番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その24
近づいてみたが、今のところ動く気配はない。
というか、本当に魔物なのか未だに疑わしいほど何も感じない。
「これ、本当にシュバルツミミックなのか? 動く気配が一切ないぞ」
「本当にシュバルツミミックだ! 俺の勘が言っているから間違いねぇ!」
「このまま攻撃してもいいのか?」
「それは……分かんねぇな!」
大きな宝箱を見下ろしながら、どうするのが正解か話していたのだが、結局結論が出ないまま時間だけが過ぎていく。
なんとなく魔物の形態にしてから倒した方が良さそうな感じもするが、この宝箱がシュバルツミミックと分かっているなら、もう攻撃してしまっていいのかもしれない。
「なら、攻撃してしまうぞ。普通に倒してしまうからな」
「ああ! 大丈夫……なはずだ!」
「自信なさそうなのが気になるが、まぁ失敗しても良い経験ってことにしよう」
既に十数匹のゴールドスライムを討伐しているし、希少と言われているレアドロップも入手済み。
シュバルツミミックを倒せなかった時に保険はできているため、気にせず倒してしまっていいはずだ。
エイルが見守る中、俺はシュバルツミミックに魔法をぶち当てることにした。
使う魔法は中級魔法の【イグニスキャノン】。
魔法を打ち込んでも動かなかった場合は、魔法を打ち込み続けて倒す予定であり、もし反応を見せたら一気に近づいて叩き斬る。
そう頭の中でイメージを膨らませてから、俺は大きな宝箱目掛けて魔法を放った。
無詠唱で放たれた大きな火球は宝箱に向かって飛び、そのまま直撃した――ように見えたが、【イグニスキャノン】がぶつかる前に宝箱が自ら開き、魔法はそのまま宝箱の中に吸い込まれていった。
……反応を見せたら叩き斬ると決めていたのだが、まさかの現象に思わず固まってしまう。
「魔法が吸い込まれた……だけ?」
「いや、シュバルツミミックがかき消したんじゃないか!? でも、宝箱のままだな?」
エイルの言う通り、一瞬だけ宝箱の蓋が開いただけであり、今は先ほどと同じように大きな黒い宝箱があるだけの状態となっている。
本当に魔法が吸い込まれただけのようにしか見えず、一瞬自分の目を疑ったが……普通の宝箱では起こり得ない現象だし、やはりこの宝箱はシュバルツミミックで間違いない。
「魔法は効かないということだろうか? エイル、宝箱を開けようとしてくれ」
「はぁ!? 俺がシュバルツミミックに喰われるだろうが!」
「喰われる前に俺が斬る。多分だが、宝箱はカタツムリの殻みたいな感じで、中身が本体なのは間違いない。逆に誘き出したいから頼む」
「くっそ! ジェイドといると、いっつも俺が損な役回りをさせられる! 絶対に喰われる前に助けろよ!」
ぶつくさ文句を言いつつも、囮役を買って出てくれたエイル。
ゆっくりと近づき、エイルが宝箱を開けようとしたその瞬間――先ほどと同じように自主的に宝箱が開いた。
そして、エイルを引きずり込むため、真っ黒な黒い何かが飛び出た。
「うわっ! 何か出てきやがった!」
「任せてくれ」
さっきは驚きもあって固まってしまったが、今回はエイルが標的ということもあり、先ほどよりも本体が飛び出てきている。
エイルに伸びているシュバルツミミックに向けて、俺は短剣を振った。
攻撃が当たるかが唯一不安な要素だったが、俺の振った短剣はしっかりとシュバルツミミックに直撃。
エイルに向かって伸びていた触手のようなものは、宝箱の中へと戻っていったが……今回は閉じこもる訳ではなく、俺達を攻撃しようと完全に開いた状態で待ち受けている。
「おおっ! シュバルツミミックってこんな感じの魔物なのか! 中は黒いうねうねがいっぱいで気持ち悪ぃな!」
「思っていても口に出すな。斬るのは俺の短剣なんだからな」
エイルの言う通り、確かに気持ちは悪い。
もっと魔物っぽいものを想像していたのだが、見た目は完全に大量の幼虫が蠢いている感じだからな。
大きく深呼吸をしてから、俺は開き切っているシュバルツミミック目掛けて突っ込んでいく。
近づいてくる俺に対し、迎撃態勢を取ったシュバルツミミックは、無数の触手で止めに来たが――全て掻い潜っていく。
「うおー! ジェイドすげぇ!」
後ろからエイルの興奮した声が聞こえてくるため、つい魅せたくなってしまう。
攻撃が当たることは先ほど分かっているため、短剣で叩き落としながら進んだ方が楽なのは間違いないが、俺は短剣を使わずに全ての攻撃を回避しながら本体の真ん前まで来ることに成功。
宝箱の中にスライムの核のようなものがあるのが見えたため、俺はその核目掛けて短剣を振り下ろした。
その核が割れた瞬間に、無数に伸びていた触手は一気に力なく萎びれ、一切動かなくなった。
「変な魔物だったが、あっさり倒せたな」
「ジェイドがおかしいだけだろ! 体の動きが人間じゃなかったぞ!」
「人間じゃないって酷い言い草だな。とにかく目的は達成したし、宝を取ってから安全な場所で一泊。明日にはダンジョンから抜けるとしよう」
「了解! 宝ってどこにあんだろうな?」
宝なんて持っていないというオチだけは嫌だったが、シュバルツミミックの本体を退けると、その下に煌めく無数の宝があった。
恐らくだけど、襲った冒険者から手に入れた宝であり、使い込まれた魔剣なんかも入っていた。
ゴールドスライムのレアドロップに、シュバルツミミックの宝。
成果としては十分すぎるし、単純にダンジョン攻略が楽しかった。
またエイルには手伝ってもらうとして、とりあえず今は無事にヨークウィッチに戻ることだけを考えるとしようか。
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コミカライズ版は内容もかなり違いますし、単純に漫画として完成度の高い作品となっています!
キクチ先生の画力が素晴らしく、小説版を読んだ方でも確実に面白いと自信を持って言える出来となっておりますので、どうか手に取って頂けると嬉しいです<(_ _)>ペコ
コミカライズ版も、何卒よろしくお願い致します<(_ _)>ペコ
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