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第245話 張り込み


 その後は軽く雑談をしてから、二人と別れて詰所を後にした。

 外は日が落ちかけており、そろそろ夜になる時間帯。


 夜になると途端に人の動きがなくなるため、ヴィクトルとの接触は明日に持ち越そうかとも思ったのだが……。

 悪事を働いているとしたら、夜に動く可能性の方が高い。


 昼間も見回りと偽ってどこかに行っていたようだし、足取りを掴むならこの時間帯から尾行するのがいいかもしれないな。

 そんな考えから宿屋に戻ることを止め、俺は再び中央通りの詰所へと向かった。


 詰所の中には兵士二人とヴィクトルの姿が確認でき、しばらく見張っていると身支度を整え始めたヴィクトル。

 どうやら帰路につく準備をしているらしく、少しでも遅れていたら見失っていただろうし、すぐ駆けつけたのは正解だった。


 ヴィクトルが二人の兵士に見送られながら詰所を後にしたところを、俺は屋根上を伝って尾行を開始する。

 向かっている方向は一応兵舎がある方向。


 このまま兵舎に戻るなら期待外れもいいところだが、ヴィクトルは周囲を確認して誰もいないことを確かめると、中央通りにある家具屋に入って行った。

 営業しているのかどうかも怪しく、店前に値札のついた椅子と机が置かれているため、なんとか家具屋だということが分かる寂れた店。

 

 中央通りにこんな店があることも不思議だが、そんな店に仕事帰りで入って行ったことが違和感でしかない。

 『クレイス』のような穴場のバーの可能性もあるが、十中八九悪事に利用している店だろう。


 ヴィクトルの後を追って店の中に入るか、それともヴィクトルが出てくるまで待つか。

 店に入るとしたら、音を立てないように侵入して様子を覗いたいが、店の入り口から狭すぎるため隠れるスペースがなく隠密行動は取れそうにない。

 接触する前に騒ぎを起こしたくないため、俺は外でヴィクトルが出てくるのを待つことにした。

 


 ヴィクトルが寂れた家具屋に入ってから、約二時間ほどが経過。

 未だに動きは一切なく辺りは静まり返り始め、エアトック特有の夜の雰囲気に変わってきた。


 この家具屋に長居する何かがあるとは思えないし、やはり中で何かが行われているのは間違いないか。

 一つ気になるのは、建物の中から気配を感じ取れないこと。


 時間が経つごとに潜入したい気持ちが強くなってくるが、ここは我慢してヴィクトルが出てくるのを待つ。

 そうしてひたすらに待っている間に夜が明け、いつの間にか人通りが増えてきた。


 見張ってから半日が経過したが寂れた家具屋からヴィクトルは出てこず、ただただ時間だけを無駄にしてしまった。

 情報を集めるために尾行は数えきれないほど行ってきたが、ここまで何も得られなかったのは初めてかもしれない。


 もう数時間だけ粘り、出てこなかったら一度詰所に戻ってみよう。

 このまま張り続けても得られる情報はないだろうし、ヴィクトルと一緒に勤めている兵士から情報を聞き出した方が有益。


 それから更に昼になるまで数時間粘ったが、家具屋からはヴィクトルはおろか人が出てくる気配はなく、結局何の情報も得られないまま尾行を取りやめることにした。

 これだけの時間を費やして手掛かりがゼロというのにもイラつきがあるし、リフレッシュするためにも一度ボロ宿に戻ってシャワーでも浴びたいところだが、現在地から中央通りの詰所まではかなり近い。


 気持ちを切り替えるために頬を軽く叩いてから、俺は中央通りの詰所に戻った。

 昨日、ヴィクトルのことを尋ねた際に返答してくれた兵士がいたらいいのだが……。

 そんな気持ちで詰所に戻ってきた俺の目に、驚く光景が飛び込んできた。


 詰所の中にいたのは――何食わぬ顔で座っているヴィクトルの姿。

 昨日からずっと見張っていたため、この詰所にいるというのは普通あり得ないこと。


 考えられるのは寂れた家具屋に裏口があり、そこから抜け出したとかだが、気配も探っていたしそもそも裏口はなかったと思う。

 となってくると、あの寂れた家具屋から別の場所に繋がっている地下通路があるとかだろう。


 地下通路がある時点で怪しさしかないし、あの寂れた家具屋は危険を冒してでも調べてみる価値がある。

 そして――ヴィクトルがここにいるということは、今はあの家具屋は手薄な可能性が高い。


 詰所で情報収集するのは取り止め、俺は戻ってあの家具屋に潜入する決意を固めた。

 想像していた以上に面白い情報を得ることができそうだし、見張っていた時間も無駄ではなかったな。


 一体あの家具屋から何が出てくるのか。

 さっまで感じていたイラつきは吹き飛び、俺はワクワクしながら来た道を引き返して、寂れた家具屋を目指して歩を進めた。



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