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第321話 大事な話


 昨日とは違い、まるで生まれ変わったかのような清々しさを感じている。

 今なら何でもできそうな気さえしているが、今の俺がやるべきことは【シャ・ノワール】のために頑張ること。

 とにかくいち早くレスリーに昨日の件を報告するため、俺は軽すぎる足取りで【シャ・ノワール】へと向かうことにした。

 

 いつもより早い時間に出て、足取りも軽すぎたこともあり、昨日より更に早く【シャ・ノワール】に着いてしまったのだが……。

 例のごとく、既にレスリーがいて開店の準備を行っていた。


「お? ジェイド、今日は随分と早いじゃねぇか! 昨日の――っておい! なんじゃその顔は!」

「その顔……? どういう意味だ?」

「無自覚かよ! 昨日までのジェイドからは想像できないくらい顔が緩みきっているぞ!」


 そう言われ、俺は慌てて顔を触ったのだが……自分ではあまり分からない。

 ただ、今は心の底から幸せのため、それが顔に出てしまっていても……おかしくはない。


「すまないが、自覚がないし直し方も分からない。……そんなに緩んでいるか?」

「ああ! ジェイドのことを知らない奴でも、今のジェイドの顔を見たら幸せなんだなって思うぐらいにな! ……つうことは、スタナさんは受け入れてくれたって訳か!?」

「ああ。言葉でちゃんと報告しようと思っていたんだが、まさか顔で悟られるとは思っていなかった」

「そりゃそんな顔で来たら、馬鹿でも気づくわ! にしてもスタナさんのことだから、俺はジェイドほど深刻には捉えていなかったが……これでジェイドも俺を差し置いて幸せの身かよ!」


 祝福したいという気持ちと、羨ましいという気持ちが入り乱れているのか、レスリーはかなり面白い顔になっている。

 レスリーも見た目はかなり厳ついが、優しいし頼り甲斐があって女性に好かれていてもおかしくないと思うんだがな。


 【シャ・ノワール】に全力を注ぎすぎた弊害が大きそうだ。

 ……まぁ年齢面もかなり大きいだろうが。


「俺も、ついこの間まではレスリーと一緒で天涯孤独だと思っていた」

「おい! 俺はまだ天涯孤独だと決まった訳じゃねぇ! ジェイドにスタナさんという素敵な人ができたように俺にも…………。って、おい!! 彼女ができるのは百歩譲っていいとして、スタナさんは流石にズルすぎるだろうが!!」


 溜まっていたものが爆発したようで、両手を広げながら天を仰いでそう叫んだレスリー。

 自分のことながら全く同じ感想のため、レスリーの気持ちはよく分かる。


「全く同じ意見だ。俺には勿体なさすぎる人だと思う」

「くっそぉ! 惚気にしか聞こえねぇわ! ……いや、惚気なんだろうけどよ!!」


 そこからはしばらく叫び倒していたレスリー。

 想像以上に時間がかかっていたが、ようやく自分の中で整理できて落ち着けた様子。


「…………ふぅ。叫んだら何だかスッキリしたわ! ジェイド、改めておめでとう! 色々と考えていただろうが、ジェイドも幸せになっていいんだからな! というよりも……スタナさんを幸せにするためにはジェイドも幸せにならなくちゃいけねぇ! だから――絶対に幸せになれ!」

「ああ。その覚悟は昨日固めた。俺も幸せになるし、スタナだけでなく俺に関わる全ての人を幸せにする。もちろんレスリーもな」

「がっはっは! 相変わらずかっこいいな! なら、お言葉に甘えて幸せにさせてもらうとするか!」

「任せてくれ。これまで以上に身を粉にして働――」

「そのことなんだが、実は俺からも大事な話があるんだわ! スタナさんの件があったから少し先伸ばしにしていたがな!」


 そう話を切り出してきたレスリーの表情はいつになく真剣であり、『クビ』の二文字が頭を過った。

 ただ、流石にこの話の流れでいきなりクビってことはないだろうし……そうなるとこの真剣な表情が分からない。


「レスリーから大事な話? 皆目見当もついていないんだが……何の話なんだ?」

「そう身構えなくて大丈夫だ! ジェイドにとって悪い話ではないからな! 実は……【シャ・ノワール】の別店を出そうと思っていて、そこを全てジェイドに任せようと思っている!」


 想像の遥か上をいったレスリーの言葉に、口を開けたまま固まってしまう。

 【シャ・ノワール】の別店……?

 

 それを俺に全て任せる……?

 あまりにも気が狂ったとしか思えない話に、俺はレスリーに詰め寄って話を聞いた。


「言っている意味が分からない。俺に別店を任せる? そもそも別店を出すことも知らないぞ!」

「そう慌てるなって! 三号店って言えるほど大きな店じゃないが、店を出すことは前々から決まっていたんだよ! 元々、二号店はヴェラじゃなくてジェイドに任せる予定だったし、別店はジェイドに任せようって思ってな! 急な話だと思うが……引き受けてくれるか?」

「俺なんかに務まるとは思えないんだが……」

「いいや、ジェイドにしか頼めないことだ! まぁこの一号店をジェイドに任せて、俺が別店を取り仕切ってもよかったんだが……全て一からやった方がジェイドに任せた方が上手くいくと思っている!」


 言っている意味は分かるが、未だに理解は追い付いていない。

 俺が店舗を取り仕切る……。

 本当に急な話しすぎて想像もできない。


「俺はレスリーとは逆で、上手くいくとは到底思えない。大丈夫なのか? そんな俺に任せて」

「大丈夫だからこうして頼んでいるんだろ! それに大繁盛している二号店があるし、そんな重く考えなくていい! 大きな店じゃないし、気軽に考えてくれ! ……それで引き受けてくれるか?」

「ついさっき、レスリーを幸せにすると宣言した以上――断ることはできないな。本当に俺でいいなら……引き受けさせてもらうよ」

「よし! 決まりだな! ジェイドなら引き受けてくれると思ったぜ!」


 軽い感じでそう言っているが、俺の心臓はバクバクと動いている。

 あの流れから断ることはできなかったが、本当に俺に務まるのか不安でならない。


 ……ただ、不安だけでなく、楽しみという気持ちがないといえば嘘になる。

 スタナのことに続き、俺の人生が大きく変わる出来事が続きすぎていて――正直、俺の気持ちは全く追いついていない。




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