番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その49
息を殺しながら、オーアモールに近づいていく。
こちらに気づく様子はなく、俺には意味の分からない鳴き声を上げながら会話を楽しんでいるようだ。
本来、一番最初に狙うべきはボス個体なのだが、一際体の大きいオーアモールは遠い位置にいる。
他のオーアモールとの位置関係上、ボス個体への不意打ち攻撃は不可能なため、先に数を減らす作戦に切り替えた。
完璧に背後を取った俺は、背中から心臓部めがけて短剣を一突き。
他のオーアモールが動き出す前に、さらに二体のオーアモールの急所を短剣で突いてみせた。
ここでようやく敵襲を察知したらしく、戦闘モードへと切り替えてきたが……時すでに遅し。
連携を取らせる前に魔法で撹乱しつつ、分断されているオーアモールを一体ずつ確実に仕留めていく。
初手から後手を踏むことになったオーアモールに立て直す手段はなく、反撃を受けることもなく俺は全てのオーアモールを仕留めきった。
残るは奥にいるボス個体のみであり、一対一の状況ならまず負けない。
「お前がここのボスだな。その後ろに白く輝いている鉱石が白銀鉱石か?」
そう声を掛けたものの、オーアモールには言葉は通じない。
ただ、俺がボス個体の後ろにある鉱石を狙っていることは分かったようで、我が子を守るかのように両手を広げて咆哮した。
銀鉱石とは別種の輝きを放っていることや、ボス個体のこの動きからも、あれが白銀鉱石で間違いない。
白銀鉱脈は見つけられなかったものの、白銀鉱石さえ手に入れば問題はないからな。
俺は短剣を高速で持ち替えながら、ゆっくりとボス個体に近づいていく。
ボス個体からすれば、俺は仲間を殺し、宝を狙う悪人。
怒り狂いながら叫んではいるが、襲いかかってくる素振りは見せない。
……なるほど。あくまでも最重要なのは白銀鉱石を守ること、というわけか。
守らなければならないものがある相手ほど、戦いやすいものはない。
戦い方を瞬時に決めた俺は、一直線でボス個体に突っ込むことはせず、弧を描くように白銀鉱石を狙う素振りを見せる。
俺の動きに釣られたボス個体は、行く手を阻むために俺の正面へと回ろうとするが、スピード勝負でも俺に分がある。
先に白銀鉱石へ辿り着こうとする俺の真横から、阻止するように爪を振り下ろしてきたボス個体だが、ここまで読める攻撃はカウンターの格好の餌食だ。
白銀鉱石に向かう動きを急停止し、ワンステップでボス個体の攻撃をかわしつつ、その突進の勢いを利用して深々と斬り裂いた。
胸部を抉られたボス個体は、鮮血を吹き出しながら地面を転がっていく。
短剣だったため致命傷とまではいかなかったが、動きを制限させるほどの重傷を負わせることができた。
ここからの立ち回り次第では、まだ厄介な相手になり得るのだが、今の騙し討ちに近いカウンターを食らってもなお、白銀鉱石を守る意思は変わらない様子だ。
絶望的に知能が低いのか、それとも白銀鉱石にはそこまで狂わせる魅力があるのか。
真相は定かではないが、重傷を負いながらも立ち回りを変えてこない相手に負ける要素はない。
白銀鉱石を狙う素振りを見せながら翻弄し、一方的に攻撃を叩き込んでいく。
最後の最後まで白銀鉱石に執着していたが、とうとう頭から倒れ込むように力尽きた。
硬度や強度を見る限り、中々の強敵だったはずだが、立ち回りが酷すぎて楽に倒すことができたな。
とりあえず、倒したオーアモールの剥ぎ取りを行う前に、白銀鉱石の確認から行う。
ボス個体があれだけ守ろうとしていた鉱石だ。
期待しながら、まずは硬度を確認する。
ヒヒイロカネやアダマンタイトほどではないが、それに匹敵するくらいの硬さはある。
発光するように光り輝き、見た目だけなら過去に見た鉱石の中で一番綺麗だ。
そして何といっても、一つ当たりの大きさが半端ではない。
装備品に用いるだけでなく、宝石としての価値も十分にある。
一つだけでなく、同じくらいの大きさのものが合計六つもある。
周囲には食べた形跡のある残骸が落ちていることから、この六つはボス個体が大事にコレクションしていたものだろう。
あれだけ必死に守ろうとしていた理由も分かったところで、目的も達成したし、ヨークウィッチに帰るとしよう。
六つの大きな白銀鉱石を鞄に入れてから、ボス個体と下っ端のオーアモールの剥ぎ取りを行う。
見た感じや一撃ごとの重さからも分かっていたが、ボス個体の素材も白銀鉱石に匹敵する良質なものだ。
今週も予想以上の大収穫だったし、先週と同じく宣伝を打ってもいいかもしれない。
オーアモールが集めたものを横取りする形で全て根こそぎかっさらって申し訳ないが、俺はホクホク顔でベースキャンプへ戻り、大量の銀鉱石を持ってヨークウィッチへと帰ったのだった。
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