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第261話 兵士長


 兵士長室の中に入ったのだが、思っていた以上に質素な造りで驚いた。

 少し前に地下室にあったホーウィーの部屋を見ているということもあったが、俺が寝泊まりしている安宿の部屋よりマシ程度。


 奥に薄い布団が置かれており、手前には申し訳程度の机と安い木材で作られた椅子。

 その椅子に窮屈そうに座っている大柄の男が兵士長だろう。


 座っているため正確な身長は分からないが、恐らく二メートルは超える大柄な体で筋肉ははち切れんばかりに盛り上がっている。

 髪の毛はサラサラの金髪のマッシュルームヘアなのに、真っ黒で剛毛な髭を蓄えているミスマッチさが非常に危険味を感じる。


「おーう! アルフィ、戻ってきたな!! 後ろの奴が例の情報提供者か?」

「はい、協力して頂きました! ジェイドさんという行商人の方です」

「行商人だと!? それにしては俺以上に強そうな男じゃねぇか!」


 見た目通りの馬鹿デカい声量で、狭い部屋も相俟って耳がキンキンとしてくる。

 エイルもそうだったが、やはり武力を有する組織のトップは脳筋が多いのかもしれない。


 ただ……今の俺は気配を意図的に押さえている状態。

 そんな俺を見て、自分以上に強いと評価してきたのは審美眼には優れているということ。


「行商人をしているジェイドという。今回提供した情報について聞きたいんだったよな?」

「ああ、そうだ! アルフィとセルジの話がどうも嘘臭かったから、いつものように適当なことを言っているんじゃねぇかと思ってよ! 本当の情報とは思っていなかったんだが、情報提供者がいるとなると事実なのか?」

「ああ、本当の情報だ。この目で実際に見た情報だから間違いない」

「ほーう! よしっ、そういうことなら早速突撃するとしようか!!」


 もっと根掘り葉掘り聞かれると思っていたのだが、兵士長は想像以上にあっさりと信じてくれた。

 こんなに簡単に信じるのであれば、別に俺がわざわざ顔を出す必要がなかったのではと思ってしまう。


「ええっ! そんなに簡単に信じるんですか! まだ何も聞いていないじゃないですか!」

「俺ァ、お前とセルジの情報を猛烈に疑っていたんだよ! ジェイドとやらは一切疑っていないし、そりゃ信じるに決まってるだろ!」

「ひ、酷すぎます! 一応、僕とセルジさんは兵士長の部下ですよ!」

「一応じゃなくて、正式な部下だろうが!! ったく、信じたら信じたでうるせぇな! ……なら、ジェイドにも今回の任務についてきてもらうか? 兵士の誰よりも戦えるし、大きな戦力だから手伝ってくれるのはありがてぇ」


 俺も疑問に思っていたことだが、アルフィの一言で協力を要請される形になってしまった。

 別にやることもなかったし、協力しても構わないのだが……俺は組織で動くのは得意ではないんだよな。


「別に協力しても構わないが、その場合は報酬は貰えるのか?」

「もちろん当たり前だろ! 成功しようが失敗しようが、情報が本当で足を引っ張らなかった時点で正当な報酬は渡すぜ? 悪い話ではねぇだろ?」

「そういうことなら協力させてもらう」

「えっ! ジェイドさんも来るんですか? セルジさんもきっと喜びますよ! うわー、地下通路に行くのが楽しみだなぁ!!」

「楽しみにしてどうすんだ馬鹿が! ったくよ……とにかくジェイドにはアルフィとセルジの馬鹿が、余計なことをしないように見張っててくれりゃそれでいい!」


 呆れた様子で俺にそう言ってきた兵士長。

 『クレイス』で兵士長の愚痴を聞いていたから、かなり難儀な性格をした人物だと思っていたが……こうして実際に話してみると、悪いのはアルフィとセルジだということが分かる。


 俺の付き合い方なら一切のストレスはないが、仮にアルフィとセルジの二人が自分の下で働くとなったら半端ではないストレスがかかるだろう。

 そんなことを今のやり取りを見て切実に感じた。


「分かった。二人からは目を離さないようにしておく」

「よろしく頼んだぜ! 馬鹿だが、これでも信頼できる兵士ではあるからな! 俺が庇いきれないくらいの問題を起こして、クビになっちまうのは避けてぇんだわ!」

「僕とセルジさんのことをそんなに買ってくれていたんですね! でも、ジェイドさんを護衛するのは僕達兵士ですから!」

「悪事に手を染めないっていう一点のみだけだがな! バカだからちっちゃな悪事にも誘われねぇだろ!」

「そんなことないですよ! 僕達は誇りを持って兵士をやっているんで悪事には手を貸さないだけです!」


 笑いながらアルフィを小馬鹿にしているが、本当に信頼しているというのが分かる。

 かなり抜けているところはあるが人としては良い二人だし、兵士長が裏切り者を探せという任務を与えるくらいに信頼を置くのも俺は理解できる。

 想像していなかった微笑ましい光景に、なんとなく『シャ・ノワール』のことを思い出しながら、俺は二人のやり取りを静かに聞いた。



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