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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第三章 『魔王軍』始動
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貸与相談 Ⅱ




 パソコンに繋いで内部HDDに各3Dモデルを読み込み、1番のデータを1番のペンダントをつけた人物へと投射する。

 この技術によって、これまでのようにモーションスーツを着る必要すらないことだけではなく、実際に着ている服をそのままモデルが着ているように映し出す事も可能だということ。


 レイネからそんな説明を受けた結果、会議室内にいる鳳さん、ユズ姉さんはもちろん、エフィやリオ、スーまでもが言葉を失っている。


 強いて欠点を挙げるとすれば、Vのモデルの服を映すのであればVのモデルの服に形状が似たものを着ていてもらわないと、若干不自然に映ってしまうというところだ。

 要するに、モデルはドレスの衣装なのに上下ジャージとかだと、映像上のドレスの揺らめきが若干不自然になったりする、というものなのだけれど、それでも一般的な3D配信とは比べ物にならない自然な服の揺らめき、陰影が映し出される。


 そんな説明を交えつつ、ホワイトボードに天井に取り付けられた映写機を使って実際にレイネが私を映しながら色々と試してみせたところで、5人は完全に言葉を失った様子で映像を映し出したモニターを見つめて、目と口を丸くしたまま動かなくなってしまった。


 そんな5人に対して、私は5人が正気を取り戻すまでレイネが用意した紅茶を口に運び、ゆったりとした時間を過ごしている。


 いや、ほら、実際に背景も取り込めること。

 それに紅茶やカップを手に持っても3D配信特有の浮いた(・・・)映像にならないという実践のために、だよ。余裕を見せつけるためとかじゃないよ?


「……ねえ、レイネさん、だったかしら?」


「はい、なんでしょう?」


「もしかして……屋外でも撮影できちゃったりするのかしら……?」


「当然です。実際、目の前に映っている映像を見れば分かる通り、現在カメラ以外は何も機材は使用しておりませんが?」


「……そう、ね……?」


 肯定しつつも疑問しか生まれていません、って感じだね。

 まあ無理はないと思うけど。


「――はっ!? も、もしかして、それってつまり、キャンプとかグランピングとかもできるんじゃ!?」


「当然できます。こちらの映像のように、モデルの世界観を壊すような完全実写の映像にはならないよう処理されますので」


「すご……!?」


 ……エフィってやっぱり残念な感じなのかもしれない。

 思わず映像に映し出されているのも忘れてジト目を向けてしまった私に、鳳さんとユズ姉さんが「ぉぉ~~……」と声を漏らした。


「……改めて、表情があまりにも自然ね。自然っぽさを演出した多数のパーツを使っている一般的な3Dモデルとは隔絶しているわ……」


「確かに……。アニメーションとしても凄まじく繊細に作られた作品、と思えてしまいますね。それこそ、莫大な費用を投じて」


「たまに海外がフル3D映画とか作るけど、あんな感じだよね」


「おー、あれな!」


「ん、でも映画は人間に寄せ過ぎ。こっちは人間らしいけれど、Vtuberと同じく結構アニメに寄せた感じ」


 少し時間がかかったものの、ようやく我に返った様子で口々に感想が飛び出てくる。


 たまにフル3D映画とかよく出るもんね。

 でも、だいたいああいう映画って賛否両論に分かれる。

 アニメとかマンガを中途半端に3D化して実写感を出したせいで、どうしても「違う、そうじゃない」って気分になるようなリアリティを出すのもあったり、ね……。


 まあ、人によるとは思うから深くは語らないけど。


「一台のカメラで最大5人までという話だったけれど、これは増やせないかしら?」


「不可能ではありませんが、その場合は特注となります。大手事務所であれば需要はあるかもしれませんが、そこまでの人員を擁する事務所自体がそもそも限られますので」


「それもそうよね……。場合によっては嵌め込みで統一感を出せば良いのだし、そうなると踊りや歌で組ませる人員によって……」


「外でも撮影できる、ね……。やれる事が圧倒的に増えるなぁ……」


 実際のところ、大手で数十人単位を使って配信している事務所は少ない。

 その反面、大多数ではなくコアな視聴者の需要に応える人材、一部を狙った人材を抱えられるのもまた大手に限られる。というのも、個人では大成するには値しないかもしれない人材であっても、箱で抱える事による相乗効果を狙えるのであれば悪くはないからだ。


 既存の視聴者の一部層、いわゆるニッチ(・・・)を獲得できる希少性を有した存在を抱えれば既存のVにも波及させる事ができるし、そういう存在との既存Vとのコラボは既存Vの見た事がない一面を引き出すという意味でも価値が生じる。


 一度成功した箱はそうやって手を伸ばしやすい。

 けれど、そんな箱に憧れただけ、ただただ追いかけようとしただけの後進は大成できない。それが、今のVtuber業界の実状というところかな。


 これから黎明期から過渡期へと入ろうというVtuber業界に、技術の進歩は必須。じゃなきゃクオリティの高いものを、新しいものを次々に発信していくのは難しいし、できる事に限りがあるから。


 そこに一石を投じる形で、技術の進歩どころか跳躍をして現れたのが今回レイネが持ち込んだ魔道具と魔法技術だ。


 鳳さんを筆頭に、各種Vtuber事務所が組み立てていたこれまでのプランを打ち砕き、大幅な軌道修正が必要になるのは必至、という訳だ。

 鳳さんが考え込むように視線を落として顎に手を当て、ブツブツと呟き始めてしまったけれど、そうやって考え込むのは鳳さんだけではなく、ユズ姉さんはもちろん、エフィやリオ、スーまでもが真剣な表情になって思考を整理しているのが見て取れた。


 Vtuberはセルフプロデュースを求められるからね。

 彼女たちは所属タレントであって、同時に個人事業主でもある、という訳だ。これからどういう風に展開していくのか考えているのだろう。


 そんな訳で、再びの沈黙である。


 ……私、帰っていいんじゃなかろうか。

 暇なんだけど。


「――っと、ごめんなさいね。あなた達がいるのに考える事に集中してしまったわ」


「万死に値――」


「レイネ?」


「――いえ、お気になさらず。これまでのプランに大きく修正をかけていく必要がある、というのも理解できますので」


 隠せてないんだよなぁ、それ。

 怒りでほんの僅かに発露したレイネの魔力に気が付いて、名前を呼んだら霧散したけど、鳳さんどころかユズ姉さんも、それどころかエフィ達まで顔が蒼くなったからね。


 あー、これは向こうは誰も喋れないだろうなぁ……。

 仕方ないか。


「方針についてはこちらが関与する事ではありませんので、私達が帰ってからご相談いただけると。いずれにせよ、一度このカメラを使ってできること、考えられる企画や、誰から配信を行うかなどを検討する上でも、この一台は来週末まで無償で貸し出しましょう」


「む、無償で!?」


「えぇ。その代わりという訳ではありませんが、使用人の無礼をご容赦いただけると……」


「い、いえいえっ、気にしないでちょうだい! 悪かったのは考え込んでしまった私達よ!」


「そう言っていただけて何よりです。レイネ、連続使用時間の限界と、特殊(・・)な充電が必要な旨などが記載された説明を」


「はい。では、こちらを御覧ください」


 ……はあ、肩が凝る。

 私、こういうの向いてないよ、ホント。


 レイネ的には、さっきの怒りはパフォーマンスなんだと思う。

 私を小娘と見て、御しやすい、与し易いと見ないように、一定の距離を保たせるための警告。一定以上の無礼を許す気がないんだぞ、っていう。

 ユズ姉さんがいるんだから心配いらないとは思うんだけど、レイネにとってみれば私以外の存在を信頼する理由はないのだから、釘を差すべきタイミングは狙っていたんだろうけれどね。


 今回はユズ姉さんがいるから私が主導で喋っているけれど、やっぱり他の企業との商談とかの時は私は喋らないように徹底しよう。

 そんな事を心に誓いつつ、私は無表情を貫きながら、早くこの時間が終わらないかなと取り留めのない事に思考を巡らせ続けるのであった。






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