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第283話 不羽向き


 昨日教えてもらった場所を転々としながら『モノトーン』について聞き込みをしつつ、最後に『モノトーン』の構成員がよく集まるという酒場にやってきた。

 表向きは普通の酒場なため、誰でも気軽に入ることができるのだが……今の俺の恰好は甲冑にグレートヘルムを身に着けた帝国騎士丸出しの姿。


 酒場に入るなり、盛り上がっていた場が一気に白けたのが分かる。

 ありとあらゆる方向から睨みつけられながらも、俺は一切気にせずにカウンター席に腰を下ろした。

 気になるのが、一般の客からも睨まれていることだな。


 酒を飲みながら情報を盗み聞きできればと思っていたのだが、この雰囲気じゃ何も喋りはしないだろう。

 一般人でも入れる酒場と聞いていたが、流石にこの恰好はまずかったな。


「おすすめの酒を一杯頼む」

「……お飲みになられるんですか?」

「飲んだらまずいのか?」

「……いえ。それではお作りさせていただきます」


 店員の態度もよそよそしく、完全に歓迎されていないのが分かる。

 帝国騎士といえば市民からは慕われていそうな感じがあったのだが、この恰好で帝都を歩いてみて分かったことは、予想していた以上に疎まれている存在だということ。


 それだけ厳しく取り締まっているということだろうが、この店の中にもいる如何にもガラの悪そうな奴よりも歓迎されていないのは意外だった。

 適当に頼んだ酒が提供され、俺は自棄に静かな店内で飲んでいると――痺れを切らした一人がわざとらしく雑な感じで俺の隣に腰を下ろした。


 座った人間を横目で見てみると、右目だけが真っ黒な男が顔を寄せて睨みつけている。

 何かの能力か、それとも義眼なだけなのか。気になるが、今はそこを気にしている場合ではないか。


「……何か俺に用か?」

「そりゃあ、こっちの台詞じゃボケ。帝国騎士が何の用で単身乗り込んできたんだ!? あァ?」

「何の用って酒を飲みにきただけだ。見たら分かるだろう」

「ただ酒に飲みに来ただけなら、その大層な鎧と兜は外すのが礼儀ってもんだ! こっちも楽しく飲んでいたってのに水を差されちまった! 特に用がねぇってんなら出て行ってくれねぇか?」


 片目のおかしい男がそう言った瞬間、店内が便乗するように俺に対してのヤジが飛び交った。

 とてつもないアウェーだが、顔が隠れていることもあって、どこか他人事のように感じられて面白い。


「――おい、何笑ってんだ? 帝国騎士なんかを受け入れている店じゃねぇってのが分からねぇのか?」

「一つ忠告だが手は出さない方がいいぞ。今の状態の俺は本当に何でもできてしまう」

「はっはっは! 脅しにすらなってねぇぞ。この店の中にいるのは全員お前の敵であって、逆にお前は一人だけ。このまま誰にも見つけられないよう、殺すことだってできるんだからな。まずはテメェの面を見せろや!」


 とうとう痺れを切らしたようで、俺のグレートヘルムに手を伸ばしてきた片目がおかしい男。

 『モノトーン』の構成員が集まる治安の悪い場所と知っていて、こんな格好で乗り込んだ俺も悪いんだが……。


 手を出すなと言ったのに、手を出してきたのは流石に頂けない。

 俺はグレートヘルムを掴んできた男の手首を掴み、一瞬で手首の関節を外した。


「――いでえ! くっそがァ!」

「手を出すなと言ったはずだぞ」

「おい、やっちまっていいぞ! この帝国騎士を殺せ!」


 関節が外れた手首を押さえながら、そう指示を飛ばした片目のおかしい男。

 その声に反応するように、周囲にいた人間が一気に俺に殴りかかってきた。


 これまでは目立たないように動いてきたが、この恰好なら好きなだけ暴れることができる。

 水を得た魚のような気分であり、俺は襲い掛かってきた人間を次々と投げ飛ばしつつ、関節を的確に外していった。


 あっという間に六人の人間が腕を押さえながら地面に転がり、その様子を見て襲い掛かるに掛かれなくなっている他の人間。

 片目のおかしな人間も言葉を失っており、俺はそんな男に近づき――肩に担ぐように抱えて店からの逃走を図る。


 意味の分からない俺の行動に周囲の人間は一瞬固まっていたが、片目のおかしな人間が連れ去れたと分かるや否や、俺を追いかけてきたのだがもう遅い。

 屋根上に一気に駆け上がると、そのまま全員を撒いての逃走に成功した。


「おい、離せ! こんな真似してどうなるか分かってんのか!?」

「少し黙っていろ。もうすぐ着く」


 暴れ回っている男を担いだまま、俺はとある空き家まで連れてきた。

 そして、そのまま空き家の地下へと向かい、男を投げ捨てるように地面に下ろす。


 この場所は暗殺者時代に拷問部屋として利用していた、誰も寄り付くことのない空き家。

 主に口を割らせる時に使用しており、たまに殺しにも使っていた誰も立ち入らない俺にとっての隠れ家的な場所。


「……お、お前何者だよ。俺をどこに連れてきた」

「さっきのお前の――“このまま誰にも見つけられないよう、殺すことだってできる”って言葉を聞いて、一つ思いついてしまったんだ。ここはとある家の地下で誰も立ち入らない場所。あとは皆まで言わずとも分かるだろ?」

「ちょ、ちょっと待て。いや、待ってください。あ、あれは冗談で、お、脅しとして言ってしまった、だけなんだ。こ、殺さないでくれよ。な、な?」


 全てを察した片目のおかしな男は、体を震わせながら命乞いを始めた。

 俺がこの男を拉致った理由は二つ。


 一つ目は、あの酒場が『モノトーン』の溜まり場であり、この男が『モノトーン』の構成員である可能性が高いこと。

 二つ目は、この男が周囲の人間に指示をしていたことから、少なからず上の立場にいる人間である可能性があること。

 

 この男からなら情報を引き出せると踏んで、リスクを承知であの場で拉致することを決めた。

 白昼堂々とした犯行だったが、帝国騎士に拉致られたってこと以外は何も分かっていないだろうし、こいつが『モノトーン』だったら対処の仕様もないだろう。


 帝国騎士に扮して顔を隠すだけで、ここまで目立った行動が取れるとは想像していなかった。

 怯え切っているし情報もすぐ吐くだろうから、さっさと『モノトーン』について聞き出すとしよう。



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