番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その44
これから探検というタイミングで、期待感が高まる中での宝らしきものの発見。
正直、洞窟内をもっと探検したい気持ちは強いが……宝がすぐ見つかるに越したことはない。
「何かの箱みたいだな。箱の感じからして、漂流したものではなさそうだ」
「まさかとは思うが、例の宝だったりするのか? こんな序盤も序盤で見つかるとは思わなかったぜ」
「僕もお宝っぽい感じがしますけど……確かに、もう少しこの洞窟を探索したかったですね」
全員が複雑な気持ちになりつつ、俺が見つけた箱を開ける。
かなり複雑な鍵がかけられていたが、力で無理やりこじ開けた。
中に入っていたのは……見ただけで分かるほど高価そうなアイテムの数々。
この中身は、確実に大盗賊の宝に間違いない。
本当に見つけられたことは嬉しいが、心情的にはかなり複雑だな。
「ジェイドさん! 宝の中身はどうですか?」
「希少なアイテムがたくさん入っている。間違いなく大盗賊の宝だな」
「本当に宝だったのかよ。というか、大盗賊の宝って本当に存在してたんだな」
「喜んでいいんですよね? こんなにすぐに見つかるとは思っていなかったので……なんだか変な感じです!」
「多分だが、全員が複雑な心境を抱えていると思う。……でも、見つからないよりは、簡単に見つかった方がいい。喜んでいいと思うぞ」
アンティークには疎いため、宝の正確な価値は分からないが、少なくとも偽物ではない。
それなり以上の価値があるのは間違いないし、喜ばないという選択肢はないだろう。
「ですね! なら、素直に喜びましょう! 僕、お宝なんて見つけたの初めてですよ!」
「俺も初めてだな。まぁ冷静に考えれば、俺とアルフィはジェイドの力で楽してきたが、この洞窟に来るだけでも相当な労力が必要だ。洞窟の入口に隠すというのは、ある意味当然なのかもしれない」
「大盗賊は高齢だったって話だもんな。俺たちが勝手に大冒険を期待しすぎていただけだ」
セルジの言葉に賛同し、モヤモヤした気持ちを自ら納得させる。
短すぎる冒険だったが、結果としては大成功。
素直に喜んで、宝を三人で分配することにした。
行きと同じように、紐で宝を括って無事にアルガンの滝の洞窟を脱出。
寄り道もせず、ブルーザーの街へと戻ってきた。
宝を手に入れたことは口外せず、夜ご飯と酒を買って宿へと向かう。
しっかり施錠をしてから、今回手に入れた宝の確認を行う。
「まずは乾杯しましょう! お酒が飲みたいです!」
「俺ももう辛抱たまらん。ジェイド、乾杯の挨拶を頼む」
「分かった。大冒険の末に――というわけではなかったが、無事に宝を手に入れることができた。今回は俺の奢りだから、好きなだけ飲んでくれ。――乾杯」
「「かんぱーい!」」
酒瓶を合わせてから、一気に酒を呷る。
酒は特に好きではないが、みんなで飲み交わすこの雰囲気は最高だ。
「ぷはー! 美味しいです! タダで飲めるお酒は最高ですね!」
「だな。泳いだ後の酒は体に染みるぜ。それで……宝はどんなのだったんだ?」
「改めて見ても、質はかなり高い。アイテムの名前は分からないが、どれも一級品なのは間違いない。大盗賊の宝にふさわしい品だ」
どれも“一級品”と呼べるものばかり。
特に、この鳥の装飾が施された指輪には、抜きん出た凄みを感じる。
「ジェイドさんは、その指輪が気に入ったんですか?」
「ああ。装飾が細かくて好みだ。……そうだ。せっかくだし、アルフィとセルジも一つずつ選んで、今回の報酬として受け取ってくれ。何もいらないとは言っていたが、この渡し方なら面白いだろ?」
「確かに面白そうです! 見る目があれば、報酬の価値も高くなるってことですよね? 本当に何もしてませんし、報酬をもらうつもりはなかったんですけど……貰いたいです!」
「もちろん構わない。セルジも一つ選んでくれ。できるだけ高価なものを選べば、今回の報酬は高くなる。慎重にな」
「なら、遠慮なく一番高そうなものを選ばせてもらう」
指輪はすでに俺が選んでいたため、その他のアイテムの中から選んでもらう。
酒を片手にしながらも、二人の目は本気そのもの。
普通に報酬を渡していたら受け取らなかっただろうが、こうしてゲーム形式にすることで受け取ってくれるのはありがたい。
お互いに負けたくないという気持ちもあるのか、いつも以上に真剣だし、楽しんでもくれていそうだ。
「僕は決めました! この古びた金貨にします!」
「俺も決まった。アルフィとは別のものだ。俺はこの短剣にする。一番大きいし、価値も高いはずだからな」
「ふっふっふ、セルジさんは安直ですね! ……それで、ジェイドさん! 僕とセルジさんが選んだものは、どちらが価値あると思いますか?」
「さあ? 詳しい鑑定はできないから、俺に聞かれても困る」
「えー! じゃあ、勝敗は分からず終いってことですか?」
「エアトックの街で鑑定してもらえばいいんじゃないか? 質屋はあるだろ?」
「そうか。ジェイドは売る側で、買い取りはしないんだもんな。よし、エアトックに着いてから勝敗を決めよう」
「望むところです! 絶対にお金の方が高いですから!」
二人は盛り上がっており、酒を飲みながらも早く帰りたいという態度を見せている。
そして酒盛りをした翌日。ジェットに報酬を渡した後、二人をエアトックまで送り、俺もヨークウィッチへと帰ったのだった。
本作のコミック第3巻が、明日の7月10日に発売します!!!
コミカライズ版は内容もかなり違いますし、単純に漫画として完成度の高い作品となっています!
キクチ先生の画力が素晴らしく、小説版を読んだ方でも確実に面白いと自信を持って言える出来となっておりますので、どうか手に取って頂けると嬉しいです<(_ _)>ペコ
コミカライズ版も、何卒よろしくお願い致します<(_ _)>ペコ