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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第三章 『魔王軍』始動
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貸与相談 Ⅰ




 ユズ姉さんに魔道具化による新技術――つまり、カメラ一台があってモデルさえ内蔵HDDに読み込めば、その姿を対象となる人物がペンダントをつけていれば当て嵌めてくれるという内容――を説明し終えた後。


 私は……自宅から車で一時間程のビルの一室にいた。


「――うはーっ、マジでヴェルちゃんじゃん!?」


「ほ、ホンモノ実写版だー!?」


「ん、この前の配信で見た時とあんま変わってない……」


 待機させられた私とレイネがいる会議室に、勢いよく入ってきた3人の女性。

 ……うん、もうね。

 その反応の仕方で誰が誰だかがよく分かったよね。


「エフィにリオ、それにスーだね」


「――ッ!? な、なんでバレた!?」


「いや、判るよ、さすがに……」


 声の感じというか、それぞれの喋りのテンポというか。

 そういう部分を隠せてなかったし、最初から特に隠そうともしてなかったっぽいしね。そりゃ判る。


 エフィの中の人は、髪の毛をセミロングぐらいにしている女性だった。

 快活な彼女らしい雰囲気もそのまんまだし、笑った時の表情の感じがモデルのそれに似ていて、裏表のないニカッとした笑い顔が特徴的だ。


 リオは明るいショートの茶髪。

 中身の人は目をまん丸くして感情が顔に出やすく、黙っていたらちょっとだけツリ目っぽいみたいだけれど、表情が豊かに感情を表していて素直な人だろうなっていうのが見て取れる。


 スーはミルクティーベージュカラーのストレートロング。

 無表情だけれど、キャラモデルの眠そうな感じが分かるようなとろんとした目をしていて小柄な女性で、口も鼻も、何しろパーツの一つ一つが小さい。 


 なんていうか、見事に見たまんまという印象だ。

 もちろん、外で何も知らずにぱっと見てVtuberのモデルと一致するという訳じゃなくて、Vtuberのモデルを知っているからこそ「あぁ、さもありなん」って感想を抱く程度に共通点がある、という意味で。


「はいはい、座りなさい」


 3人に遅れて入ってきた苦笑を浮かべたユズ姉さんが声をかけながら、自分が開けた扉が閉まらないように押さえていると、いかにも「仕事できます」と言わんばかりの雰囲気でオシャレながらにピシッと決めた服装の、三十代中盤から後半ぐらいといった女性が入ってきた。


 その女性は私を見て目を見開き、さらに私の後ろのレイネを見て、再び私に目を向けた。


「……これは驚きました。まさか、モデルそのままと言えてしまうような人物だとは」


「私はそう伝えてましたけど?」


「さすがにそうは思えなかったのよ。せいぜい、そっちの三人みたいにモデルに本人の特徴を少し入れている程度かと思っていたわ」


 ユズ姉さんにツッコミを入れられてそう答える女性は、ユズ姉さんとはどうやら気心の知れた相手であるらしい。

 一体何者なのかとエフィ達に視線で訊ねてみようと思ったけれど、3人はわくわくそわそわとした様子でキラキラと期待に満ちた目でこちらを見ていて、私の意図を汲んでくれる気配は皆無であった。


 スーなら分かってくれるかもって思ったのに、スーも期待に満ちた感じだし。


「名乗るのが遅れてしまい、申し訳ありません。私、こういう者です」


 すっと差し出された名刺を私の座る斜め後方に控えていたレイネが前に出て、自然な動作で当たり前のように率先して受け取った。


 こら、そっちの3人娘、「おぉ~~……メイド……」とか感心しない。

 なんか恥ずかしいから。


 ユズ姉さんまで目を丸くして、なのにエフィ達みたいな顔してるし。

 車でここに来る最中に説明したでしょ、私はあくまでもそういう態度で対応する事にするって。

 ユズ姉さんの姪である事は伝わっているらしいけど、見るからにお嬢様らしい感じの方が新技術の開発なんて真似をした事にも信憑性が出るかもね、って納得してたじゃないの。


 だから私はユズ姉さんの姪ではあるけれど、本物のお嬢様感を演出する事にしている。

 レイネがこうやって私の代わりに名刺を受け取ったのも、そういう演出の一環だ。


「どうぞ、凛音お嬢様」


 名刺を見せる――と見せかけて、念話で女性の正体を教えてくれたレイネに念話で感謝を返し、涼しい顔を作ってその名刺を一瞥もせずに口を開く。


「知っているから大丈夫よ、レイネ。ジェムプロダクションの代表取締役、(おおとり) 楓香(ふうか)さん、ですね」


「はい。お会いできて光栄です、ヴェルチェラ・メリシスさん」


「こちらこそ」


 鳳 楓香。

 レイネから聞かされたこの名前でようやく思い出した。


 この人、お母さんの元同業者――つまり、元女優だ、と。


 お母さんがデビューした頃からお世話になっていた先輩であるらしく、今でもお母さんとも連絡は取り合っているらしく、ユズ姉さんとも昔から親しかった相手だって聞いている。

 母さんと一緒に子役時代から名を売り、その後、ユズ姉さんを引っ張る形で芸能事務所を辞めて今のジェムプロダクションを作ったんだっけ。


 私と向かい合う位置で座った鳳さんが、私の顔を見てにこりと笑ってみせた。


「改めまして、本日は急なお話にもかかわらず、足を運んでくださりありがとうございます」


「いえ、こちらも勝手に御社の名を出してしまいましたので、こうした場は早めに設けられて良かったです。あぁ、それと、喋りやすい口調でどうぞ。私の叔母の上司ですし、私のような小娘を相手にわざわざ畏まった敬語を使っていただかなくて結構です」


 この人は綺麗な言葉遣いで話すよりもそういう喋り方をしている方がしっくり来るような気がする。

 見た目の印象というのもあるけれど、私からすればお母さんの友人で、ユズ姉さんの上司だしね。


 それに、私自身が前世の経験こそあっても、転生してから社会人になった経験がある訳でもないから、あまり敬語でのやり取りに慣れていないっていうのが大きい。

 そんな私に、ビジネスシーンらしいやり取りを求められても必然的にぼろが出るのは間違いない。

 だからできたら崩して対応してほしい、という意味合いを込めた言葉だ。


「あら……。ふふ、そう? じゃあそうさせてもらうわね。そちらも喋りやすい言い方で構わないわ」


 鳳さんは、そんな私の本音を察してくれたらしい。

 僅かに困惑していたものの、すぐに笑って承諾してくれた。

 助かります、という御礼を込めて承諾の意を込めて小さく頷いておく。


「では改めて――新技術配信、観せてもらったわ。正直、あのクオリティで映像を配信するなんて、ウチでもできないわ。だから貸与してくれるというのはありがたいのだけれど、どうしてウチを選んだのか聞かせてもらえる?」


「単純な話です。私自身がエフィ達3人とコラボした経験があり、そして同時に叔母が所属している会社だからというのが一つ。それと、業界で最大手と言える相手だから、というところでしょうか」


「……それって、つまりコネというか繋がりがあったから、という事よね?」


「身も蓋もない言い方をすれば、そうですね。私がこの新技術を広めるには、業界の大手に協力してもらうのが一番手っ取り早いですから」


「……そう。エフィ達に光るものを感じたとか、そういう訳じゃなくて?」


「人気であるだけのものはあるのだろうな、とは思っていますが、光るものがあるかどうかは私が判断する事ではないかと」


 僅かに漂い始める、剣呑とした空気。

 エフィとリオにいたってはあわあわとし始めているし、スーは……現実逃避でもしてるのか、遠い目をして虚空を眺めている。


 けれど、そんな3人と鳳さんの後ろではユズ姉さんが呆れたように額に手を当てて溜息を吐いていた。


「……あのですね、二人とも。エフィ達が気の毒なので、お遊び(・・・)はそこまでにしてください。特に社長」


「……はーい」


「りん……んんっ、ヴェルチェラさんも。社長に付き合わなくていいから」


「はーい」


「へ? え、どういうこと?」


「け、けけけけ、喧嘩は良くないぞ!?」


「……むぅ、騙された……」


 ユズ姉さんに釘を差されてしまったので空気を切り替えると、エフィは困惑、リオは今更の仲裁、スーはユズ姉さんの言葉を聞いてようやく事実に気が付いた、というところらしい。


「ふふふっ、ごめんなさいね、3人とも。ちょっとヴェルチェラさんの演技力を見てみたかったのよね」


「え、演技だったの!? 今の!? いつから!?」


「どうしてウチを選んだのかを訊ねたあたりから、ね。ヴェルチェラさん、よく気付けたわね」


「ちらっとエフィ達の方に視線を向けたので、何かの合図なのだろうな、とは。そこからは少しだけ燃料を投下しただけです」


「ふふふ、アレに気が付いて燃料を投下するんだもの。さすが、というところかしら?」


 くすくすと愉しげに笑う鳳さんに、私も微笑を返しておく。

 さすが、っていうのはきっと、「さすがは〝滝 紅葉〟の娘」っていう意味なんだろうなぁ、きっと。もしかしたら、こういう即興劇みたいな事をお母さん相手に昔もやっていたりするのかもしれない。


 ちなみに私がそれに気が付いたのは、鳳さんの纏った空気が明らかに変わったからだけどね。

 当然、演技のスタートを見極めたとかではない。

 何かをやるつもりなんだろうなと思って出方を窺いながら燃料を投下して、その回答でどう広げてくるのかで狙いを見定めようとしていただけだったりする。


 結果としてお母さんの娘としては正しい反応だったみたいだから、いまさらわざわざ偶然だったと伝えるつもりはないけど。


「ふふふ。今の対応力と言い、ますますウチに欲しかったわ」


「え、なんで諦めんのさ!? ヴェルちゃんなら歓迎だよ!?」


「歓迎するぞー!」


「ん、ヴェルちゃんなら歓迎。カモン」


「え、入らないけど? というより今のタイミングで入ったら、ジェムプロにとっても面倒が増えるよ」


「ええぇぇぇっ!? なんで!?」


「なんでって言われても……」


「――新技術なんていう凄まじいものを世間に発表した個人勢が、機器を貸与すると宣言したジェムプロに入るなんて話になれば、そもそも最初からヴェルチェラさんはジェムプロの息がかかっていたのでは、なんていらない憶測を呼び込む事になるでしょうね」


 私が答える代わりに答えたのは、ユズ姉さんだった。

 鳳さんもその点には気が付いていたらしく、うんうんと頷いている。


 ジェムプロに対してライバル意識を持っている企業や、ジェムプロ所属のVtuberに嫉妬していたり、アンチだったりっていうタイプの人は少なくない。

 そんな人が、「ジェムプロは個人勢としてヴェルチェラ・メリシスをサポートし、新技術を発表させた。その最初の貸与をジェムプロにしたのだって、『ジェムプロは個人勢からも信頼度が高いのだ』と売名するために工作したんだ」という()推理を行って、その推理を真実だと思いこんで卑怯だの過剰にやり過ぎだのとネガティブキャンペーンを始めたりもするだろうし。


 ぶっちゃけ、そんな面倒な真似をしなくてもジェムプロとして発表すればいいだけなんだけどね。

 まあ、アンチとかってなんでもかんでも口撃の(いとぐち)にしたがるからね。


 インターネットはそういう、いらない憶測とかがあっという間に蔓延する危険性を孕んでいる場所だ。

 ただの憶測を訳知り顔で語りたがる人がいて、それを鵜呑みにしてしまう人がいて、あたかも真実のように広がるリスクは簡単に消えはしない。


 そういう訳で、いらない憶測を呼び込むような存在でもあるし、企業イメージ――つまり、アイドル売りをしているタレントと私の色が違い過ぎるという問題だってある以上、ジェムプロダクションとしては今私に所属されても困るだろう。


「そもそも私、個人勢で気楽にやりたいし」


「いやいやいや、箱も楽しいよ!? ヴェルちゃん!」




「えー、変なルールとか柵とか多いじゃん。ほら、『OFA VtuberCUP』で最後の一人が決まらなかったのとか、まさに面倒そうだと思う」




「うぐ……っ」


「あ……っ」


「……スゥーーーー……」





 今の一言は多方面にクリティカルヒットだったらしい。






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