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第11話 提案


 三軒目の家の確認を終えたところで、ようやく俺の言葉が本当だったと分かってくれたようだが、三軒目の家から離れてもレスリーは無言のまま呆けた状態。

 このままでは喋る気配がないため、俺から話を振るとしよう。


「言った通り、しっかりと配達していただろ?」

「…………ありえない。……本当にありえないが、ちゃんと配達したみたいだな。ジェイド、一体どんな手を使ったんだ? この距離を荷物を持った状態で往復三十分! 時間を止めるでもしない限り、不可能だろうよ!」

「普通に急いで走っただけだ。それよりも一つ思いついたことがあるんだが聞いてくれ」


 ありえないと連呼するレスリーを呼び止め、俺は一つの提案を持ちかける。

 『シャ・ノワール』の売り上げを上げる案を思いついたのだ。

 まだ働き始めて初日の新米もいいところだが、そんな俺の案をレスリーが受け入れてくれれば売り上げにも直結するはず。


「思いついたこと? 思いついたって一体何を思いついたんだ!」

「俺が短い時間で配達できることは分かってもらえただろう? だから、これまで以上に配達サービスに重きをおくっていうのはどうだろうか。通常の仕事はままならない俺だが、配達の速度だけならレスリー以上なんだろ? 配達が『シャ・ノワール』を支えているとさっきレスリー自身が言っていたし、この手を使わない手はないと思う」

「まぁ……確かに品ぞろえを増やしたり、無理に内装や外装を変えずとも出来ることの一つではあるな! これまでは一日三軒回るのが限界だったが、ジェイドがいれば十件——いや、二十件は多く配達をこなすことができる!」

「そうだろ? 俺なんかを雇ってくれた訳だし、目に見える形で貢献したいと思ってる」

「道具屋としては邪道とも言えるが悪くない案だな! 早速、明日から煮詰めていくとしよう!」


 つい先ほどまで俺の配達速度を疑っていたのを忘れたかのように、俺の出した案を全力で乗っかってくれたレスリー。

 もしクロであれば、どんなに正しく良い案であっても絶対に拒否されていただろう。

 そんなことを思いつつ、今日は時間も時間なため解散しボロ宿へと戻ったのだった。



 翌日。

 未だに無一文のままだが、昨日は帰り道にレスリーから付き合わせた礼と称して肉串を奢ってもらったため、腹の方は昨日の朝よりはマシな状態。


 とは言っても、この二日間で食したのは奢ってもらった肉串だけだし、腹が減っていることに変わりはない。

 日課としているトレーニングを行ってから共用シャワーで汗を流し、体を完全に起こしたところで『シャ・ノワール』へ出勤する。


 今のところ働くという感覚があまり持てておらず、気持ち的には楽しさが大幅に上回っている状態。

 生き死にのかかった暗殺を行い、寝泊まりする場所は金属牢。

 賃金は一切もらえず一日に一度バケツ一杯の水で体を洗い、出される飯はカチカチの干し肉とパン。


 暗殺の仕事がない日も地獄のような訓練の日々を過ごしていた俺にとっては、飯をまともに食えていないこの状況でも驚くほどの幸せを感じられている。

 何でもない日常にも発見があるし、このまま何事もなく生活できるならどれだけ幸せなことか――そんなことを願いながら、俺は『シャ・ノワール』へと辿り着いた。


「おう! ジェイド、やっと来たな!」

「やっと? 昨日よりも若干早めに来たんだが、待たせてしまったか?」

「いやいや! 昨日の話を聞いて、一人で色々とやってたんだよ! まずはちょっとこれを見てくれや!」


 俺が店に入るなりそんなことを言い出し、朝から作っていた物を見せてきた。

 かなり凝って作られた看板で、大きな文字で『配達サービス承り中!』と書かれている。


「これを一日で作ったのか?」

「一日ってか、朝起きてからの数時間だな! で、どうだよ。中々に良い出来だろ!」

「ああ。店前に出しておけば、利用したい人が立ち寄ってくれるかもしれないな」

「よし! 立案者であるジェイドの許可も出たし、利用者が増えるまではこの看板を店の前に出しておこう!」


 『シャ・ノワール』の看板の横に、新たに配達サービスについての看板が追加された。

 看板を出しただけという小さな一歩ではあるが、俺の提案した案が通り、こうして一つの形として出たことに小さな喜びを感じる。


「ひとまずは積極的に宣伝とアピールをし、配達サービスの利用者を増やしていこうぜ! とりあえず利用者が増えるまでは、ジェイドに店の業務を勉強してもらうか!」

「まだ二日目だし、色々と教えてくれ。利用者が増える前に全て叩き込んでおきたい」

「へっへっへ、良い心掛けだな! 売上的にも新たな従業員なんて雇う気はなかったが、スタナ先生に言われてジェイドを雇って良かったと早くも感じているぜ!」


 レスリーのそんな何気ない一言に気持ちが高揚するのを感じつつ、俺は気合いを入れて二日目の業務へと取り掛かったのだった。



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