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第302話 見送り


 挨拶とお土産の購入を済ませ、後はゼノビアに別れを伝えてから帝都を去るのみとなった。

 購入したお土産を持って兵舎へと戻ってきた俺は、部屋に置いておいた荷物を取ってから隊長室に向かったのだが……部屋の中には誰もいなかった。


 他の隊員に話を聞いたところ、どうやら俺を見送るために既に帝都の門へ行っているらしい。

 俺なんかのために見送りなんていらないって気持ちはあるものの、見送りに来てくれるのは素直に嬉しい。


 荷物を持って兵舎を出た俺は、門を目指した。

 相変わらず凄い数の人が出入りをしており、ゼノビアを見つけられるか不安だったのだが……帝国騎士だけが通ることのできる裏門辺りで腕を組んでいるゼノビアをすぐに発見した。


「ジェイド、遅いぞ。ずっと待っていたのに一向に来ないんだからな」

「見送りに来てくれるなんて知らなかったから、普通に世話になった人への挨拶とお土産を買っていた。俺なんかのために見送りなんていらないし、隊長室で待っていてくれれば良かったんだけどな」

「そう寂しいことを言うな。ジェイドのお陰で大きな手柄を挙げることができたし、これでも感謝しているんだぞ」

「あの……二人ってどういう関係なんですか? てっきり帝国騎士団の新入りだとばかり思っていたんですけど、ジェイドってもしかしてお偉いさんだったりしますか? 新人にしては随分とおっさんだなぁと思っていて不思議だったんですが、お偉いさんなら納得というか……あれ? 俺って失礼な態度を取っちゃってました!?」


 俺とゼノビアの会話を横で聞いていたアラスターが、焦った顔を見せながらそう尋ねてきた。

 人が聞いているところではタメ口で話さないようにしているし、アラスター目線では俺がいきなりタメ口で話しているのにも関わらず、ゼノビアがすんなり受け入れていることに驚いているのだろう。


「お偉いさんなんかじゃないから安心してくれ。単純に俺が敬語を使うのが嫌だってだけだ」

「そう。タメ口を使うなと言っているのに、ジェイドが勝手にタメ口を使ってきているだけだ」

「で、でも、受け入れているってことは……もしかして俺もタメ口で――」

「私は別に構わないが、その分私の稽古に付き合ってもらうぞ」

「う、嘘です! 冗談ですよ! ゼノビア隊長にタメ口なんて使う訳ないじゃないですか!」


 敬語を使おうとして、稽古という言葉が出た瞬間に取りやめたアラスター。

 あまりの慌てっぷりに思わず笑ってしまう。


「そうか。別に使ってくれても良かったんだけれどな」

「絶対に使いませんから安心してください! それよりも、ジェイドはこの後どこに行くんだ? 王国から来たって言っていたし、王国に戻るのか?」

「いや、一度エアトックに寄るつもりだ。お世話になった人がいるからな」

「へー、そうなのか。エアトックに寄るなら、私も一緒についていけば良かった」

「何か用でもあるのか?」

「いいや、今回の件でお礼を伝えたいと思っていただけだ。ジェイドを紹介してくれたのはアルバートだからな」

「なら、一緒についてくればいい。そこまで遠くないし、少しくらい抜けるのなら大丈夫じゃないのか?」


 せっかくの道中だし、ゼノビアと一緒に行けたら良いと思っていたのだが……心底残念そうに首を横に振った。


「隊長はそう暇じゃないんだよ。ジェイド目線ではトレーニングばっかりしていて暇に見えただろうがな」

「そうなのか。それなりに仕事があるんだな」

「なら、俺が一緒に行こうかな。エアトックには一回も行ったことないし」

「いや、アラスターも仕事が残っているだろ。昨日、経理部が文句を言っていたぞ」

「経理部……? あっ、この間の領収書をまとめたものを渡していませんでした!」

「エアトックに行っている場合じゃないな。ちゃんと仕事を片付けないと私も怒られる」


 ということは、ゼノビアもアラスターも行けないということか。

 元々エアトックへは一人で行くつもりだったのだが、行けるような雰囲気を出されたから期待してしまった。


「俺一人で行くのか。どっちかと一緒に行きたかったけどな」

「ジェイドが急に発つなんて言い出さなければ、私も予定を空けることができたんだけどな」

「確かに急に辞めると言い出した俺のせいか。……まぁ、また気が向いたら帝都には顔を出すつもりだし、その時は一緒にどこか出かけよう。帝都でもいいし、エアトックでもいい」

「それは楽しそうだな。帝都もエアトックも私はよく知っているし、おすすめの店を案内しよう」

「ゼノビアのおすすめの店か。どんな店なのか予想もつかないし楽しみだな」


 帝都に来た時の楽しみが増えた。

 アルフィとセルジも交えても面白そうだし、レスリーやヴェラを帝都に連れてきても面白そう。

 大袈裟に別れを伝えているがクロがいなくなった今、俺はちゃんと自由の身だからいつでも会いに来ることができる。


「それにしてもジェイドは凄いな。ゼノビア隊長がこんなに楽しそうに話しているの見たことがないぞ」

「そうなのか? 割とこんな感じだし、いつも楽しそうに話しているけどな」

「んんッ! 私のことはいい! それより、そろそろ出発するんだろ? ゼノビアが感謝していたと、アルバートによろしく伝えてくれ」

「ああ。しっかりと伝えさせてもらう。……それじゃ短い期間だったが、本当にお世話になった。また近い内にお礼を言いに来させてもらう」

「ああ、また会えるのを楽しみにしている」


 手を振って見送ってくれたゼノビアとアラスターと別れ、俺はエアトックを目指して歩を進めた。

 帝都でも色々なことがあったが、ようやく全てを終わらすことができた。

 ぐるぐると感情が渦巻きながらも――俺は前を向いて歩みを進めたのだった。



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