第188話 人気爆発
一度座り直し、レスリーの話を聞く体勢を整えた。
「それでこの三日間はどうだったんだ?」
「特に問題なかった――て訳ではないが、ジェイドがいなくてもギリギリ店は回せていたぞ! 配達はヘルプに来てくれた人に任せたんだが、慣れていないこともあって予想以上に時間が食っちまってな。ニアが残って作業してくれてたんだ!」
「道を覚えるのとか、家の場所を探し出すのとか、慣れないと時間がかかるもんな。ニアには迷惑をかけてしまった」
「気にする必要はない! 普段はニアの代わりをジェイドがやってくれていた訳だし、今回の分の補填をニアにはしっかりとするからな!」
レスリーが補填するから良いって訳ではないし、ニアには改めて礼を伝えないといけない。
一日ならまだしも、三日間となると地味に嫌だからな。
「だとしても、ちゃんと礼は伝える。店の方はどうだったんだ?」
「店の方は特に問題なかったぜ! 初日はジェイドも顔を見せてくれたから分かるだろ? ブレントが色々と機転を利かせてくれたお陰で、スムーズにお客さんを案内できた!」
「初日のような感じで三日間とも営業できたのか。魔道具についての混乱もなかったのか?」
「ああ! 大々的に告知していたお陰で、九割以上の人はちゃんと予約してくれたぜ! ちなみに今のところ二週間待ちって感じだな!」
「二週間待ちか。職人の工場の方がどうにかなれば、予約制もなくせるかと思っていたが凄い人気だな」
新しい魔道具開発も考えているのだが、着手することができないほどの人気っぷり。
髪を乾かす魔道具でじわじわと人気に火がついてきていたところ、掃除用魔道具で一気に爆発したって感じだな。
休日の初日に客目線で『シャ・ノワール』を訪れたが、本当に手狭に感じたくらいに客がいた。
ブレントの機転のお陰でなんとかなっているが、俺がいるいない関係なしにこの店の規模では限界がきてしまう可能性があると思う。
「本当に次から次へと予約が来るからな! 買えないほど人気って噂話も広がっているみたいで、普段なら絶対に俺の店にこない層の人間も買いに来ているぐらいだ!」
「嬉しい悲鳴って奴だな。それでレスリーは店の方をどう考えているんだ? 前にも提案したと思うが、店を大きくするとかは考えていないのか?」
「大きくするとなると、その間は営業できなくなるから店の改築は考えてない! ただこの店はこのまま残しつつ、もっと立地の良いところに二号店を出す――とかは密かに考えている!」
二号店として店を新たに出店するというのは良い案かもしれない。
立地の良い場所に建て、仮に人気が出なかったとしてもすぐに撤退してこっちの店に戻ってくればいい訳だしな。
俺としてもこの店には思い出が詰まっているからなくしてほしくはないし、俺以上に思い出が詰まっているであろうレスリーも簡単には手放したくないのだろう。
「二号店はかなりいい案だと思う。この人気っぷりなら金銭面も大丈夫だと思うし、物件は今から探しておいた方がいいぞ」
「そんなに早く動いていいのかよ! 今日いきなり客が減るってことも考えられるだろ?」
「何か不祥事でも起こらない限り、そんなことはありえない。この流れを掴むためにも少し早めに動いた方がいいんだよ」
「まぁジェイドがそういうならそうなんだろうな! この年になってから色々と忙しくなってきちまったよ! ……あーあ、ジェイドがもう少し早く俺の店で働いてくれていたらなぁ!」
少しだけ恨めしそうにそう呟いたレスリー。
俺としても、もっと早くに『シャ・ノワール』で働きたかった。
外の世界なんて知らなかったし、俺の世界は暗殺という狭い世界で完結していたからな。
ただ、レスリーも俺もいい歳であることは間違いないが、今からでも決して遅くはないと思っている。
「いや、俺もレスリーもまだまだこれからだろ。若さを理由に諦めるような人生は送りたくない。せっかく掴めそうなチャンスだしな」
「……確かにそうだな! 俺も年だがまだまだやれることはやってやる! 人生一度きりだし、年のせいにして諦めたくはねぇ!」
「その意気だ。レスリーは二号店の方向で、もっと具体的に考えておいてくれ。俺もそろそろ新しい魔道具の構想を考えておく」
「もう新しい魔道具を考えるのか!? それは流石に早すぎる気がしちまうけどな!」
「飽きられてからじゃ遅いからな。これも流れを逃さないためのものだ。俺とヴェラに任せてくれ」
お互いにやるべきことを決め、レスリーと拳をぶつけ合った。
この人気っぷりから新しい魔道具に着手できないと諦めかけていたが、工場に余裕が出来次第すぐに取りかかれるよう、今の内にできることは全てやるつもり。
レスリーに求めた以上は俺も頑張らなくてはいけない。
三日間の休みも貰った訳だし、今日から気合いを入れて仕事に励むとしよう。





