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第255話 眼力

 

 ひっくり返した五つのカップの、真ん中のカップに白金貨を入れたホーウィ。

 ここからホーウィーがシャッフルを行い、真ん中のカップに入れた白金貨の行方を目で追うという単純なゲーム。


「それではシャッフルさせてもらいますよ。目で追ってくださいね」

「いつでも始めてくれて構わない」


 俺の返事を聞いてから少しニヤつき――五つのカップを高速でシャッフルし始めた。

 やり慣れているのか想像以上に高速でシャッフルされており、黒いカップに黒いテーブル。


 更に室内も薄暗いことから、めちゃくちゃ見えにくい状態になっている。

 俺は夜目が効くため、この状況でも目で追えてはいるが……常人なら何も見えないまであるな。


 そこからはひたすらに白金貨の入ったカップを見失わないように目で追っていたのだが、途中からホーウィーは変な動きを見せた。

 左手側をわざと音が鳴るようにカップを動かしており、一瞬俺の注意を逸らすためのものかとも思ったが、ここまでで一番大きな音を鳴らしたと同時に、白金貨の入ったカップを机の端から出すように動かし――白金貨を机から床に落とした。


 わざとらしく音を鳴らしていたのは注意を向けると同時に、本命のカップから注意を逸らす目的だったらしい。

 その隙に白金貨を下に落とし、全てのカップの中に白金貨が入っていない状況を作り出した。


 まぁ目で追えていなかったとしても、五分の一で当たってしまう。

 その可能性を潰すための細工ってところだろうか。


 ホーウィーは白金貨を目で追えとしか言っていないし、この行為はせこくはあるがイカサマには入らないだろう。

 どちらにせよ俺は床に落としたところを見ているため、何も問題はない。

 ここからはカップを追っていても仕方がないし、カップから視線を切ってシャッフルが終わるのを待った。


「――ふぅー。こんなものでいいでしょう。どうですか? 中々のものだったでしょう」

「ああ。ここまで練度が高いとは思ってはなかった」

「ふふふ、私の趣味の一つですからね。それで……白金貨の行方は追えましたか?」


 コインシャッフルが趣味なのか、それともイカサマを疑った人間を懲らしめるのが趣味なのか。

 表情からは後者だと思ったが話が脱線してしまうため、その質問をすることなく返事をした。


「ああ、しっかりと全て見えていた」

「ほー。その言葉がハッタリではないことを祈っています。それでは白金貨はどこにあるか答えてください」


 白金貨が床にあるところまでは見ていないため、別の場所に隠した可能性も少しは考えていたが、あの位置から考えたら白金貨は床に落ちたと決めていい。

 俺は白金貨が入っているカップを一瞬だけ指さしてから通り過ぎ、ホーウィーの足元を指さした。


「白金貨は下に落としただろ。ミスディレクションも完璧だったし、俺以外なら欺けたと思うぞ」

「…………なるほど。見破られたのは初めてですね」


 ここまで常に穏やかな表情を浮かべていたホーウィーだったが、急に無表情になると机に置かれたカップの回収を始めた。

 俺が指摘した通り、どのカップの中にも白金貨は入っておらず、先ほどの白金貨を床から拾い上げて机の上に置いた。


「俺は本当に目が良いからな。ただ……本当にイカサマを見破れる眼力があったとしても、今のを見破れる人間はいないだろ」

「本当にイカサマを見破れるかどうかなんてどうでもいいんですよ。黙らせることができればね。……対面した時からなんとなく嫌な予感がしていたのですが、本当に見破られるとは思ってなかった。本当に予想外で反応に困ってます」


 四人の黒服の顔も焦っているのが分かり、本当に一度も見破られたことがなかったというのが分かる。

 地下に賭場があることや、そこでイカサマを行われていることを触れ回られることを恐れているようだが、俺はそんなことをするつもりはない。

 ……まぁこの賭場に繋がる地下通路のことは、ヴィクトルの件でアルフィとセルジに報告するつもりではいるけどな。


「こうなったら実力行使で黙らせた方がいいんですかね? 流石に五対一なら勝てるでしょうし、ここで殺してしまえば誰にも気づかれずに処理できます」

「それはやめておいた方がいい。俺と対面していた時から嫌な予感がしていたなら、その選択が間違いだということも分かるだろ?」

「ハッタリが上手いのか、それとも事実なのか。ずっと読めないのが本当に気持ち悪いね」


 俺の目をずっと見つめながら、恨めしそうに呟いたホーウィー。

 無表情になった辺りから紳士的な雰囲気は完全に消え去り、素であろう悪人の顔が表に出続けている。


「どう捉えてもらっても構わない。俺は約束通り白金貨二十枚と質問を一つ答えてくれるなら、この賭場でイカサマを受けたということを触れ回るつもりはない」

「その約束をしてくれるなら穏便に済ませよう。言葉の真偽がどちらであれ、実力行使に出た場合はこちらが痛手を負うのは分かるよ」

「賢明な判断だと思うぞ」


 一瞬構えた黒服達だったが、ホーウィーがそう発した瞬間に気をつけの姿勢に戻った。

 統率は取れているし、しっかりとした実力者ではあるのだろうが……黒服達はよくて冒険者でいうところのプラチナランクレベル。


 いくら束になろうが俺に勝てる人間ではないため、拳を下ろたのは本当に賢明な判断。

 実力行使で来られた場合、俺が負ける可能性はゼロだが後処理が本当に面倒くさいし、この場が穏便に済むなら俺としてもありがたい。



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