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【完結】勇者殺しの元暗殺者。~無職のおっさんから始まるセカンドライフ~  作者: 岡本剛也
第2章

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第46話 試し投げ

 

 腕組みをしながら待つレスリーは、俺を疑うような目で見ている。

 そんな目が気になったため、俺から何が言いたいのか聞くことにした。


「なんでそんな目で見てくるんだ? ちゃんとした製品を作ったぞ」

「そっちも心配だが、試作品まで作ったってお前達ちゃんと働いていたのかって疑ってんだ!」

「作ったのは簡単な奴だからな。仕事もしていたし、物についてはとにかく見てもらえば分かる」

「俺のポーションボトルは製作期間一ヶ月かけた逸品で、それが不発に終わっているんだぞ! そんな仕事の片手間で作ったアイテムが売れるとは思えないけどな!」


 あの駄作を一ヶ月かけて作ったことに驚きが隠せないが、今は無駄にデカいポーションボトルはどうでもいい。

 火炎瓶をレスリーにどう紹介するかを頭の中で必死に考えておく。


「持ってきた。レスリー、見て」

「なんじゃこりゃ! 瓶の中に水? こんなの売れないだろ!」

「水じゃなくて油だ。それとクズ魔石が入ってる」

「すまねぇが、だからなんだとしか言えねぇよ! 瓶に油とクズ魔石が入ってるから何なんだ?」

「使ってみれば分かるんだが、中のクズ魔石に強い衝撃を与えるように思い切り投げると炎上する。いわば火炎瓶だな」

「このお粗末なのが火炎瓶? ジェイド、それ本当なのか?」

「レスリーがまだ動けるなら、街の外へ行って使ってみれば分かる」

「全然行けるぜ! 外に出て使ってみようや!」


 思っていたよりも食いついてくれたし、今すぐに火炎瓶を見たいとも言ってくれた。

 少しホッとしつつ、俺達は火炎瓶の効果を見るために三人で街の外を目指すことにした。


 軽い雑談を行いながら、街の外の人のいない岩場へとやってきた。

 対象物となる木材を仮想の敵に見立てて少し離れた位置に組み、これで火炎瓶を使う準備は完了。


「ちなみに考えたのはジェイド。火炎瓶じゃなかったとしても私の考えた奴じゃない」

「おい、別にわざわざ言う必要のない情報だろ。なんでここに来て保険かけているんだよ」

「だって不発だったら恥ずかしい」

「そういうことなら、取り分は俺の方が多くしてもらうぞ」

「それはおかしい。もし売れても均等に半分ずつ」


 この期に及んで本当にヴェラは余計なことばかり言ってくる。

 まぁヴェラらしいといえばそうだが、あまり気にせずさっさと火炎瓶を投げるとするか。


「それじゃ瓶を投げるぞ。二人は元冒険者だし心配はすることじゃないだろうが、くれぐれも気をつけてくれ」

「ジェイド、大爆発は起きないだろうな!」

「心配ない。普通に燃えるだけだ」


 心配そうにしているレスリーにそう声を掛けてから、俺は勢いよく手製の火炎瓶をぶん投げた。

 組んだ木材の場所へと勢いよく飛んでいき、瓶が割れて中の油が木材にかかったと思った瞬間――クズ魔石から引火し、あっと言う間に木材は燃え上がった。


 冒険者が使う分には十分すぎる火力だろう。

 ちなみに油じゃなくてスライムの体液を入れると、着弾した瞬間に爆発するように燃える。


 スライムの体液も比較的楽に手に入れられるし、こっちの火炎瓶も作っても良さそうだが……。

 威力が段違いで売り物としては売るのは少し怖いため、ひとまずは油で作ったこっちだけでいいはず。


「うおー! 本当に火炎瓶じゃねぇか! それも正規で作られている火炎瓶と威力は遜色ないように見えるぞ!」

「レスリーの感想としてはどうだ? クズ魔石なら店に大量に余っていたし、油と瓶だけで火炎瓶を制作できる。安価で作れる訳だし、利益も生み出せると思うんだが」

「文句なしで採用だ! 火炎瓶の売られている値段は、確か銀貨三枚弱だった気がする! 火属性の魔石のコストが重いからな!」

「対してこっちの火炎瓶に必要なのは瓶と油だけだから、一つ作るのに銅貨五枚ってところか?」

「いいや! 俺の伝手を使えば銅貨三枚で一個作れる!」


 銅貨三枚作れるものを銀貨三枚で売れるのか。

 これは相当良いビジネスになりそうな予感がする。


「十分の一のコストで作れるのか。相当な利益率だな」

「まぁ値段に関しては銀貨丸々一枚の儲けが出るように、銀貨一枚と銅貨三枚で売るつもりだ!」

「え? 銀貨三枚と銅貨三枚で売ればいい。そうすれば一つ売るだけで銀貨三枚の儲けが出る」

「それじゃ他の店と値段が変わらねぇだろ! お粗末であることには変わりないんだし、銀貨一枚と銅貨三枚でいいんだよ!」


 確かにレスリーの言う通りだな。

 他店と同じ値段で売っては、わざわざ『シャ・ノワール』で買う必要がないし売れない。

 安さが売りの店な訳だし、少し安すぎる気もするが銀貨一枚の儲けが出るなら万々歳だ。


「俺も納得だな。その分多く売ればいいだけってのも分かりやすいだろ」

「そういうこと! という訳で、俺から二人には銀貨一枚のアイデア料を渡す!」

「えっ、やっす。ケチ臭い」

「全然安くねぇだろ! 売れたら一割は渡すんだし、製作費は俺の店から出すんだぞ!」

「二本売れば俺とヴェラで銅貨一枚。二十本売れば銀貨二枚稼げるって考えれば十分だろ。店にはヴェラがいるんだし、売り込みの方はヴェラに任せたぞ」


 何はともあれ、無事にアイテムのアイデアが採用された。

 仕入れの関係等もあって売り出すのは来週からになりそうだが、また一つ成果を上げられた気がして充実感を覚えている。

 

 ここまで幸せなこと続きだと、なんか嫌なことが起こりそうな気もするが……そうなったら実力で止めるだけ。

 暗殺者として鍛えてきた力を、今の生活を守るために惜しみなく使う。

 楽しそうに話しているレスリーとヴェラを見ながら、俺はそう心の中で誓った。


私の旧作である『追放された名家の長男 ~馬鹿にされたハズレスキルで最強へと昇り詰める~』の書籍版第一巻が発売致しました!

ぜひお手に取って頂ければ幸いです<(_ _)>ペコ

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