と戦ったことのないテイト。

 少し心配な面はあるが、最弱の魔物と言われるゴブリンならまず負けない。


 ただ初戦はトレバーが慌てふためきそうだし、見に行きたい気持ちに駆られるな。

 まぁ、俺も俺で仕事があるから行けないんだが。


「足がすくんで何もできなかった時のリベンジをやっと果たせるので燃えてます!」

「ふっ、頑張れよ。……それで、どこに行くのかは決めているのか?」

「西の森に行く予定だったんですが、何やら荒れているみたいなんで南の林道に行く予定です」

「荒れている? 西の森が荒れているのか?」


 西の森と言えば、三日前にディープオッソを討伐した森。

 ここに行こうとしているなら止めようと思っていたのだが、あんな森の入口近くにディープオッソがいた訳だしもう噂になっていたか。


「僕が聞いたんですけど、森の奥でゴブリンの何かがいるらしいです! それで荒れているみたいですよ!」

「ゴブリンの何かじゃ全く分からない。でも……あのゴブリンか?」

「ジェイドさん、気になるんですか? もし気になるようでしたら、私が調べておきますよ」

「あー……いや、大丈夫だ」


 あの森はかなり異様だったし気になってはいるが、俺には偶然手に入れた伝手があるからな。

 わざわざ調べてもらわなくても、冒険者ギルドの副ギルド長のマイケルに聞けば一発で分かる。


「大丈夫なら良かったです。あと、もう一つ報告があるので少しあっちでいいですか?」

「分かった。向こうで聞かせてくれ」


 多分だが『都影』についてだろう。

 トレバーは何のことか見当がついていないようで、キョトンとした表情で小首を傾げている。

 そんなトレバーから離れた場所で、ひそひそ話でテイトから報告を受けた。


「『都影』に動きがありました。王都にある本部から幹部の一人が来ているみたいです」

「そうだったのか。俺もこの間アジトのあったバーを見張っていたところ、それらしき人物を見かけた」

「えっ! ジェイドさんは直接見たんですね。その幹部はまだヨークウィッチに留まっているようで、支部長を殺した人物を探し回っているみたいです」


 やっぱりあの時のスラッとした男は、『都影』の幹部だったんだろう。

 本音を言うならあの時に仕留めたかったが、俺が幹部の男を追っていたらマイケルは殺されていたからな。

 たらればを語るのは意味はないが……やはり一人で自由に動くことができないというだけで、俺が思っている以上に制限がかけられている。


「俺が見たのは北側の富裕層エリア。金持ちとコネがあるから、そのコネを使って身を隠しつつ俺を探しているんだろう」

「……ジェイドさん、大丈夫ですか? 本格的に動かれたら、流石のジェイドさんも危険なんじゃないですか?」

「俺は心配いらない。テイト達、元『都影』の捜索は行われていないのか?」

「はい。流石に末端の中の末端には目を向けられていないみたいです。……ただ、『都影』はまだヨークウィッチは諦めていないようで、構成員が少しずつこの街に入ってきていて、『都影』の新たな人員の募集も始めたみたいです」


 支部長が殺され、構成員も散り散りになったのに諦めないのか。

 ドス黒い裏がありそうな動きだが……再興に目を向けたということは、テイトはもう心配なさそうだな。

 

 見せしめとしても支部長を殺した俺は一生追われるだろうが、同じ街で暮らしていたとて俺まで辿りつくことはほぼない。

 可能性があるとすれば一部始終を見ていたテイトか、マイケルに引き渡した黒服の二人から。


 テイトは心配ないし、仮に裏切られたとしても俺が決めた選択だから何の後悔もない。

 ……ただ、黒服の二人から情報が漏れるのは心情的に嫌だな。

 少し面倒くさいが、あとで冒険者ギルドに行ってマイケルに話を聞きに行くとするか。



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