第170話 激動
掃除用魔道具の販売開始した日から二週間が経過した。
売れ行きは順調どころか、ヨークウィッチ中で噂になるほどに爆発的に名を揚げた。
生産ペースは完全に追い付いておらず、噂を聞きつけたお客さんが大量に来ているが、買えない人が続出している状態となっている。
新たに人材は増やしたのにも関わらず、てんてこ舞い状態の二週間を過ごしていたが、三日前に完全予約制としたことで何とか混雑を解消することができた。
「はぁーあ……。この二週間は本当に大変だった」
「確かに予想を超える大変さだったな。ここまで客が増えるとは思っていなかった」
「嬉しい悲鳴ではあるんだが、悲鳴を上げ過ぎて声が出ないような状態だわ! 本当に二人ともご苦労さん!」
閉店後の店の床に座り込み、三人でこの激動の二週間を振り返る。
休みという休みも取れていなかったがそれは俺に限らず、職人たちもそうだし魔石屋のゲンマも休みなく動いていてくれた。
あまり深い関係値ではなかったはずだが、みんなが尽力してくれたのは本当に感謝でしかない。
「ん。明日からは流石に落ち着くよね?」
「どうだろうな。大混雑はなくなると思うが、これだけ話題になったから魔道具目当てじゃない客も増える。そうなると忙しいは忙しいとは思うぞ」
「うへー。せっかく新しい従業員雇ったのにずっと忙しい」
「ただ、明日からは順番に休んでもらうぞ! 特にジェイドに関しては、掃除用魔道具を発売してから一日も休んでないだろ!」
「休んでないが、別に落ち着くまで休みなんていらないぞ」
大変さを感じているが、別に休みなしでも働くことはできる。
店が忙しいとなれば、休みなんて余裕で返上するつもりだ。
「いや、ジェイドの優しさに甘えるつもりはない! ちゃんと働いてもらっていた分の休みを取ってもらうぞ! まずは明日からの三日間休んでいいぞ!」
「三日も一気に取らせるつもりなのか? 休みはありがたいがそんなに休んだら店が回らないだろ」
「大丈夫だ! 俺の伝手で配達に関してはヘルプを頼んである! 店の方も予約制にしたお陰で少しは落ち着くだろうからな! 働いていた分、気兼ねなく休んでくれ!」
そうは言われても、店が気になって気兼ねなく休めない。
無理を言ってでも働きたいところだが……レスリーもレスリーで頑固なところがあるからなぁ。
「……分かった。明日の昼に一度店の様子を見に来る。その時に手が回らないようなら、休み返上で働かせてくれ」
「働かせてくれって変な頼みすぎるだろ! ただ、まぁ分かった! 店が問題なく回せていれば休むんだぞ!」
「分かった。それじゃ明日の昼に様子を見に来るからな」
「……変な会話。働き詰めだったし、普通は喜んで休むでしょ」
「ヴェラはジェイドの休みが終わったら休みを与えるからな!」
「ちなみに、私は店が忙しかろうが絶対に休む」
「それでいいんだよ! ジェイドがおかしいんだからな!」
おかしい奴扱いされたのは不服だが、ひとまず休みについては折り合いがついた。
そろそろ帰りたいところだが、もう一つ気になることがある。
「そういえばレスリー。職人たちの方は大丈夫なのか? 色々と話し合ってきてくれたんだよな?」
「ああー。そういえば伝えてなかったな! とりあえずは他のところと協力して製造を行うらしい! その間に工場を大きくすると言っていた!」
「ということは、製造が滞る心配はなくなったのか」
「だな! 今回のことで色々と決心がついたらしいから、詳しい話を聞きたかったら顔を出してみるといいぞ!」
「ああ。お礼を伝えるついでに話を聞きに行ってくる」
前々から提案していたが、とうとう工場を大きくする決心をつけたようだ。
手伝ってもらって回すつもりらしいけど、やはり自分達だけで製造まで完璧に手を回せるようにしてもらえたら、『シャ・ノワール』としても非常に大きい。
「魔石屋はどうなんだ? ゲンマから色々聞いているけど、ジェイドの方が詳しいだろ?」
「風属性の魔石を多めに卸してもらっているらしいから、魔石屋の方はひとまず大丈夫と言っていた。ただ、今後足らなくなる可能性もあるって話だが」
「足らなくなるのはまずいな! ダンジョン都市『コルペール』の商人とも連絡を取っておくか?」
「まだ良いと思う。足らなくなるようだったら教えてもらえるから、その時に他の卸し先を探そう」
「了解した! タイミングはジェイドに任せるからな!」
「ああ、任せてくれ。……それじゃ俺はもう帰るぞ」
「おう! 二週間、本当にお疲れ様! ゆっくりと体を休めてくれ!」
ジェイドとヴェラに片手を上げて挨拶してから、俺は『シャ・ノワール』を後にした。
明日からは三日間の休みとなるため、何をするか色々と考えつつ……ひとまず様子を見に行く明日の昼までゆっくりするとしよう。





