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第282話 複数の顔


 もちろんのことながら、俺はブレナン・ジトーとクロが同一人物であることは知っているが、これまで出会った人の中でそのことを知っている人間は一人もいなかった。

 他の顔を持っていると知っているだけで、ケイティの情報の信用度はかなり増す。


「他の顔を持っているというのはどういうことだ?」

「まずは表の帝国で指折りの執政官という誰もが憧れる一面。もう一つは孤児院を経営しているという慈悲深いという一面。そして、極悪組織『モノトーン』を束ねている裏の一面の三つの顔があるのよ」

「『モノトーン』についても調べようと思っていたんだが、ジトーと『モノトーン』が繋がっているのか?」

「ほぼ間違いないわね。あまり知られていないけれど、ジトーが経営している孤児院から『モノトーン』に加入した人間が何人かいる。孤児院を出た人間に対して本当に僅かではあるけど、その人間のほとんどが幹部になっているわ」


 話を聞いて、早速知らない情報が出てきた。

 孤児院を経営していたことも知らなかったし、その孤児院と『モノトーン』が繋がっていることも知らなかった。


 それにしても孤児院か……。

 俺も両親がいないところをクロに拾われて育てられた。


 そのせいもあってか、命令に従順な暗殺者として動いていた自負がある。

 そのことにはもちろんクロも気づいていて、孤児院を経営することで有能で命令に従う人間を効率よく育て始めたのだろう。


 表向きでの印象も良く、有能な手足を育てるのもうってつけ。

 実にクロらしい考えであり、ケイティの情報が本当だと俺は確信が持つことができた。


「世間の評価を得つつ、自分の手駒を育てる。評判と違って随分とあくどいことをやっているんだな」

「あくどいことをやっていると知っているから調べているんでしょ? とにかくジトーは化け物よ。各方面で得た大金を使って様々な人間を買収していて、もはやその手がどこまで届いているのか分からない。ジトーについて調べたら死ぬとまで言われているわ」

「そりゃおっかない話だな」

「……全然怖がっているようには見えないけれど。とにかくジトーについての情報はこんなもの。私でさえ全然情報を得られないのよ」

「いや、十分な情報を得ることができた。ちなみにだが、ジトーが今いる場所というのは分かるか?」

「大勢に知られている割に、姿を見たという情報が出回っていないの。ここ半年以上は目撃情報もないわね」


 半年以上も目撃されていないということは、帝都にいない可能性もあるのか?

 そうだとしたら振り出しに戻ってしまい、俺がこうして帝都に潜り込んでいる理由もなくなる。


「別の街や他の国にいるってことか?」

「いえ、帝都から出たって情報もないのよ。目撃情報もなく、帝都から出た情報もない。一切の情報がない訳だけど、そうなると現在のいる場所が自然と浮かび上がってくるでしょう?」

「……? すまないが、俺には見当もつかない」

「ジトーを調べている割に察しが悪いわね。そんなことじゃ、あっさりと見つかって殺されるわよ」

「いいからどこにいるのか教えてくれ」

「帝城よ。帝都からは常に見えるあの城。ちなみに帝城に出入りしている『モノトーン』の人間の目撃情報はある。だから、ほぼほぼ城にいることは確定しているわ」


 長年、裏組織のボスとして動いていた人間が帝城を拠点にしている。

 本気で訳の分からないことになっているが、表向きの顔が有能な執政官なら違和感はない。


 それに一番目立つが、一番安全なのは間違いなく帝城。

 帝国騎士団の精鋭で構成された近衛兵が常駐しており、自分の手駒である『モノトーン』も配備。


 侵入も簡単に許さない造りとなっていて、帝都のどこからでも見ることができるほどの大きな建物。

 帝城にいることが分かっていても、帝城のどこにいるのかを探すのも難しい。


 クロに辿り着くまでにいくつもの高い壁があるのにも関わらず、クロ自身の腕も立つときている。

 帝城に侵入して、クロの下に辿り着くのは現状ほぼ不可能だな。


「なるほど。帝都内にいるのはほぼ確定しているのか」

「居場所は分かっているけど会うのは無理だけれどね。何なら帝都から出ていてくれていた方が会えるチャンスはあったかもしれないわ」

「……とにかく貴重な情報助かった。正直、ここまでの情報を持っているとは思っていなかったな」

「ご期待に沿えたなら良かったわ。情報料は金貨一枚頂くけど大丈夫かしら?」

「いや、俺の中での価値はもっとあった。受け取ってくれ」


 ケイティ的には金貨一枚でも吹っ掛けてきたつもりだろうが、俺としては金貨一枚よりも価値があった。

 ホルダーから金貨を七枚取り出し、ケイティに手渡す。


「……え? なに、この額」

「俺からの気持ちだ。今後も贔屓にしてもらえるようにのな」

「ここまで訳の分からない額を渡されると、嬉しさよりも恐怖が勝るのね。本当にもらっていいのかしら? 返さないわよ」

「構わない。その代わり、俺がジトーについて調べていたことは他言しないでくれ」

「他言はしないと言っているでしょ。安心していいわ」

「それなら良かった。それじゃ俺はもう行かせてもらう。また何かあったら情報をくれると嬉しい」

「ええ、いつでも来ていいわ。まだ二回目だけど常連扱いにしてあげる」

「それはありがたい」


 ケイティに礼を伝えてから、俺は質屋を後にした。

 ここからはもうクロについては調べなくてもいいかもな。


 ここから足を使って調べるのは『モノトーン』について。

 クロやジトーについて調べるよりは何倍も危険性は低い。

 一応警戒しつつ情報集めはするつもりだが、サクッと調べてしまおう。


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