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第244話 能天気


 顔と気配を覚えたところで、俺はすぐに他の詰所に行って残る二人の怪しい人物との接触を試みた。

 一人は門にいる荷物検査を行っている兵士たちを取り仕切っている人物で、ボルクという名前の兵士。

 

 俺の三倍は横に大きい太った男で、ヴィクトルとは対照的に無償髭にボサボサの髪と清潔感は皆無の見た目で悪顔。

 遠目から三十分ほど観察している間にも不正な賄賂を受け取っていたり、持ち込み不可な物を持っていた人物から違法な徴収を行っていたりと、立場を利用してやりたい放題やっていた。


 二人が怪しんでいた通り、確実に悪い兵士ではあるが……行動が大胆すぎるし全てが雑。

 戦闘能力も低ければ纏っている気配も皆無なため、裏切り者ではなくただの小者の悪ってところだろう。


 接触を試みる必要もなく、ボルクは裏切り者って部分に関しては白と見ていい。

 ただし、今日見た光景はアルフィとセルジに伝えるつもり。


 それからもう一人の怪しい人物は、『バリオアンスロ』の拠点に一番近い詰所に常駐しているノルベルトという兵士。

 この兵士は常に詰所にいるようで、『バリオアンスロ』の構成員が北側エリアから出入りをする際の窓口のような役割を担っているとのこと。


 年齢は六十歳近く、優しい雰囲気を醸し出している老兵。

 戦闘の心得はありそうだが、年齢による老いで前線からはしばらく離れていると言っていた。


 怪しいと挙げていた三人の中で唯一ノルベルトだけは直接アプローチしたのだが、俺の見立てではほぼ白と見ていい。

 セルジの名前を出したということもあるが、自ら俺に色々と教えてくれたからな。


 『バリオアンスロ』と接点が濃い人物ではあるし、窓口を担っている部分もあって仲が良い獣人もかなり多そうではあったが、接触した限りでは白としか思えない。

 もしかしたら裏では悪い人間ってこともあるだろうが、現時点ではその可能性を追う必要はないはず。


 挙げてくれた人物全員を当たって、一番怪しいと思った人物はヴィクトル。

 一度アルフィとセルジに報告を行ってから、ヴィクトルと接触を図ってみようと思う。

 北側エリアの詰所を後にした俺は、西側エリアの詰所に戻ることにした。



 詰所に戻ってきた頃には夕方になっており、二日酔いでへばっていた二人がどうなっているのかも非常に気になる。

 もしかしたら兵舎に戻っている可能性もあると思ったが、詰所の中に二人の姿が見えて一安心。


「あっ、ジェイドさん! また僕達の様子を見に来てくれたんですか?」

「いや、早速怪しい人物について調べてきたから、その報告をしようと思ってきたんだが……元気になっていそうで良かった」


 机に突っ伏した状態ではないし、二人とも表情も明るく回復した様子。

 アルフィは笑顔が戻っているしな。


「もう調べてきたんですか!? 情報をお伝えしたの今日ですよ?」

「詳しく調べたって訳じゃない。軽く接触して、自分なりに誰が怪しかったかを見極めたってだけだ」

「それにしても早すぎるぞ。俺とアルフィなら一週間はかかるよな?」

「うーん……。怪しい人物の見当がついていたのに、未だに調べていなかったんですから一週間じゃ調べられなくないですか?」

「そりゃ確かにそうだ。詰所を回るにも意外と遠いし、見つかったらサボってると思われてドヤされるから足も重い。ただ、やっぱ普通の仕事に就くにはこれくらいは仕事ができないといけないのかもな」

「なら、僕とセルジさんは普通の職になんか就けませんし、一生下級兵止まりですね!」


 そう言いながら、二人で楽しそうに笑い合っている。

 あまりにもなために少し心配にはなるが……気楽そうだし、同じ感性を持った人間が一緒の職場である二人が羨ましくもある。


「話を戻して調べた情報について話させてもらうが、二人が一番怪しいと挙げていたヴィクトルが俺も一番怪しいと感じた。ボルクは悪事を行っていそうではあったが小者。ノルベルトについては白と見ていいと思う」

「本当に実際に見て来たんだな。俺もヴィクトルが圧倒的に黒いと見ている。ジェイドの言っていることが正しければ、ヴィクトルが黒と見て間違いなさそうだな」

「僕、早速兵士長に報告してきましょうか?」

「いや、ほぼ黒ってだけでまだ断言はできない。確実なものにするためにも、ヴィクトルに絞って調べようと思う」

「悪い取引とかを持ちかけるんですね! これに乗ってくれば黒が確実ってことでしょうか?」

「まぁそういうことになる」


 会話の流れからも、セルジも幾分か俺を信用してくれているのが分かるし、ヴィクトルを黒で確定させてより強固なものにしたい。

 この任務に貢献し、二人が兵士長に俺のことも伝えてくれれば、もしかしたら兵士長とも繋がりを持つことができるかもしれないしな。

 ……まぁ二人のことだから、兵士長には俺の存在を伝えない可能性の方が高いと思うが。


「ぜひ、持ちかけてみてほしい。何か必要なものがあったら、遠慮なく言ってくれ。俺が用意する」

「分かった。口だけで誤魔化すつもりだが、駄目だった時は頼ませてもらう」


 これで許可も取れたことだし、ヴィクトルを深く調べるとしよう。

 まだクロの影すら見えていないが、確実に近づけているはず。

 これだけやって何の情報も得られなかったら最悪だが……とりあえず今はヴィクトルを暴くことだけを考えるとしようか。



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