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第286話 力量差


「……ジェイド、生きるんだぞ。それでは合図を出させて頂きます! 試合開始!」


 アラスターは小さな声で俺の心配をしてくれた後、試合開始の合図を出した。

 合図と共にゼノビアは飛び出し、いきなり小手を狙った打ち込みを仕掛けてきた。


 静止した状態から放たれたとは思えない鋭い打ち込みだが、俺は手首を返しながら楽に受け止める。

 ゼノビアは小さく声に出して笑うと、引くことはせずに連続で打ち込んできた。


 金属の鎧のせいで筋肉が見えない上に、フェイントも織り交ぜてくるため攻撃が非常に読みづらい。

 グレートヘルムで視界も悪いしな。


 それでも一発も攻撃を食らうことなく、ゼノビアの猛攻を受けきっていく。

 徐々にゼノビアの攻撃のタイミングを掴み始め、型にハマった戦い方をしてくれているお陰でもう八割は対応できる状態まで読み切ることができている。


 流石は帝国騎士団の隊長なだけあってレベルは高くはあるが、エイルのような馬鹿みたいな力がない分苦戦はしなさそうだな。

 様々な攻撃を工夫を凝らして攻めてきてはいるが、未だに一発もクリーンヒットしていないことに徐々に焦りを感じ始めた様子。


 そんな焦りからか雑に剣を振ってきたところに合わせ――初めて俺からも攻撃を行い、ドンピシャに合わせた剣は脇腹にクリーンヒット。

 ここまで完璧にやられた経験が久々……もしくは初めてだったのか、一発当ててからは目も当てられないぐらいに勝手に崩れ始めた。

 

 昨日もそうだったが、毅然としているようでメンタルが思っている以上に弱い。

 もう少し楽しめると思っていただけに残念だが、試合を終わらせにかかろう。


 雑に振ってくる攻撃に合わせて完璧に木剣を叩き込んでいき、脳天に思い切り打ち込んだ瞬間、ゼノビアは膝から地面に倒れ込んだ。

 模擬戦のルールを聞いていなかったが、クリーンヒットの回数で勝敗が決するはずなのだが、五十発くらいは入れた気がする。

 審判をやっているはずのアラスターに顔を向けると、ここでようやく試合終了の合図を出した。


「しゅ、終了ですね! …………お、俺はそろそろ仕事に戻らせて頂きます! ま、またいつでも呼んでください!」


 重苦しい空気に耐えかねたアラスターはそう告げると、素早い足取りで兵舎に戻っていってしまった。

 俺もなんて声をかけたらいいか分からないし、また昨日のようにムキになるのではと思っていると、ゼノビアはグレートヘルムを脱ぐと自らゆっくりと立ち上がった。


「……完敗だ。ここまで派手に負けたのは記憶にない。昨日からおかしいと思っていたが、ジェイドは一体何者なんだ?」

「詳しい素性を言うつもりはない。ゼノビアもその年齢にしては練度が高かったと思うぞ。俺に完敗したからといってそう気落ちすることはない」

「慰められるとムカムカとしてくるな。まぁでも、やり返してやろうと思わないぐらいには完璧に負けた。……素性は明かさなくてもいいが、いつまで帝国騎士としているかは教えてくれ」

「それも今のところは分からないってのが答えだな。ただ、最低でも二週間は居させてもらうつもりだ」

「最低でも二週間しかいないのか。二週間……」


 なるべく早くヨークウィッチには戻りたいが、最低でも二週間はかかるだろう。

 クロの出方次第な部分もあるし、何をするにしてもまずは『モノトーン』をどうにかしないと始まらない。


「神妙な顔で呟いてどうした? 早めに抜けたらまずいとかあるのか?」

「いや、そんなことはないぞ。一日で辞めていく奴が大半だから問題にもならない。ただ……私個人として、ジェイドに頼みたいことができた」

「ゼノビアが俺に頼みたいこと?」

「ああ。……私は指導してほしい! 帝都に滞在する期間だけで構わないから、何とか頼めないか? もちろんその分の仕事は全て免除させてもらう」


 正直想像もしていなかったお願いに面食らってしまう。 

 ただ、指導をするだけで仕事が免除されるなら、俺としても悪い話ではない。

 トレバーとテイトで指導経験もあるから、抵抗感もそこまでないしな。


「仕事を免除してくれるなら構わない。ただ、仮にも隊長が指導を受けるっていうのは組織的に大丈夫なのか? 他の騎士の目を引きそうに思えるが」

「全然問題ない。見ての通り、一番隊の連中は私の訓練に近づこうともしてこないからな。何なら側近ってだけで避けられているだろ」

「確かに、アラスター以外からは話しかけられてすらない。どれだけ恐れられているんだ」

「女が騎士団の隊長をやるってなったら、これくらいはやらないと駄目なんだよ。とりあえず交渉は成立ってことで大丈夫だな。明日からみっちりと稽古をつけてくれ」

「分かった。仕事を免除してもらった分、しっかりと稽古をつけさせてもらう」


 変な約束を交わすことになったが、俺としても悪い話では決してない。

 それに兵士長に頼まれたからといっても、俺を帝国騎士団に入団させる手引きをしてくれた訳だしな。

 その分の対価を払うって訳ではないが、ゼノビアを強くするための稽古をつけてあげるとしよう。



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