『Connect』
さてさて、『Connect』は元々オンラインゲームなんかのVCツールとしても有名なツール。
普通のチャットルームとVC用のルーム分けなんかもできて使い勝手が良く、V界隈でも使われている無料ツールだったりする。
ユズ姉さんに言われた通り『Connect』のダウンロードとセッティング完了。
名前はヴェルチェラ・メリシス、マイクとイヤホン設定なんかも……うん、完了。
早速ユズ姉さんに教えてもらっていたユズ姉さんの仕事用アカウントをフレンド申請しておく。
そういえば私、ユズ姉さんの連絡先って知らなかったんだ。
お母さんが連絡してたから、私が教える必要とかなかったしね。
私のスマホには今、連絡用のアプリである『SHAKE』という有名アプリが入っている。
なお、連絡相手はお母さんとユイカとトモ。
……ほら、中学はスマホいらなかったんだよ。
高校入ってもうすぐ1年経つのにとか、そういう事は考えなくていいんだよ。
私の交友範囲は狭く深くなんだよ。
さて、お母さんの出張は来週からという事なのだけれど、これを機に私もちょっと人のいない場所へと行って魔法をどれぐらい使えるのかを確認しておこうと思う。
転移魔法以外にも人間に使う護身用の魔法なんかも威力を調整しておかないと、文字通り消し炭にしてしまいかねないし。
ほら、スタンガン意識したつもりが落雷みたいな威力だったりしかねないから。
人間相手にちょうどいい威力とかピンと来ないもの。
あとは魔道具がこの世界でも作れたりするのかも試しておきたい。
ただし魔導具の素材って魔力を通す素材である必要があるから、この世界でそういう素材があるのかも分からないんだよね。
という訳で、この世界で使えそうな素材がないかも調べておきたい。
最悪、転移で海外まで飛ぶのも辞さない。
不法入国? 知らぬ。
こうして考えると意外とやりたい事が多くて大変だ。
それに動画もあげなきゃいけないんだよね。
ユズ姉さん曰く、「粘着を潰す意味でも演奏動画、絵を描く動画なんかは投稿してもいいかも」だそうで、この辺りは今週中にやる予定。
最初にアップしていた自己紹介動画と音楽を本当に私が作ったのかを疑うようなモノロジーなんかもかなり上がっているらしくて、どうも私にもアンチが湧いているらしく、口撃するポイントを探そうとしている状況なのだそうだ。
そんなの放っておけばいいと思うんだけど、ユズ姉さんからのお達しなので。
私を信じている人もソースがある方が気持ち良く擁護できるからやりなさい、とのご命令。
アンチは何やったって文句しか言わないらしいので、そちらの為にやる訳じゃないのよ、ってさ。
決してユズ姉さんが、自分たちは箱を運営する側だから売り言葉に買い言葉で応戦できず、普段は沈黙を貫いて守っているのに対し、私という個人勢であり「魔王ならば構わず叩き潰すキャラであっても違和感がないから」という理屈で、ここぞとばかりに憂さ晴らしを兼ねて提案している訳じゃない、らしい。
目が泳いでいたので説得力は皆無だけれど、ユズ姉さんがそう言うならそういう事にしておこうと思う。他意はない、これ大事。
なので、あの大炎上の翌々日、私はまたまた配信予定をモノロジーで投稿しておいた。
『演奏と絵描き、どちらも嘘だの誇張なんだのと煩わしいので、演奏はピアノ、絵はペンタブを使って描いたものを動画にする予定じゃ。手元を映してやるので、ありがたく拝むがよい。リクエストはバブルで受け付けるのじゃ。なお、今夜は前回消化しきれなかったバブルを割っていくぞ』
超絶上から目線で、しかもキャラクターとしての演技ではなく紛れもなく本音である。
他意はない、リターン。
応援の声はありがたく、一部めげずに文句を言う声が反応として返ってきていて面白い。
あっという間にバブルに色々なリクエストがー。
ふむふむ、クラシック曲からアニソン、時々ただの罵倒とバリエーションに富んでいるね。
暇な人がいるものだ。
クラシック曲は有名なものが多いけれど、たまに嫌がらせのように難しい曲も入っているみたい。
難しいだけのあまり知られていないような曲は弾いてもしょうがないので却下。
腕自慢みたいになるだけだし。
絵のリクエストに関しても、公式絵という事でヴェルチェラ・メリシスの絵と、魔王城などの依頼もあり、なかなか面白い。
あれもこれもとやっていたらさすがに時間が足りなくなりそうなので、とりあえずは魔王城から描こう。
Vtuberとして配信されるものの中で一般的なものといえば、現状だと雑談、ゲーム配信、歌ってみた配信がソロ活動でできること、というところだろうか。そこに絵が描けるなら絵描き配信、楽器が使えるなら楽器などもあるけど、手元を映していなかったりもするかな。
実際、どうしたってV業界では『動き』というモノに限度がある。
それをするためには3D配信を実践しなくてはならないし、その機材は高価でスタジオは非常に高く、どうしても動きにくい。
箱に入った方がスタジオを自由に使えたりもするし、バックアップもしてくれて非常に色々な催しに挑戦できるようになるから、個人勢はどうしたってイベントというものを打ち出しにくい。
一方で私。
前世を思い出す前の私は自分自身が動画に出るなんて絶対に無理だと思っていたけれど、前世を思い出してしまった今となっては、特にそこを忌避する理由はなかったりする。
特に、私自身をモデルにした2Dキャラの私やイラストであるため、妙に髪色や目の色が明るいのに醤油顔でコスプレ感が強い、とはならない。
まあ、だからって出るつもりも今のところはないけどね。
ただ最近、今の私ならそういう所に出る事もできると考えているのか、お母さんが妙にモデルやら演技に興味はないのかとチラチラ見てきているのが凄く気になっている。
さすがにそっちには興味ないです。
ともかく動画の方向性としては、割と多岐に亘って活動できそうだ。
せっかくお母さんとユズ姉さんがバックアップしてくれたんだし、やるからには色々やっていっていこうと思ってる。
早速とばかりにピアノを弾き始めて指を温めていきつつ、バブルで来た曲をうまく繋げてメドレーっぽく弾こうと思いながら有名な曲を繋げていく。
アニメソングの方がリクエストが多いのは、視聴者層の関係なのかも。
あとは有名なゲームの戦闘シーンで使われる曲とかも結構ある。
私はあまりゲームはやってこなかったけれど、名作と呼ばれるようなゲームはそれなりに動画で見てきた。
……けど、気に入らない。
何故魔王イコール分かりやすい悪なのか。
確かに魔界は実力主義というか、強い種族が支配地域を広めてそれぞれの地域毎に独自のルールが設けられているという無法地帯ぶりだった。
でも、そんな魔界を最初に物理で統一した私は、その後はそれぞれの種族に無理を強いることなく、何度となく話し合いを設け、暮らしと環境の改善に尽力した。
たまにこう、肉体言語というか、OHANASIする事がなかったと言えば嘘になるけど、平和を実現させてみせたのは間違いない。
人界の者らと様々な交易を実施し、魔界の暮らしを豊かにしたものだ。
というか、基本的に戦争を仕掛けてくるのは人界側だったからね。
寿命が短いからって世代が変わって二代も変わると思い出したかのようにちょっかいをかけてくるのだ。国の名前も変わるし。
自分たちにないものを協力してどうにかするのではなく、奪おうという考えに至る愚かな考えを持つ者が国の上に立つから、国が荒れる。
いけない、花も恥じらう女子高生なのに殺伐としてしまう。
リクエストにないのに魔王を弾いてしまうぐらい魔王が表に出てくる。
謎だ、何故私は魔王を弾いている。
「んーー……」
何曲か弾きながらこことここを繋いで、やっぱりまた変えて、と何度も弾き直す。
うん、ある程度落ち着いたし、これでいいや。
しばらく弾き続けて組み替えてと続けていると、気が付けばもうすぐ夕飯の時間が近づいていた。
今日はお母さんも出かけているし、時間もないし、置き配出前かな……。
そんな事を考えながらスマホのリストを閉じてアプリを開こうとしたら、ユズ姉に言われてPCとスマホに入れている『Connect』の通知が入っていた。
ユズ姉さんが承認してくれたのと……うん?
エフィール・ルオネット……?
そんなアカウントからフレンド申請が届いていた。
……えっと。
エフィール・ルオネット。
ジェムプロ黄金時代を築いた有名Vtuberでチャンネル登録者数は150万人。
割とサバサバした感じでFPS系のゲームが好きなんだけど、ちょくちょく罵声が飛ぶ。
ほのぼの系ゲームをやるとたまにやらかして大惨事を引き起こして叫んでいたりする愛されキャラなエルフ姫。
そして、私の初配信をモノロジーで拡散してくれた張本人。
だけど……いきなり申請されるって、ユズ姉さんが教えたりしたのかな?
ちょっと確認しておかないとだ。
フレンド申請を受諾してくれたお礼を伝えがてら、エフィール・ルオネットさんに私のアカウントを伝えたのかチャットで質問を送っておく。
忙しいとは思うけど、いずれ内容を見て連絡してくれると思うし。
それまではちょっと承諾も拒否もせずに放っておこうかな、うん。
V業界はどちらかというとお昼過ぎから夜まで仕事とかになりがちだって聞いた事あるし、もうすぐユズ姉さんの箱のVタレントも配信の時間になってくるから忙しいだろうし、返事は明日のお昼ぐらいかな。
よし、困惑はしたけど一旦忘れておこう。
とりあえず、ご飯食べてから配信頑張ろっと。