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【完結】勇者殺しの元暗殺者。~無職のおっさんから始まるセカンドライフ~  作者: 岡本剛也
第2章

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第49話 先輩面


 二人は付近に落ちていた木の枝を拾い、自分が使いやすい大きさに折って軽く加工していった。

 もちろんテイトは短剣サイズで、トレバーは片手剣サイズの木の枝。

 持ち手も整えたところで、二人共戦う準備が整ったようだ。

 

「先輩として胸を貸すから、全力で来て大丈夫だからね!」

「はい。全力でいかせて頂きます」


 依然として先輩風を吹かせているトレバーが、一体どんな試合を見せてくれるのか――非常に楽しみだな。

 俺は二人の間に立ち、万が一にも命の危険だけはないように審判を務める。


「それじゃ試合を始めようか。俺が止めというまで続けてくれ。――始め!」


 俺の合図と共に、地面を蹴り上げたテイトが一気に距離を詰めた。

 かなり素早い動き且つ、複数のフェイントも織り交ぜているのだが……トレバーは一切目で追えておらず、テイトがフェイントを行っていることにすら気づいていない。


 トレバーも一ヶ月前よりかは立ち振る舞いが格段に良くなっているし、冒険者らしくもなっているが……元の戦闘センスの差は火を見るよりも明らか。

 戦闘開始の合図から即座に懐に潜り込まれ、トレバーは木の枝でみぞおちを思い切り突かれた。


「うぐぉッ! ――ちょ、ちょ、ちょっと! ……ま、まって、待ってッ!」


 自信満々な態度で胸を貸すという発言から僅か数秒——。

 木の棒を手首だけでピロピロと情けなく振り、涙目でタイムを要求しているトレバー。


 テイト相手に恰好つけた表情で発した言葉や、少し威張って先輩ぶってた様子を鮮明に思い出し……俺は腹が痛くなるほど笑いのツボにハマッてしまった。

 息を止めて必死に込み上げてくる笑い感情を抑え、トレバーを助けるためになんとか試合を中止を宣言したいのだが、テイトの止まらぬ攻撃に鼻水を噴き出しながら白目を向いているトレバーが目に入る。


 ――このままじゃ殺される。トレバーに笑い殺されてしまう。

 もはや俺を笑わせるためにわざとやっているのではないかと疑ってしまうが、トレバーの顔はとにかく必死。


 俺は暗殺者として様々な人間の慌てっぷりを見てきたが、ここまで慌てている人間を見たことがない。

 “胸を貸すといった後輩に木の枝で殴られ、どんな人間の死に際よりも慌てるトレバー”。


 そこからは常にこの言葉が頭に残り続け、俺は結局腹を抱えたまま顔を上げることができなかった。

 テイトもテイトで“俺が止めというまで試合”という言葉を守り、半分試合放棄状態だったトレバーを泡吹いて倒れるまで攻撃し続けたのだった。



 白目で泡を吹いて倒れているトレバーと、息も絶え絶えでようやく笑いが収まった俺。

 そんな俺とトレバーをテイトは若干白い目で見ている。


「テイト、悪いな。なんか変な感じになってしまった」

「い、いえ。気にしないでください」


 気にしないでくれと言っているが頬は引き攣っており、今すぐにでも帰りたそうな表情をしている。

 真面目に指導してもらえると思ったら、とびきり弱い変な少年と戦わせられ、当の俺はその光景を見て爆笑していたんだもんな。


 俺でもテイトのような態度になるし、帰らずに留まってくれているだけでも凄い。

 とにかく……この白目小僧を起こさないと始まらない。

 俺は水魔法を発動させ、倒れているトレバーの顔面に叩きつけた。


「――んぐッ、ぶおっふぉ! あ、あれ……? ぼ、僕は何をやっていたんでしたっけ?」

「テイトにボコボコにされて気絶していたんだ。ほら、股を見てみろ。小便まで漏らしている」

「こ、これは違います! そ、そうだ! ジェイドさんが水をかけたんでしょう!」


 顔を真っ赤にして反論しているが、先ほどまで小便をチビるよりも恥ずかしい醜態を晒していたんだけどな。

 思い出すとまた爆笑しそうになるため、無理やり思い出さないように暗殺者時代の辛かった記憶を必死に思い出した。


「どこまで記憶が残っているのか知らないが本当に――」

「あ、あのッ! ジェイドさん、今のって魔法でしょうか!?」


 ほんの少し前まで、口角ピクつかせて下手くそな愛想笑いを浮かべていたテイトだが、俺の手を両手で握り絞めたかと思うと、キラキラした瞳でそう尋ねて来た。

 そういえば、魔法を使えることを二人に教えていなかったか。


 魔力は感知されやすいし、俺は人前ではあまり使わないようにしていた。

 だから見せる必要もないと思っていたのだが……テイトはどうやら魔法自体を実際に見るのは初めてのようだ。


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