第171話 おかしな約束
翌日。
いつもよりも遅い時間に起床し、ゆっくりと準備を行う。
長い時間眠ったことで疲労は完全に抜けているため、昨日から言っていた通り休みを貰わずとも余裕で働くことができる。
ただ、レスリーが許してくれるかどうかが最大の鍵であり、混雑していたら俺が働けるという約束だったが……果たしてどうだろうか。
ヴェラに説明したように人気が急上昇したことで、掃除用魔道具以外の需要も相当高まっているはず。
かなりの人数を店番に割いているが、回らない可能性は高いと俺は見ている。
そんな自分なりの予想を立てながら宿屋を出た俺は、急いで『シャ・ノワール』へと向かった。
大通りの外れにあるのに、かなりの人が集まっているのが遠くからでも分かる。
配達を終える時間がいつもこの時間なため、俺にとってはもう見慣れた光景。
一番酷い時は長蛇の列ができていたことから、予約制にしたことで人の量は緩和されてはいる。
右肩上がりで人気が出てはいたが、今回の掃除用魔道具で完全に火が点いたことに対して思わずニヤけてしまう。
こんなだらしない表情で店に入る訳にはいかないため、頬を軽く叩いて気を引き締めてから、俺は正面入り口から中に入った。
狭い店舗ということもあるが、中は大量のお客さんで埋め尽くされていた。
ただ客でごった返しになってはいるものの、ブレントが上手く人の流れを誘導しているようで上手く回せている気がするな。
勘定場も臨時で二つ追加していることで、会計で混雑するようなこともなくなっていた。
この二週間で混乱を招いた原因をしっかりと分析し、完璧な対策を取ったことで上手く回せるようにしたらしい。
少し悔しい思いをしながら店内を見ていると、満面の笑みを浮かべたレスリーが物置から顔を出して手招きしている。
「がっはっは! 見たか、ジェイド! 完璧に店を回せているだろ!」
「……文句のつけどころがないな。分かりやすいように魔道具の完全予約制についても大々的に告知してあるし、この対応を取っていれば混乱が起こることはないと思う」
「そうだろ! 俺とブレントで対策を練ったんだ!」
レスリーは腰に手を当てて胸を張っているが、この策の大部分は恐らくブレントが考えたもの。
最初に会った印象通り、伊達に年齢を重ねている訳ではなく本当にできる人だ。
「ブレントは雇って正解だったな」
「俺が面接したんだから当たり前だ! それより、俺との約束は覚えているよな? 今日から三日間はきっちり休みを取ってもらうぞ!」
「分かってる。……くそ。混乱しているところを期待していたのに」
「俺の方が一枚上手だったって訳だ! それにしても、本当に変な光景だな! 普通は働いていたら休みを取りたくて仕方がないのに、俺が従業員を休ませるために努力をしているんだからよ!」
「この店で一番の繁盛期なんだから当たり前だろ」
「いーや! ジェイドが絶対におかしい! ほら、とっとと帰って休日を満喫してくれ! 金はかなり貯まっているだろ? パーッと豪遊でもしてこい!」
レスリーに背中を押され、裏口から外へと押し出されてしまった。
扉をバタンと閉められたことで、完全に放っぽり出された感覚。
働く気満々だっただけに、ここから何をするか一切決めていない。
……気になっている職人たちのところに顔を出しに行くか?
いやレスリーに知られたら、また口うるさく言われるから駄目だな。
そうなってくると、残された選択肢はヨークウィッチ巡りぐらいだが、三日間も見て回る場所はないし勿体ない時間の使い方――。
そこまで考えが回ったところで、一つの約束を思い出した。
少し前に冒険者ギルドのギルド長であるエイルから、ベニカル鉱山でメタルトータス狩りを行わないかの相談をされていた。
もうそろそろ依頼していた防具とアクセサリーが出来上がる時期。
世話になっているダンに、メタルトータスから取れる鉱石を渡そうと考えていたため、タイミング的にはバッチリかもしれない。
本当に突発的ではあるが、次に連休を取ることができるのはいつになるか分からないため、今からエイルに会いに行くとしよう。
エイルに何か用事があったとて、マイケルがいればなんとかなりそうな気がするしな。
負担を全てマイケルに負わせてしまうのは若干申し訳ないが、いつものことだろうし慣れっこだろう。
『シャ・ノワール』の裏口で立ち止まりそんな考えに至った俺は、すぐに冒険者ギルドへと向かうことに決めた。





