番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その35
宿について、そのまま眠りについた。
そして、俺が目覚めたのは翌朝。
体力は完全に回復できたが、まだ寝足りない部分がある。
ただ、観光もしたいため、シャワーを浴びて無理やり目を覚ました。
トレバーとテイトはまだ起きることができていないようで、二人が寝泊まりしている部屋からは寝息が聞こえる。
せっかくなら三人で観光をしたかったところだけど、疲れているだろうしこのまま寝かせておいてあげよう。
ということで、フロンの街は俺一人で回ることにした。
何かしら良いアイテムがないかの散策と、お世話になった『ネバーランド』にも行きたい。
道中で売っていたパンを購入し、朝市から見て回る。
大きな街ではあるが、ヨークウィッチほどではないため、物珍しいものは売られていない。
フロンの街名物の肉巻団子は気になったけど、パンを買ってしまったためスルー。
直近で王都のフリーマーケットに行ったこともあり、目ぼしい商品は見つからないな。
それでも街を見て回るのは楽しいため、朝市を端から端まで見た後、本命である『ネバーランド』にやってきた。
相変わらず人気店のようで、朝なのにも関わらず結構な人で賑わっている。
店長のスミーが俺のことを覚えているかが怪しいため、覚えていなければ適当に買い物をして帰ろう。
そう決めてから、店の中に入ったのだが……。
「お……? おお! 前に来てくれた人じゃねえか! また来てくれたのか!」
俺が店に入るなり、スミーはそう声を掛けてくれた。
一緒に一度飲んだとはいえ、覚えていてくれたのが凄い。
「覚えてくれていたんだな。フロンに来たから寄らせてもらった」
「酒を奢ってもらった相手のことは忘れねぇんだわ! 安くするから何でも買っていってくれ!」
「ありがとう。今日は何か買わせてもらう」
そう伝えてから、店の中を見て回ることにした。
前も感じた通り、物珍しい商品はない代わり、値段がかなり安い。
これといって欲しい商品はなかったが、備品をいくつか買わせてもらおう。
古の竜穴の探索で使用したポーション等を選び、購入させてもらうことにした。
「まいどあり! 値段は……合計で銀貨二枚でいいぜ!」
「そんなに安くていいのか? 通常価格でも大分安いはずだが」
「いいっていいって! その代わりといっちゃなんだが、今日の夜こそは一緒に飲みに行こうや!」
「もちろん大丈夫だが、本当に銀貨二枚でいいのか?」
「ああ、構わねぇぜ! つうことで、夕方過ぎくらいにまた来てくれ! 久しぶりに飲み明かそう!」
なんでここまで気に入られているのか分からないが、格安にしてもらった上に飲みに誘われた。
出発は明日の朝だから飲みには行けるが、トレバーとテイトに説明しないといけないな。
俺は銀貨二枚をスミーに手渡してから、『ネバーランド』を後にした。
さて、ここからだが……適当な店で昼飯を食べてから、一度宿に帰るとしよう。
宿に戻り、起きていたトレバーとテイトに知り合いに会いに行くことを伝えた。
二人は一日寝ていたようだけど、まだ寝足りなかったようで、ついてはこないで二度寝する様子。
ということで、俺一人で再び『ネバーランド』へ向かうことにした。
時刻は夕方であり、まだ店仕舞いが終わっていない可能性もあると思っていたが、スミーは既にお店の前で待っていた。
「おー、来てくれたか! 遅かったから、バックれたかと思ったぜ!」
「夕方だし、遅くはないと思うんだけどな。それで、どこで飲むんだ?」
「まずは大衆酒場でいいだろ! 色々聞きたいこともあるし、今日はガンガン飲もうぜ!」
どことなくレスリーに似ているスミーに連れられ、この間も飲んだ大衆酒場にやってきた。
乾杯からフルスロットルであり、飲みまくるスミー。
俺も負けじと飲んでいるが、ペースが早すぎて追いつけない。
酔い度でいったらスミーの方が圧倒的に飲んでいるが、俺は酒をこんなハイペースでは飲めないな。
「くぁー! やっぱり飲みっぷりがいいな! これだけ飲める人がいないから気持ちがいいぜ!」
「スミーは飲み過ぎだけどな。それより、さっきの話を詳しく聞かせてくれ」
「さっきの話? なんじゃそりゃ!」
「大怪盗の秘宝の話だ」
「あー! さっきも言ったが、噂程度の話だぞ? 数十年前に世間を騒がせた大怪盗の屍が、ブルーザーの街で見つかったんだと! んで、その大怪盗が隠し持っていた秘宝がブルーザーの街の近くにあるんじゃねぇかって噂で持ちきりなんだわ!」
酒の席だし、大した話は聞けないと思っていたんだが、面白そうな噂を教えてくれた。
ブルーザーの街はエアトックの街の近くだし、次の調達で行ってみてもいいかもしれない。
「ブルーザーの街で、その秘宝は見つからなかったのか?」
「ガッハッハ! 見つかってたら、こんな噂にはなってねぇだろ! ブルーザーの街の近くには湖があって、そこに沈められているって噂が一番濃厚だな!」
「本当に面白そうな話だな。俺も探したくなる」
「ジェイドなら見つけられるかもしんねぇぜ! ただし、気をつけろよ! 危ない輩も秘宝目的で集まっているって噂だからな!」
「ああ。気をつけて探そうと思う」
「おうよ! ……もし見つけたら少し分けてくれよな! ――冗談だ、冗談! ガッハッハ!」
そう言いながら、酒を心底楽しんで飲んでいるスミー。
噂の真偽は分からないが、他の人も探しているのであれば可能性は高いと思う。
スミーは冗談と言っていたが、本当に見つけたら少しお礼を持っていこう。
まだまだ酒を飲みそうなスミーを見ながら、俺は密かにそう決めたのだった。
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コミカライズ版は内容もかなり違いますし、単純に漫画として完成度の高い作品となっています!
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