番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その57
鞄の中に入りながらも、ヨークウィッチを興味深そうに眺めているエンペラ。
人も珍しいようだが、それ以上に売られているものが気になるといった感じだ。
魔物の世界のことは知らないが、あそこでずっと暮らしていたのだとしたら、珍しく思えて当然か。
まだ無理やり働かされている感があるエンペラだが、働けばここで売られているものを自由に買えることを後で教えてやろう。
モチベーションが大きく変わるだろうし、俺としても前向きに働いてくれたほうがいい。
いろいろなものに興味を示しているエンペラを見ながらそんなことを考えつつ、俺たちは冒険者ギルドへとやってきた。
マイケルは難色を示しそうなため、できればエイルに話を通したいところだが……どこかへ逃げたという話だからな。
もう戻ってきているといいんだが、行ってみないと分からない。
そのままの足でギルド長室へと向かい、ノックをしたのだが反応はなし。
仕方がないため、副ギルド長室へとやってきた。
「ん? 誰かね?」
「ジェイドだ。入るぞ」
中から返事があったため、俺は部屋の扉を開けた。
副ギルド長室は前回来た時よりも書類が山積みになっており、さらにマイケル自身も死にそうな表情をしていた。
部屋に入って、エイルがまだ戻ってきていないことに残念さを感じていたが、俺以上に残念に思っているのは間違いなくマイケルだろう。
「おお、君かね。また従魔のことを聞きに来たのかね?」
「まぁ、そういうことになるな。魔物を従えてきたのだが、どうしたらいいのか分からなくて訪ねてきた」
「ん? もう従魔を手に入れたのかね? ……一瞬驚いてしまったが、まぁ君なら可能なことか」
「それで、従魔はどうしたらいいんだ? 王都では従魔を連れて歩いていた人もいたし、連れ歩くこともできるんだろ?」
「従魔登録をしないと駄目だが、連れ歩くことも可能だよ。ただし、危険がないことを証明できなければ、従魔登録はできない」
「もし危険認定されても、マイケルの力でなんとか登録できないか?」
「それは無理な話だよ。私は規則には厳しいからね」
やはりマイケルは融通が利かないか。
エンペラは危険な魔物とされていたようだし、高確率で危険認定されそうなんだよな。
「それで、従魔はどこにいるのだね? 私が従魔登録できるかどうか判断してあげよう」
「……また別日にお願いしに来てもいいか?」
「もちろん構わない。ただ、ギルド長に頼み込もうとしているのなら無駄だよ。私もしっかり立ち会わせてもらうからね」
「本当にケチだな」
「ケチとはやめてほしいね。私は安全を守るために、すべきことをしているだけだからね」
「分かった。なら、もうこの場で見てもらう。エンペラ、出てこい」
俺が声を掛けると、鞄の中からゆっくりと出てきたエンペラ。
エンペラを見たマイケルは目をまん丸くさせ、驚愕といった表情で固まっている。
やはり悪名高いエンペラは、姿を見ただけでバレてしまうようだ。
「既にいろいろ察しているかもしれないが、これが俺の従魔のエンペラだ」
「エンペラではなく、ノナゴントリサグースカだがな」
「い、いや、私は何も察していないのだよ。喋れることには驚きだが、君の従魔はこんなに可愛らしい魔物なのかい?」
「……ん? マイケルはエンペラを知らないのか?」
「もちろん。初めて見る魔物だよ」
エンペラのことを知っていたから驚いたのかと思ったが、可愛らしい魔物だったことに驚いていたようだ。
俺が危険な魔物であることを仄めかして、出てきたのがイカ頭の可愛らしい魔物だもんな。
エンペラのことを知らなければ、驚いても仕方がない。
「てっきり知っているかと思っていた。とりあえず、これが従魔にした魔物なんだが……従魔登録はできそうか?」
「もちろん。会話もできるようだし、攻撃的でもないから可能……いや、待ちなさい。君、まだ何か隠していないかね? 先ほどの会話、そして今の安堵した表情。何か怪しいね」
疑うような視線でそんなことを言ってきた。
さすがは実質ギルド長なだけあり、マイケルは鋭い。
隠せば隠すほど心象が悪くなりそうだし、ここは素直に伝えようか。
「隠していたわけではないが、エンペラは旧聖地ドルミノにいた魔物だ。マイケルが言っていた魔物と同一個体かどうかは分からないが」
「ん? ということは、この可愛らしい魔物が時空間魔法を使う凶悪な魔物ということかね!?」
「いいや、私は時空間魔法は使えないぞ。使えるのは空間魔法だけだ」
「空間魔法? ……空間魔法だとしても、使える魔物は限られてくる。なるほど、それで君は隠そうとしたわけか」
「何度も言うが、隠そうとしていない。そもそも、マイケルから教えてもらって従魔にしてきたんだから、従魔登録を認められないのはおかしい話だしな」
「まぁ……それはそうだがね。実在するのかも分からなかったし、本当に従魔にしてくるとは思わなかったのだよ」
「それは知らない。それに、会話している感じから危険ではないことは分かるだろ?」
俺がそう問い詰めると、マイケルは顎に手を当てて考え始めた。
流石にこれで従魔登録が認められなければ、これからはエイルに全加担する。
そんな覚悟を決めながら、マイケルの返答を待っていると、ようやく答えが決まったようだ。
「…………分かったよ。従魔登録は認める。私が勧めたこともあるからね」
「本当か? それは助かる」
「ただし、君の力で危害を加えさせないようにしてほしい。約束してくれないと、従魔登録をしたギルドの責任になるからね」
「そこは必ず約束させてもらう。エンペラも分かったな」
「何度も言われなくとも分かっている」
断られることを覚悟していただけに、許可してくれて安堵の気持ちでいっぱいだ。
荷物持ちとして従魔を使うという手段にエンペラの情報、そして今回の従魔登録の許可。
これはマイケルには貸しを作ってしまったな。
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