表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/393

第14話 きな臭い動き


 購入した防具をボロ宿に置いてから、俺はすぐに大通りへとやってきた。

 仕事を探すときに大通りの大まかな地形は記憶したし、配達でももう何度も通ったが……ただ観光するだけという気持ち一つで、これほど違った景色に見えるんだな。


 武器屋は全ての店に入るとして、その他は気になった店があれば入ってみるとしよう。

 俺は人混みに紛れながら、特に何も考えずに大通りを歩いていく。


 気になった店には入ってみるが、金はないため目立たない程度に商品を見ることしかできない。

 ただ、『シャ・ノワール』でも活かすことができるものがないかを考えながら見ることで、何も買えずとも充実した大通りの散策を楽しむことができた。

 ここまでは特段目ぼしい物が見つかってはいなかったのだが、ようやく大通りでの一軒目の武器屋が見えてきた。


 自分で武器を作っている鍛冶屋ではなく、武器を取り寄せて販売しているタイプの武器屋。

 掘り出し物を見つけるつもりで武器屋の中に入ろうとしたのだが――。

 丁度そのタイミングで、前方から悲鳴に近い女性の叫び声が聞こえた。


 俺の頭を過ったのは一週間前の記憶。

 また同じように窃盗犯が出たのかと思い、叫び声の聞こえた方角を見てみると、派手に転んだ女性と顔を黒い布で覆った窃盗犯らしき男。


 手には女性ものの鞄が持たれているし、また窃盗が行われたということで間違いないだろう。

 この街では窃盗が流行っているのか、それともたまたま俺の前で二回も窃盗が行われたのか。


 どちらかは一切分からないが、さてどうするか。

 前回は窃盗犯を捕まえて散々な目にあったし、また面倒ごとに巻き込まれるのは正直ごめんだ。


 ……ただ、あの時窃盗犯を捕まえたからこそ、スタナと知り合えて『シャ・ノワール』に就職することができた。

 人助けをすることにより、何かしらの形で『シャ・ノワール』の好感度が上がるかもしれないし――今回も助けるとしようか。


 武器屋に入りかけていた足を止め、人の隙間を縫って逃げる窃盗犯を目で追う。

 逃げた方角は街の東側で、あっという間に俺の視界からも消えてしまった。

 このままでは見失なってしまうため、周囲の人間が叫び声の上がった方向を見ている内に、店と店の隙間に入ってから一気に屋根上へと登る。


 前回と同じように屋根を伝って高い位置から犯人を追いかけよう――そう思ったのだが、逃げていく窃盗犯を追走している人間の姿が俺の視界に映った。

 それも、一人ではなく三人もだ。


 一瞬、俺と同じように窃盗犯を捕まえようとしている人間かとも思ったが、追走している三人の人間は、逃げている窃盗犯ではなくしきりに周囲を気にしていて……。

 まるで窃盗犯を捕まえようとしている人間を探しているような動きに見える。


 強烈なきな臭さを感じるものの、鞄を盗まれた被害者の女性は協力者ではなさそうだし、当初の予定通り窃盗犯は捕まえようか。

 ついでに追走している三人も捕まえて話を聞ければいいのだが、そこまで上手くいくかは分からない。


 必死に逃げる窃盗犯とその後ろを追う三人を視界に入れながら、俺は一人屋根上から追走する。

 四人の向かっている方角は同じだが、後ろの三人は周囲を探っているため徐々に先頭を走る窃盗犯との間に差が生まれ始めた。


 追っている三人の目線からでは、既に窃盗犯が視界に映っていないのはずだが……。

 それでも向かっている方向が同じなところを見るに、やはり窃盗犯とこいつら三人は仲間で確定。


 三人と窃盗犯が合流する前に窃盗犯を捕まえ、兵士の下へと届けてしまうか。

 前回と同じように窃盗犯が逃げ込みそうな場所へと先回りし、窃盗犯が俺の真下を通りすぎるのを待つ。

 読み通りに人気の少ない道を選び、俺が先回りしている場所へと逃げ込んできた窃盗犯の背後に降り立ち、顔を見られないように背後から腕の関節を極めた。


「お、おいっ! 離——」


 大声を上げかけた窃盗犯の口を押さえ、関節を極めた腕を更に捻り上げていく。

 口を押えているため声は漏れ出ていないが、凄まじい振動が俺の手に伝わってくる。


「叫んだら腕をへし折る。お前達は何者なんだ?」

「だ、誰か――」


 忠告してから関節技を弱め、塞いでいた口も離したのだが……即座に助けを呼ぼうとした窃盗犯。

 近くに三人の仲間がいると分かっているからこそ、捕まっていても反抗的な対応なのだろう。


 背後の三人との距離を考えるに、あと一分足らずでこの場所までやってくるはず。

 この窃盗犯から色々と聞き出したかったが、話を聞くのは諦めるしかなさそうだ。


 関節を極めていた腕を離し、俺は即座に腕を首へと回して締め落としにかかる。

 窃盗犯は必死に顎を下げて締め落とされないように抵抗する姿勢を見せてきたが、無駄な抵抗もいいところだな。


 口を塞いでいた手で力尽くで首を上げさせ、腕が完全に首に回ったところで頸動脈を丁寧に締め上げた。

 ものの数秒で意識を失った窃盗犯を担ぎ上げ、仲間の三人が来る前に屋根上へと再び登る。


 さて、ここからどうするかだが……以前までの俺ならば、更に人気ない廃屋に連れ込み拷問して情報を吐かせた上で殺していた。

 ただこいつは目立つ場所で窃盗を犯し、自らを二重尾行させるという奇怪すぎる行動を取っていることから、きな臭いにも程があるのだ。


 それに、今の俺は暗殺者ではないただの一般人。

 余程のことがない限りはもう人を殺さないと決めたため、強引な手段は取れないのが現状。


 ということならば、大人しく兵士に突きだすのが正解だろうな。

 もう被害者の下に兵士が集まっているだろうし、被害者の下までこの窃盗犯を連れて行きたいところだが……。

 追走していた三人とは別の人間が見張っている可能性もあるし、万全を期すならここから近い詰所に連れて行くのがベスト。


 この場所から近い詰所は――商人ギルド前の詰所。

 さっさと移動し、この窃盗犯を兵士に受け渡すとするか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 本作のコミカライズ版です! 本当に面白いので是非お読みください! ▼▼▼  
表紙絵
  ▲▲▲ 本作のコミカライズ版です! 本当に面白いので是非お読みください! ▲▲▲ 
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ