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番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その50


 大量の銀鉱石を手に入れたこともあり、帰るまでにかなりの時間を要してしまった。

 オーアモールのボス個体と戦うよりも、持ち帰ることの方がよっぽど大変だったが……無事にヨークウィッチまで帰ってくることができた。


 ここからの仕事としては、手に入れた銀鉱石を売り物にできるまで研磨すること。

 そして、オーアモールから剥ぎ取った素材を鑑定に出すこと。

 本当なら帰ってきて一休みしたいところだが、営業日が迫っているため急いで作業に取り掛かることにした。


 研磨作業はエレーネとスタナ、それからレスリーにも手伝ってもらったことで、何とか全ての銀鉱石の研磨が終了。

 鑑定依頼に出していたオーアモールの素材も戻ってきたことだし、これでようやく一休みすることができる。


 ただ、今回は量も多かったこともあり、作業終了が営業日前日までかかってしまった。

 結局、休みらしい休みを味わえないまま、俺は営業日当日を迎えた。


 あくびを噛み殺しながら、早朝から並んでくれているお客さんに整理券を配布する。

 今回は銀鉱石がメインということもあり、冒険者の姿が多く見られた。


 そのため治安の悪化も予想していたのだが……意外にも落ち着いた雰囲気。

 中には暴れかけた人もいたようだが、どうやらお客さん同士で宥めてくれたようだ。


「あっ、お久しぶりです! 覚えていないと思いますが、あなたに助けられたんです!」


 横入りをしようとした人がいたようで、その場に行ってみると、スキンヘッドの男性を取り押さえている少年が元気にそう声をかけてきた。

 一瞬誰か分からなかったが、声を聞いて思い出した。


 ――スタナを守ってくれた冒険者の少年。

 そして、そのお礼に俺の短剣を渡した子だ。


「いや、覚えているぞ。従業員を守ってくれた冒険者だよな? 今回も横入りの客を取り押さえてくれたのか?」

「はい! 横入りだけじゃなく、他の方に手もあげようとしたので捕まえました! ……大丈夫でしたか?」

「もちろんだ。粗暴な態度を取る者は客として認めない。――おい、聞いているか?」


 少年に押さえられているスキンヘッドに声をかけると、俺を睨みつけてきた。

 よくもまあ、こんな情けない格好で睨めるものだと少し感心しつつ、俺は少年に離すように言った。


 拘束を解かれた男は、恥ずかしさから一目散に逃げるかと思いきや、腰に差していた剣を引き抜いた。

 ……どうしようもないアホだな。


「く、クソが! 俺様を虚仮にしやがって! ゴールドランクのドレッド様を怒らせたことを後悔――ぶべっ!」


 少年に向かって剣を振り上げた瞬間、俺は一瞬で間合いを詰め、拳で顔面を打ち抜いた。

 鼻がひしゃげ、大量の鼻血を噴き出すというグロッキーな光景だったが、周囲からは俺に対しての拍手が送られる。


「まだやるなら相手になるぞ。次は鼻だけじゃ済まないが」


 鼻を押さえながらも睨んでいたドレッドとやらだが、そう告げた途端、焦り顔となってようやく逃げ出していった。


「やっぱり店主さんはお強いんですね! 気づいたら、さっきの人の鼻から血が出てました」

「いや、そんなことはない。意識が君に向いていたってだけだ。それより、今日も店のために動いてくれてありがとう。助かった」

「いえいえ! 店主さんから頂いた短剣のおかげで、僕はシルバーランクまで上がることができましたので! 感謝したいのは僕のほうです!」


 少年は深々と頭を下げてきて、助けてもらったはずなのに感謝されるという妙な構図が出来上がってしまった。

 使わない短剣をあげただけでこんなに感謝されるとは思わなかっただけに、この少年にプレゼントして良かったと心から思う。


「この状況で俺が感謝されるのはおかしい。とりあえず、声をかけてくれれば少し安く売るから言ってくれ」

「いえ! お金を稼げるようになったので、定価でキッチリ買わせて頂きます! 定価でも安すぎるくらいですから!」


 少年は断固として俺の提案を拒否。

 ここまで恩を感じられると逆に申し訳なくなるが、俺がこの『シャ・ノワール』を営業していることで、誰かを幸せにできているのだとしたら、この上ない喜びだ。


「……そうか。無理にとは言わない。また後で買いに来てくれるのを待っている」

「はい! 必ず買わせて頂きます!」


 最後に再び深いお辞儀をした少年に片手をあげて返答し、俺は他のお客さんからの拍手を受けながら店へと戻った。


「ジェイドさん! なんだか凄い拍手が聞こえたんですけど、何があったんですか?」

「いや、ちょっと悪さをしていた人に注意しただけだ。それよりも、開店の準備をしよう」

「はい! あっ、スタナさんは奥でお釣り用の硬貨の準備をしています!」

「分かった。俺はそっちの手伝いをしてくるから、エレーネは商品棚の最終確認を頼む」

「分かりました!」


 俺はバックヤードにいるスタナのところに向かい、営業開始時間まで諸々の準備を行った。

 その後、営業を開始してからは大きなトラブルもなく、銀鉱石を安価で販売したこともあり、過去最高のお客さんで賑わい、大成功で二日間の営業が終了したのだった。




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コミカライズ版は内容もかなり違いますし、単純に漫画として完成度の高い作品となっています!

キクチ先生の画力が素晴らしく、小説版を読んだ方でも確実に面白いと自信を持って言える出来となっておりますので、どうか手に取って頂けると嬉しいです<(_ _)>ペコ

コミカライズ版も、何卒よろしくお願い致します<(_ _)>ペコ


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