第169話 結果
掃除用魔道具の売れ行きが気になり過ぎたものの、無事に本日分の配達を全て終えることができた。
現在は昼過ぎなため若干腹が減ってきたが、売れ行きが気になり過ぎるため昼飯は取らず、急いで『シャ・ノワール』へと戻った。
前回の髪を乾かす魔道具の時と同じように、裏口から入って中の様子を確認することにした。
やはり緊張が凄まじく、配達に出た時から心臓が高鳴っていたが、今が最高潮に激しく鼓動している。
心臓に手を当てて大きく深呼吸をした後、店内を覗くように確認した。
客の数は上々のようだが、肝心なのは魔道具の売れ行き。
早朝から準備した売り場を見てみると……朝はたくさん並んであった掃除用魔道具が一つもない。
代わりに『売り切れ』と書かれた紙が貼られており、よく見れば魔道具がないことを知って残念そうに帰る客もいるのが分かった。
暗殺を成功させた時とは比べ物にならない高揚感に襲われ、柄にもなく一人でガッツポーズを取ってしまったほど。
ほとんど無意識で行ってしまったその行動が急に恥ずかしくなり、慌てて握った拳を開いたのだが、顔を上げた時にばっちりレスリーと目が合った。
「ジェイド! 戻ってきたか!」
満面の笑みで物置にやってきたレスリー。
渾身のガッツポーズを見られて恥ずかしい気持ちのだが、レスリーも俺と全く同じ気持ちのようで茶化すような感じはない。
「今さっき配達を終えて戻ってきた。売り場に魔道具が置いていないのはトラブルがあったとかではなく、全部売り切れたってことでいいんだよな?」
「ああ! 全部売り切れだ! 開店と同時にたくさんの客が来て、三時間くらいで用意していた五十台の魔道具が全部売れちまった!」
「開店して三時間で全て売り切れって本当か? 店内見た感じだと求めている客がまだいたように思えるが……もしかして百台でも売り切れていたか?」
「絶対に売り切れてたぞ! 売り切れたと同時にヴェラには職人たちの下へ行ってもらって、追加で大量に製造してもらっている状態だ!」
嬉しさのあまりニヤつきを抑えることができない。
初日で五十台は予想にしていなかったし、こんなに売れるのであればもっと用意するべきだった。
見通しの甘さは反省しなくてはいけないが、それ以上に嬉しさが勝ってどうでもよくなる。
「紛うことなき大ヒットだな。頑張って作り上げて本当に良かった」
「ジェイドとヴェラのお陰だ! 前回の魔道具のお陰でこうして初日から大量に売れている訳だし、『シャ・ノワール』産の魔道具が評価されたっことだよな!」
「ああ。そういうことで間違いない! ……ただここで満足せず、絶対に流れを掴み取ろう。もう店でやることは飽和しているだろうから、俺は職人たちのところに行ってから魔石屋に行ってくる」
「おう、すぐに行ってきてくれ! っと言いたいところだが、ヴェラと喜びを噛み絞めてからにした方がいい! 呼んでくるから待ってろ!」
衝動的に体を動かしたい気持ちになり、俺は急いで店を出て職人たちの下へと向かおうとしたのだが、レスリーがそんな提案をしてからヴェラを呼びに行った。
……確かにヴェラは俺以上に尽力してきた訳だし、売り切った今ぐらいは褒めるべき。
レスリーに何か言葉をかけられ、ヴェラは少し恥ずかしそうに店から物置へとやってきた。
お互いに見合ったことで一瞬無言となり、静寂した空気が流れたが……俺から声を掛けることにした。
「……完売したみたいだな」
「うん。レスリーがゴリ押しして、ブレントが上手く捌いてくれた。グレンとノラもまだ仕事ができない割りに頑張ってくれたし」
「でも、一番の功労者はヴェラだろ?」
「んー、そうかもしれない。掃除をしなそうな冒険者も買いに来てくれたしね。……本当に頑張ってきて良かった」
ヴェラの心の底から漏れたようなの言葉に対し、俺も心から頷く。
「だな。火炎瓶から始まって、ようやく頑張りが報われたな」
「頑張りは報われていたと思うけど、今回が一番達成感が強い。ジェイドは飄々としてたけど、私は前回の魔道具で結構ショックを受けたから」
「俺だってショックだったぞ。初日で絶対に売れると自信あったからな」
「嘘だ。ジェイドはいつもと変わらなかった。それに実際に売れないところを配達行ってて知らなかったじゃん」
「それはそうだが……今回の開店と同時に爆発的に売れたところも見れていない訳だしな」
「それはかわいそうだと思った。本当に危うく泣きそうになるくらい嬉しかった」
数時間前のことを思い出したのか、またしても若干涙目になっているヴェラ。
「……また泣きそうになってるぞ」
「今はなってない! それよりさ、売れすぎて工場がパンク気味らしい。材料とかも足りてないって言ってたし、ジェイド行ってきてくれない?」
「元々そのつもりだった。この流れを絶対に止めたくないしな。それじゃ嬉しさに浸るのもこのぐらいにして、俺は工場に行ってくる」
「うん。よろしく」
「最後にだが――ヴェラ、本当に良く頑張ったな。一緒に魔道具を完成させることができて良かったと心から思ってる」
「分かった分かった。もう行ってよ」
俯いたヴェラに背中を思い切り押され、俺は裏口から外へと追い出された。
扱いが雑な気がするが……まぁいいか。
早いところ職人たちの下に向かい、魔道具制作が滞らないように尽力するとしよう。





