【配信】重大発表 Ⅱ
「まあ、そんな訳での。此奴の名はロココじゃ。今後配信に映る予定じゃな」
「あいっ! ロココにございまするっ!」
「うむ、元気でよろしい」
視聴者にセバスチャンなる架空の存在がいない事を確認させた後で、レイネに甘えるように手を繋いで立っているロココちゃんを映して改めて紹介してあげると、ロココちゃんは空いていた手をずびっと挙げて挨拶した。
『え、妹さん??』
『小学生ぐらい?』
『かわいい』
『個人勢なのにこの謎技術やらメイドさんに妹キャラと言い、やってる事が立派な箱で草』
コメント欄はロココちゃんの可愛さを称賛している声と、私の配信チャンネルのやってる異常性というか、尋常ではない配信、複数Vtuberの登場に困惑している声があがったりと、相変わらず盛り上がっている。
そんなコメントの数々をちらっと目で確認しつつカメラを浮かせたままレイネとロココちゃんにこちらに並ぶように手招き。
浮いたカメラをそのまま避けさせつつ二人を追いかけるようにレンズに捉え続けていて、私の横に二人が並んだところでカメラだけが先程までレイネのいた位置に戻っていく。
『え、カメラって陛下が持ってたはずじゃ?』
『どうなってんだ??』
『カメラワークえぐすぎん?』
『やっぱり実はセバスチャンなる黒子がいる』
「貴様ら、セバスチャンとかいう名前好きじゃな……」
『執事と言えばセバスチャンやろ』
『セバスチャン以外に執事で有名な名前が思い浮かばない』
『執事って書いてセバスチャンって読む』
『もうセバスチャンもデビューさせよう?』
「いや、セバスチャンなる執事なんぞおらんぞ……。カメラは魔法で浮かせておるだけじゃしのう」
「浮いているのでございまするっ! はわぁ……、これ引っ張ったら落ちるのです?」
「やめましょうね」
「はぅっ!? だ、だめでございますか!?」
トコトコとカメラに近づいていって手を伸ばしているロココちゃんを、レイネが襟首を掴んで止めてみせれば、コメント欄が大草原になった。
ロココちゃんとレイネって、こうして見ていると仲のいい姉妹というか、手のかかる妹の面倒を見ている姉みたいな構図で面白いんだよねぇ。
お揃いの服とか着せて姉妹っぽく見せたりするのもありかもしれない。
私と違って、髪色だってレイネもロココちゃんも黒でお揃いだし。
「とまあ、気付いておる臣下もいるであろうが、ロココはちょいと世間知らずでな。この配信を機に色々なものに触れていければ良いと思っておる」
「お、下ろしてくださいませ、レイネ様ぁぁ」
「ダメです。しばらく大人しくしていましょうね」
『抱きかかえられてて草』
『可愛すぎかよw』
『というかメイドさん、今片手で襟首引っ張って持ち上げてから抱き上げた……?』
『どんな力してるんww』
うん、自重ってものが吹っ飛びつつあるからね。
普段のレイネならそういうのもしっかりと卒なく隠してこなすけれど、場所が場所だし、画面に映ってる私達もアニメーション3Dっぽい感じに幻術が働いてるから、隠さなきゃって意識がなくなってるのかもしれない。
まあそれはそれで面白いからいいけど。
私も魔法を使って物を取ったりとかするつもりだし、隠す気はないからね。
『っていうかホントこの新技術ってなに??』
『スタジオで撮っています、とは見えないんだが』
『全編3Dアニメーションを作って配信してるって言われた方が納得できるレベル』
『どうやったらこんな事になるん?』
同時接続人数は気がつけば4万人にもなっていて、コメント欄は凄まじい速度で流れているらしい。
いや、私が思っている以上に注目度高いね、これ。
「新技術については、こうして貴様らが見ておる通りじゃな。しばらく新技術3D配信を開発しておったんじゃが、そのお披露目というところじゃ。まあ、そっちはそこまで騒ぐ程のもんでもなかろう。今日のメインはロココのお披露目じゃし」
『騒ぐ程のもんなんじゃよw』
『マジで謎過ぎる』
『カメラワークで誤魔化してるって訳でもないし』
『どんだけ金かかってんだ、これ』
カメラの改造とか諸々でお金は確かにかかってるけれど、視聴者のみんなが思ってる程のものではないんだよなぁ。
多分、みんなが想像してるようなものとは桁が4つか5つぐらいは違うだろうしね、実際は少ないという意味で。
「陛下、せっかくならバルコニーをご覧いただいては如何でしょうか?」
「ぬ? もう陽も落ちておるぞ? なんも見えんのではないか?」
「星と月が海面に揺れる景色ぐらいは見えるかと」
「ふむ、まあ行ってみるかの」
レイネに言われるがまま玉座から腰を上げて、カメラを空中に浮かせたまま私達はバルコニーへと歩いていき、その場でカメラが徐々に上昇していく。
『は????』
『ちょっと待って。画面切り替えで移動しました的なアレじゃないの?w』
『どういう事よw というかカメラワーク、クレーン使ってんのかっていうw』
『意味分からない事がさらに増えて草』
「へーかへーか、わたくしめもその板を見たいのでございまする! こめんと、なるものが読みたいのでございまする!」
「ぬ? ほれ」
「わーい!」
『いえーい、ロココちゃんみってるぅー?』
『バンザイしていちいち仕草が可愛い』
『ロココちゃんprpr』
『通報しました』
タブレット端末をロココちゃんが持てる位置に移動させてあげると、ロココちゃんがバンザイした手を差し出してそのまま両手で受け取り、凄まじい速度で流れていくコメント欄に目を向けてフリーズ。
何事かと思わず私とレイネが立ち止まったところで、ロココちゃんが目を回しながら顔をあげてフラフラと頭を揺らしていて、レイネがそれを見て抱き上げた。
「め、目が回りましてございまする……」
「……慣れるまでは見ない方が良さそうじゃなぁ」
てっきりさっきもタブレットを見ていたのだから大丈夫だろうと思っていたのだけれど、さっきは自分が映っているという点だけを見ていたのかもしれない。
コメントをぱっと見て、目についたものだけをピックアップするんじゃなくて、全部のコメントを追いかけようとしたんだろうなぁ……。この子、肉体的なスペックだけで言えば人間よりも上位のものを持っているっぽいし。
『抱き上げられてて草』
『カメラァ! もっとちこう! ちこうよれ!』
『ロココちゃん天然かな?w』
『一挙手一投足が可愛いw』
いくらカメラが離れているとは言っても、声や動きは見えている。
ロココちゃんの行動の一つ一つが視聴者的にも受け入れられているようで、なかなかに盛り上がってくれている。
「陛下、如何なさいますか? よろしければ部屋で休ませてまいりますが」
「だ、大丈夫でございますれば~~……。ちょっとしたら落ち着くと思うでございまする~~……」
「ま、本人がそう言っておるようじゃしの。すまぬが、そのまま運んでやってくれぬか?」
「かしこまりました」
ともあれ私達もバルコニーに進み、魔力でサッカーボールぐらいの大きさの淡い光を放つ光球を空中にばら撒いてから、玉座の近くに浮かんでいたカメラへと振り返り、指をくいっと曲げて合図をしてみせる。
カメラがそのまま空中を滑るようにゆっくりとこちらまでやってきて、バルコニーに出てきたところで、そのままバルコニーを飛び越えて、月と星の反射する海を映し出し、くるりと反転。
バルコニーを進む私達を斜め上空から映した。
『はあああ!?!?』
『え、マジでどうやって映してんの!?』
『お城やん!?』
『いやいやいやいやwwww』
『これ3Dフルアニメーション!?』
『ちょっと待て、画面切り替わったりしてないんだぞww』
『セバスチャンが飛んだ!?』
いや、セバスチャンなんていないんだけど。
架空の人物を作って、しかも空を飛ばさないでほしい。
初老で糸目っぽい老人執事っぽい感じの人がカメラ持って飛んだ姿を想像しちゃったじゃん。
「まあ、見ての通りここは魔王城での。崖の上に佇む形になっておる」
『待ってw ねえ待ってw』
『これVtuberっていう次元じゃなくねぇ……?』
『技術屋のワイ、この撮影技術にまったく見当つかなくて大爆笑中』
『これ3Dフルアニメーションだよね? そうだと言って?』
『爆笑技術屋じゃない方の実は技術屋らしいヤツが陛下の配信をアニメーションにしたがってて草』
『いや、ワイもVtuber関連の仕事してるけど信じられないんだが』
『技術屋大量発生しとるww』
なんかコメント欄凄い事になってるなぁ。
同時接続もいつの間にか12万人とかいう訳の分からない数字になってるし。
「アニメーションかどうかを疑っておるようじゃが、そういう訳ではないのう。さっきも言った通り、新技術でこういう事ができるようになった、それだけじゃしの」
『魔法です』
『いっそ魔法って言われた方が納得できるレベルで草』
『ドローンでも使って飛ばしてるとか?』
『いや、実写ならドローンは考えられるけど……』
『マジで魔法の技術ってヤツなんよなぁw』
うん、魔法だもの。
公言するつもりはないけれど。




