第243話 怪しい兵士
二日酔いで潰れている二人と別れ、俺は早速怪しい兵士のいる詰所に向かうことにした。
名前を挙げた三人の中で更に順位もつけてくれたため、一番怪しいと思われる兵士からアプローチをかける。
その人物は中央通りにある詰所にいる兵士であり、名前はヴィクトル。
役職は一等兵と、アルフィやセルジよりも階級が上の人間らしい。
というよりも、怪しい兵士としてリストアップした人達は全員一等兵。
兵士としての階級が上ということもあって、アルフィとセルジも深くまでは調べられなかったようだ。
とにかく厳しい人間のようで、元プラチナランク冒険者ということもあって腕も立つ。
兵士長くらいしか口を出すことができないという状況も含め、セルジはこのヴィクトルという兵士が一番怪しいと睨んでいるらしい。
ぐったりとしながらも話してくれたヴィクトルについての情報を整理しつつ、俺は中央通りの北側に位置する詰所までやってきた。
覗くように中を確認したが、三人の兵士が姿勢の良い体勢で立っているのが見えた。
先ほどのアルフィとセルジの姿を思い出し、同じ街の同じ兵士という役職でもここまで違うのかと一瞬目を疑ってしまう。
まぁアルフィとセルジが変なだけであり、こっちが普通なんだろうけどな。
それに中央通りは人が多いし、その分やる気がある人間が配置されるのかもしれない。
そんなことを考えつつ、俺はいきなりだが詰所で尋ねてみることにした。
「すまないがちょっと聞きたいことがある。俺は行商人のジェイドというものなのだが、この詰所の中で一番偉い人って今いるか? 商品を売るための話をしたい」
あまりにもストレートな内容だが、時間をかけている暇はないからな。
アルフィとセルジと繋がれているし、怪しまれても特に問題はないと思っての質問。
「この詰所の責任者はヴィクトルという兵士でして、ヴィクトルは今見回りに出ておりいません」
「なるほど。見回りというと、どこに行っているか分かるか?」
「詳しい位置までは分かりませんが中央通りにいると思います。私たちと同じような鎧に赤い横線がついているのがヴィクトルですので、緊急で用があるのであれば探してみてください」
「分かった。情報提供助かった」
詰所の中の立ち姿を見て、三人の中にヴィクトルはいないと思っていたがやっぱりか。
見回りを行っているヴィクトルを探すのは面倒くさいが、他の兵士の目があるところよりも一対一で話せる状況の方が好ましいため探すとしよう。
情報をくれた兵士に頭を下げてから、人目のつかない場所で一気に屋根上へと登る。
あとは上から赤い横線が入った鎧を着た兵士を探すだけだ。
鎧を着た人間は目立つため、すぐに見つかると思ったのだが……やはりこの街は兵士の数が多いため、意外にも見つからない。
約三十分ほど中央通りを駆け回ったのだが、ヴィクトルらしき人物は見つからなかった。
見回りをしているとのことだったし、見つからないというのはあり得ないはずなんだが、もしかしたら詰所に戻っている可能性もある。
無駄に時間を使わされた気がして若干イラつきながらも、俺は先ほどの詰所に戻ってみたのだが……やはりいない。
そうなると赤い横線の入った鎧を着ているという情報が間違っていたか、そもそもヴィクトルは見回りを行っていなかったかの二択。
しっかりとしていた兵士だったし、可能性として高いのは後者だろう。
こうなってくると、一気にヴィクトルが黒である可能性が濃くなった。
普通にサボっているだけってこともあり得るといえばあり得るんだけどな。
仮にサボっているなら、唯一の目印である鎧を身に着ている可能性は低い。
他の怪しい人物の下に向かってもよさそうだが、ヴィクトルを張った方が良いと俺の勘が告げているため、詰所の前で待機して戻ってくるまで様子を覗うことにした。
確実にこの詰所には戻ってくることは分かっている。
顔と気配を覚えることさえできれば、後はいくらでも探しようがあるからな。
そんな考えの下、ヴィクトルが戻ってくるまで詰所の前で張ること約二時間。
何食わぬ顔で詰所の中に入って行った、白い鎧に赤い横線の入った兵士。
特徴が全て合っていたし、あの男がヴィクトルで間違いないだろう。
金色の長髪の男で、筋肉質ながらも清潔感のある外見。
それにパッと見での判断ではあるが、アルフィはもちろんセルジよりも実力は上に見えた。
それに強い死臭もすることから、恐らく一人二人ではない数の人を殺しているな。
暗殺者時代にこういった人間は何人も見てきたため、他の兵士を見て回る必要もなくヴィクトルは黒だと断言できる。
ここまでハッキリしていたら、わざわざ俺が直接関わる必要もなさそうだが……情報を確実なものとするために接触はしてみるとしよう。
裏切り者が一人とは限らないし他の二人の怪しい兵士も一応見に行きはするが、狙いはヴィクトル一人に絞ってよさそうだな。





