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【完結】勇者殺しの元暗殺者。~無職のおっさんから始まるセカンドライフ~  作者: 岡本剛也
第1章

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第4話 職探し


 翌日の朝。

 何の警戒もせずに眠ることができ、蓄積された疲労が全て取れたと思うほど快適な朝だ。


 錆びついた窓をこじ開け、少し冷たいが新鮮な空気を取り込みつつ、荷物をまとめて共用のシャワーへ向かう準備を整える。

 今日の予定はシャワーを浴びて汚れを洗い流したあと、色々な店を巡って雇ってくれる店を探す。


 社会経験なしの三十代後半の無職。

 更に使い古された少し臭い地味な服に、髪型も乱雑に切られただけの無精ひげ面で清潔感も皆無ときた。


 正直まともな店で雇ってもらえるか分からないが、何事も行動に移してみないと分からない。

 どこも駄目となれば、兵士や冒険者といった少しでも暗殺者としての経験が活きる職を探す。

 気合いを入れるため頬を思い切り叩いてから、俺は着替えと布を抱えて共用シャワーへと向かった。

 


 数日ぶりのシャワーを浴びて身をスッキリさせたところで、早速雇ってもらえる店を探しに行くとするか。

 目星は何もつけていないため、とにかく視界に入った良いと思った店に入って交渉を行っていく。


 宿屋のあるピンク通りから離れ、昨日は忌避した人で賑わっている大通りを歩いて進む。

 武器屋、鍛冶屋、防具屋、道具屋……。


 元暗殺者という職業柄、どうしても戦闘に関わる店に目が行きがちになってしまっているが、できるだけ関係のない職業から探していきたい。

 思わず見てしまう意識外の誘惑を振り切り、俺はとりあえず適当に目の前にあったパン屋から入ってみることに決めた。


 客の入りはそこそこ。焼きたてのパンの香ばしい匂いが鼻孔を擽り、朝食はおろかここ数十日まともな飯を食べていない俺の腹をぐぅーと鳴かせた。

 何でもいいから一つだけ買ってみたい衝動にも駆られたが、手持ちの金は全て昨日宿屋の受付で支払ってしまったため、俺の今の手持ちは正真正銘のゼロ。

 この店で一番安いであろう、銅貨一枚の袋いっぱいに入ったパンの耳すら買うことができない。


「あ、あの……。な、何かありましたでしょうか?」


 店に入り、パンに触れることなく凝視していた俺を見て、不審に思った様子の店員が話しかけてきた。

 年は二十代前半の若い女性の店員。不審者だと思われているらしく、これでもかというほど眉を顰めている。


「実は仕事を探していて、雇ってくれないかと思って入ってみた」

「し、仕事ですか? ……ここであ、アルバイトをしたいということですか?」

「あるばいとがよく分からないが、働く代わりに賃金を頂きたい。文字通り何でもやるから雇ってくれないか?」


 俺は若い店員にそう頼んだのだが、おどおどした様子で返事をしてくれない。

 しばらくの間沈黙が流れ、若い店員の額に大粒の汗が噴き出始めたタイミングで、店の奥から大柄の男の店員が出てきた。


「おいっ! うちの従業員になんか用があんのか! ああ!?」

「て、店長。ち、違うんです。お、おちつつ」


 俺の胸倉を掴み、いきなり宙へと持ち上げてきた大柄の店員。

 若い店員も止めてくれているが、声が小さいせいもあって一切耳に届いていない様子。


 手首の関節を外し、この状況からの打開を図ってもいいんだが……真っ昼間の注目を浴びている状況で荒業での打開は好ましくない。

 そもそも、暗殺業とはかけ離れたことをやりたいという理由からこの店を尋ねた訳だし、自衛のためとはいえ攻撃するのはよくないな。


「……少し落ち着いてくれ。俺はその店員に話を聞いただけだ」

「何の話を聞いたってんだ! ナンパなら他所でやるんだなぁ!」

「なんぱ? 俺はここで働かせてくれないかを尋ねただけだ」

「くだらない嘘を吐いたって無駄だ! どちらにしたって従業員なら間に合ってんだよ! 殴られたくないなら、とっとと帰るんだな!」


 大柄の店員はそう告げると、胸倉を掴んだまま俺を外へと放り投げた。

 それから両手をはたくような仕草を見せてから、俺に当てつけるように扉を勢いよく閉めた。


 受け身を完璧に取ったからダメージはゼロだが、一件目から酷い目にあったな。

 俺の見た目があまりにもよくないのか、それともあの大柄の店員が早とちりな性格なのか。


 後者だと思いたいが、若い女性の店員もやけにおどおどとしていた。

 笑顔が苦手だし、清潔感がない上に暗い雰囲気なのが悪いのかもしれない。


 だからといって、今からどうこうできる訳ではないため、俺のありのままの姿で雇ってくれる店を探すしかないな。

 幸先の悪いスタートに深いため息を吐きつつ、俺は諦めずに次なる店を当たってみることに決めた。


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