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第292話 即決


 帝城、『グランプーラ』の潜入調査を終えた翌日。

 俺は朝一番でゼノビアの下へとやってきた。

 部屋の扉を開けると、既に準備を済ませている様子のゼノビアが剣を振っており俺を待っていた様子。


「おっ、今日は随分と早かったな! 私の方はもう準備が整っている。早速今日も指導をつけてくれ。昨日指摘された突きまでの動作を見直しているんだが、何度試してもしっくりこなくてな」


 納得いっていない様子で首を振りながら、突きまでの動作を何度も反復している。

 パッと見た限り、突きを放つための動きになってしまっているところが一番駄目なのだが、その指摘は後で行うとして……。


 今日、朝一でやってきたのは少しでも長く指導を行うためではない。

 昨日得た情報を話して、帝国騎士団の助力を得られるのかの確認をしに来た。


「やる気満々のところ悪いが、この時間に来たのは指導をするためじゃない。一つ相談があって朝一で来させてもらった」

「ん? 相談って何だ? まさかもう辞めるとかではないよな!?」

「まだ辞めるつもりはない。相談っていうのは、昨日『モノトーン』のアジトに潜入してきた。その際に違法ドラッグの隠し場所を見つけたんだが、ゼノビアが先導して押さえることができないかを尋ねたい」

「……はぁ? 『モノトーン』のアジトに潜入した? 一体何をしているんだ!」


 ここでようやく剣を振る手を止め、俺が持ち出した話題に食いついてくれた。

 勝手にやったことは申し訳ないとは思うが、事前に相談したら確実に止められただろうしな。

 無断で潜入し、事後報告という形しか俺には選択の余地がなかった。


「無断で潜入に踏み切ったのは悪かったと思うが、相談したら確実に止めていただろ? そもそも俺が帝国騎士団に入隊したのは、『モノトーン』を調べるためだったんだ」

「そんな話一切聞いていないぞ。アルバートは執政官がうんたらかんたらとは言っていたが、ジェイドは『モノトーン』が目的だったとは……」

「まぁ本当の目的はその執政官だから、兵士長の話に間違いはない。それよりも『モノトーン』のアジトを一番隊で押さえることは可能なのか?」


 ゼノビアは腕を組んで、首を捻りながら必死に考えている。

 俺の予想では二つ返事で了承してくれると思っていただけに、悩んでいる様子なのは少し予想外だ。


「……まずは上に報告しないといけない。相手が今一番危険とされている『モノトーン』だからな。私の一存で動かすことはできない。私は一切疑っていないが、その違法ドラッグの場所についても確証がないと駄目だ」

「そんな手順を踏んでいたら、確実に取り逃すことになるぞ。秘密裏且つスピーディーに事を進めたい」


 そもそも帝国騎士団の上にまで話が言ってしまうと、クロの耳にも届いてしまう可能性がある。

 できればゼノビアが独断で決め、一番隊を動かしてほしいのだが……判断に困っているようで組んでいる腕の力がより強くなった。


「……私の独断で決めろというのか。仮に失敗したら、隊長であれど一発でクビもあり得る話だぞ」

「分かった上で相談している。ちなみにできないならできないで構わない。ただ、このことを上に報告するのだけは止めてほしい」

「分かった。無理という判断をした際でも、ジェイドからは何も聞かなかったことにする。それと……少し考える時間をくれ。二つ返事で答えることはできない」

「もちろん即決してくれとは言わない。それじゃ俺は一度部屋に戻る。指導についてはいつもと同じように行うから、訓練場に集合で大丈夫だよな?」

「ああ。よろしく頼む」


 腕を組んで悩んでいる様子のゼノビアと別れ、俺は隊長室を後にした。

 想像していた返事とは違ったが、しっかりと口外しないことは約束してくれたしどう転んでも大丈夫なはず。

 ひとまず自室に戻り、引き受けてくれなかった場合に備えて色々と作戦を立てておくとしよう。



 作戦を考えている内にあっと言う間に時間が経ち、ゼノビアに指導するため訓練場へと向かう。

 帝国騎士団の助力を得られなかった場合の作戦も立てたものの、やはり助力があった方が動きやすいことに違いはない。


 良い返事を貰えるように、しっかりとゼノビアに指導をつけよう。

 そう考えて訓練場に出ると、既にゼノビアの姿があった。


「もう剣を振っていたのか」

「一時間くらい前から剣を振っていた。さっきも言ったが動きに納得がいかなくてもやもやしていてな。早速指導の方をお願いしてもいいか?」

「もちろん。動きを見て、気になったことが既にあるしな」

「あの短時間で見つけていたのか! まだまだ動きが甘かったということを思い知らされるよ。……あー、それとさっきの話は引き受けることにした。指導を終えた後でもう一度詳しい話を聞かせてくれ」


 なんてことない話から一転、引き受けるという言葉を口にしたゼノビア。

 まだ返事がもらえると思っていなかったため、一瞬頭がこんがらがったが……確実に引き受けると言ってくれたよな?


「引き受けると言ったのか? そんな簡単に引き受けていいのか? まだ考えてもいいんだぞ」

「簡単に決めた訳じゃない。考えた上で決めたことだ。ジェイドのためということではなく、『モノトーン』を追い落とすチャンスがあるなら狙わない手はないと判断した。成功すれば、私の評価は一気に上がるしな」


 クールに笑いながら、そう言ったゼノビア。

 この決断をしてくれたのは本当にありがたい。


「ゼノビア、本当にありがとう。まずは……先に指導をつけさせてもらう。懇切丁寧に教えるから期待してくれ」

「それはありがたいな。とことん厳しくして構わないから、私を強くしてくれ」

「ああ。とことん厳しく指導させてもらう」


 ゼノビアに感謝しつつその恩を少しでも返すべく、俺は昨日まで以上にしっかりと指導することを決めた。





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