第153話 忠誠心
人が来てしまう前に情報を引き出したい。
壁にもたれかかった状態で気絶しているシャパルの顔に水魔法をぶつけた。
「――ぶはッ! ……な、何が起こったのよ」
「仲間は三人共死んだ。死にたくないなら情報を吐け。『都影』の幹部、レッドはどこにいるんだ?」
目を覚ましたシャパルに簡潔に尋ねたのだが、周囲を見渡して転がってる三人の死体を見たまま黙っている。
夜や近くに廃屋でもあれば、ゆっくりと時間をかけて情報を引き出せたのだが、人通りが少ないといえどこの場所では時間はかけられない。
「へー、四対一で負けちゃったのね。最初の一撃だけだったし、ぐうの音も出ないほどの完敗だったわ」
「そんなことはどうでもいいから情報を吐け。レッドはどこにいるんだ?」
「私からは何の情報は得られないわよ。それじゃ――地獄で先に待っているわ」
シャパルはそう告げると、奥歯に仕込んでいた何かを飲み込んだ。
それからすぐに心臓を押さえて苦しみ出すと、数十秒もしない内に絶命したのだった。
『都影』の戦力は確実に削れたものの、情報に関しては時間を無駄にしただけで何も得られなかったな。
手短にやらなければいけないということもあったため、何も調べずに目覚めさせてしまったのが悪かった。
いや、自殺の手段なら他にもあったから関係ないか。
迷いなく自死を選んだ時点で、情報を引き出せる可能性はゼロに近かった。
一番口の軽そうな人間を残したつもりだったが……これ以上は考えても仕方がない。
人に見られる前に逃げることを最優先とし、四人の死体を街中でまとめて焼却してから、俺はすぐに裏道を抜け出て北の富裕層エリアを後にした。
北の富裕層エリアから一度宿屋へと戻って来た俺は、軽く背中の傷の治療を行う。
初見殺しのスキルを使われたとはいえ、一撃を貰ってしまったのは情けない。
浅い傷なためすぐに治るだろうし動きに影響の出るようなものではないが、少し舐めていた部分があった。
薬草を傷口に塗り込み、布で覆って応急処置は完了。
引き続き、『都影』の幹部であるレッドを追うとしよう。
宿屋を出る前に、ここから何処へ向かうかだけを考える。
シャパル達が居たことから、やはり北の富裕層エリアに潜伏している可能性が一番高くはあると思う。
先ほどと同じように、複数の強い気配が密集しているところを探すのもいいのだが……引っかかるのはシャパルの杜撰さ。
尾行も完璧で、戦闘での立ち回りも抜群。
更には、迷わず自死を選ぶほどの組織に対する高い忠誠心も持っていた。
そんな人間が尾行しながら気配だけは消さないなんてことがあるのか、その部分だけが戦闘前からずっと引っかかっている。
自分の影の中に二人の人間を潜ませていたことからも、俺を釣り出すためにわざと怪しい動きを取っていた可能性もあるはず。
そうなってくると、北の富裕層エリアはフェイクなのか?
闇市のアジトもフェイクで北の富裕層もフェイクとなると、この二つに目を向けさせて何かを隠したいという意図を強く感じる。
どこから目を背けたいのか必死に考えて辿り着いたのは、支部長を殺した例のバー。
俺達の知らない場所に何かがあるのであれば、ここまで過剰にアピールしなくてもいいはず。
そうなってくると、『都影』が目を背けたい場所は例のバーとなってくる。
マイケルに報告し、例のバーを捜索する提案を行うか?
……いや、それでは向こうに勘付かれてしまう可能性が高くなるし、俺の過去の情報がマイケルに渡るのもまずい。
少しリスクを背負うことになるが、一人で制圧しに向かうとしようか。
そう決めた俺は再び革の鎧を着込み、その上から真っ黒なローブを羽織る。
絶対に顔が見られない状態にしてから、東地区の寂れた飲み屋街にある例のバーへと向かった。
毎度張り込んでいる屋根上に潜み、ひとまず上から例のバーの偵察を行う。
以前と比べても変わった様子は一切なく、中からは何の気配もしない。
耳を立てているが、何の音も聞こえていないため使われていなそうではあるが……。
この気配のなさを含め、なんとなく臭うのは間違いない。
外から様子を窺っているだけは埒が明かないため、俺は前回と同じようにピッキングで開錠し、中に入ることに決めた。
バーの周囲に誰もいないことを確認してから、静かに地面に飛び降りる。
そこから針金を使い、慣れた手つきでドアの鍵を開けた。
鍵は以前から変えられておらず、前に開けた鍵ということで十秒もかからずに開錠に成功。
バーの中に入ったが、以前入った時と何ら変わりない様子。
ずっと使われていないため食材が腐ってか、異臭が立ち込めていた。
この様子を見る限りでは何もないように思えてしまうが、一応地下室も確認しに行こう。
小さな用具室の中を漁り、モップの位置を動かしたことで地下室へと繋がる扉が現れた。
その扉の鍵も開け、俺は地下へとゆっくり向かう。
臭いでなんとなく分かるが、死体が放置されたままなのだろう。
以前よりも酷い死臭が充満しており、キツい臭いには慣れている俺でも鼻をつまみたくなる程。
嫌な予感を覚えつつも下へと降りると、そこには腐乱した死体が一体だけ転がっていた。
支部長の死体は片付けられているが、俺が悲鳴を聞いた男の死体だけは放置されており、半分だけ白骨化した死体に蛆と蠅が集っている。
魔物ではないことだけが救いだが、長くは居たくない空間であることは間違いない。
正直蛆が湧いている時点で長らく使用されていなさそうではあるが、もう少しだけ捜索してみるか。
前回訪れた時もすぐに離れたことを思い出し、俺はこの地下室を調べてみることに決めた。





