番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その36
スミーと飲み交わした翌日。
すっかり回復したテイトとトレバーを連れ、軽くフロンの街を巡ってから、俺たちはヨークウィッチに戻ることにした。
古の竜穴の攻略も無事に達成できたし、フロンの街ではスミーから良い情報も得られた。
今回の帝国遠征は完璧といえる内容であり、次の調達先も決めることができたのは大きい。
テイトとトレバーが渋い表情なのが気になるが、俺は上機嫌で『シャ・ノワール』へと戻ってきた。
「ジェイドさん、ありがとうございました。もっと強くなりますので、また近いうちにご一緒させていただけたら嬉しいです」
「もちろんだ。二人には今後も手伝ってもらいたいし、また近いうちにお願いする」
「次は絶対に足を引っ張らないように頑張ります! 僕たち、強くなっておきますので!」
「そんなに気合いを入れなくても大丈夫だぞ。今回のような場所に行くつもりだし、調達を手伝いながら経験を積んでいけばいいんだからな」
俺は二人にそう伝えたのだが、納得していない様子。
少し前なら納得してくれていたと思うんだが、それだけ立派な冒険者になったということだろう。
「いえ。手伝うのであれば、全力を尽くさせていただきます。次までにはもっと仕上げておきますので」
「テイトの言う通りですね! 強くなっておきますので、期待してください!」
「……わかった。そこまで言うのであれば、次に会うのを楽しみにしておく。それで、今回の報酬を分け――」
「「いりません!」」
声を揃えてそう言うと、テイトとトレバーは足早に去ってしまった。
かなりの量のアイテムを収集したんだが、まさか何も持って帰らずに行ってしまうとは。
半分は二人に渡す予定だったんだが……俺が総取りしてしまっていいのだろうか。
呼び止めたところで、あの様子なら受け取らないだろうし、好意に甘えて『シャ・ノワール』で売らせてもらうとしよう。
ただ働きしてくれた二人に感謝しつつ、『シャ・ノワール』の中に入ると、店内には見知らぬ人物が立っていた。
一瞬、泥棒かとも思ったが、すぐに奥から笑顔のスタナが出てきたため、泥棒ではないことが分かった。
「ジェイドさん、お帰りなさい! 今回は帰りが遅かったですね!」
「テイトとトレバーと一緒に行ったから、少しだけ遅くなってしまったんだが……それより、その人は誰なんだ? スタナの友人……ってわけではないよな?」
赤髪の若い女性で、緊張しているのが伝わってくるほど体がガチガチになっている。
スタナの友人にしては緊張しすぎな気がするし、一体誰なんだろうか。
「あっ、紹介していませんでしたね! こちらはイレーネ・コルテスさんです! ジェイドさんが至るところに貼っていた求人広告を見て、応募してきてくれたんです!」
「従業員希望の方だったのか。わざわざ来てくれて本当にありがとう」
「は、はい! いえ! こちらこそありがとうございますッ!」
なんというか初々しく、微笑ましい気持ちになってしまう。
ヴェラなんかは最初からふてぶてしい態度だったし、可愛げのある後輩は少ないからな。
……まぁ俺も、レスリーからしたら似たようなもんだと思うが。
「そんなに固くならなくて大丈夫だぞ。比較的緩い職場だからな」
「は、はい! 固くならないように努力します!」
「努力するものじゃないんだが……まぁいいか。それより、イレーネはもう働けるのか?」
「は、はい! 採用していただけるのであれば、今日からでも働けます!」
「スタナが既に採用していると思っていたけど、まだ正式な採用はしていない状態なのか?」
「ここはジェイドさんのお店ですからね! 良い子そうですし、採用してあげても良かったんですが、ジェイドさんが戻るまで待っていてもらったんです」
「なるほど。なら、形式だけでも面接を行おうか」
猫の手も借りたい状況だし、緊張でガチガチなこと以外はマイナス点が見当たらない。
悪い人でなければ即採用と考えていたため、イレーネを即採用にしても良かったんだけど……せっかくなら面接をしておこう。
これまで何をしていたかも気になるしな。
ということで、レスリーがやっていたような面接を行うことにした。
軽い自己紹介をしてもらいつつ、『シャ・ノワール』にたどり着くまでの経緯を聞かせてもらった。
イレーネはつい先日まで冒険者だったようで、冒険者ギルドの掲示板を見て応募してきてくれたらしい。
冒険者ランクはブロンズと、まだまだルーキーといった感じだが、うまく依頼をこなせずにパーティが解散。
このままでは露頭に迷ってしまうと焦っていたところ、偶然、俺が張り出していた従業員募集の張り紙を見て来てくれたようだ。
元冒険者ならば、暴れるような客が来てもそれなりに対処できるはず。
気になるのは、やはり緊張で物凄く固くなっている点だが……いずれ慣れるだろう。
スタナが緊張をほぐそうとしてくれているし、徐々にだがスタナには心を許しているようにも見える。
俺は顔も態度も悪いようだから、慣れるまで時間はかかるだろうけど、ある程度接客がこなせるのであれば採用だな。
ずっと困っていた従業員がやってきてくれたし、ここの『シャ・ノワール』もさらに安泰。
新しい仲間に笑みをこぼしつつ、俺は営業前に一度歓迎会を開くことを画策するのだった。
本作のコミック第2巻が、1月27日に発売しております!!!
コミカライズ版は内容もかなり違いますし、単純に漫画として完成度の高い作品となっています!
キクチ先生の画力が素晴らしく、小説版を読んだ方でも確実に面白いと自信を持って言える出来となっておりますので、どうか手に取って頂けると嬉しいです<(_ _)>ペコ
コミカライズ版も、何卒よろしくお願い致します<(_ _)>ペコ
↓の画像をタップして頂くと、Amazonに飛びます!