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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第三章 『魔王軍』始動
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一人作業中




 今日から夏休み。

 登校する必要がない、朝起きなきゃいけない理由がない日々っていうのは確かに気楽ではある。

 けれど、日々の習慣を崩してしまうと一日一日がやたらと短くあっさりと過ぎていってしまうんだよね……。

 なので、なるべく起きる時間なんかは統一しておこうと思っている。


 海の日を境に始まる夏休みの最初の数日はトモとかユイカとか、このみんとかもそれなりに用事があったりするらしいので、私もモデルの調整やら何やらを行っていくつもりだ。


 あと、色々と配信のネタなんかに関してもそろそろしっかり探しておかないとね。

 夏休みだから配信頻度増えてほしいっていう声も最近は結構多くなってきたし。


「――では、午前中は凛音お嬢様は自室で作業を行う、と」


「ありがと。うん、その予定だよ」


 朝食。

 焼きたての食パンにマーマレードジャムを塗って手渡してくれたレイネにお礼を言いつつパンを受け取って肯定する。

 焼きたてのパンの香ばしい匂い、結構好き。


「かしこまりました。先日お伝えさせていただきました通り、私は本日、午前中は外に出る用事がありますので、お時間をいただきます」


「うん、分かってるよ」


「……本当によろしいのですか?」


「大丈夫だよ、用事があるなら用事を優先していいってば」


「それは理解しているのですが……、凛音お嬢様がご在宅であるというのに、私が買い物などでもなく出かけるというのは、どうも落ち着かないと言いますか……」


「いや、そこまで気にしなくても大丈夫だって。私よりレイネが嫌がってるだけじゃん、それ」


「それは……、はい」


「いや、肯定されても困るんだけど。用事なんだから仕方ないって割り切りなさい」


「……はい」


 前世――魔王として生きていた向こうの世界ではレイネが近くにいなくても、他の配下がいたりもした。まあそれは魔王としての政務なんかがあって、その指図に動いてもらうためだったりもしてたからだけど。


 それに比べて今生では別に政務なんてないのだし、ごく普通……とは言い難いか、Vtuberやってるし。ともかく、別に私の印やサインがないと物事が動かなくなったりなんていう事もないのだから、そこまで気にしなくていいんだよ。ただのJKなんだから、私。


 レイネがいてくれるのは嬉しいけれど、ぶっちゃけ、他に配下やらメイドやらにいてもらう必要があるかないかで言えば、ないんだよね。

 レイネは家族みたいなものだから別枠だし、語弊を招きかねないから絶対言わないけど。


「それで、レイネのその用事っていうのは上手くいってるんだよね。Vtuber配信用の開発、だっけ?」


「はい。先日話した通り、その為の事前準備というところではありますが、滞りなく。本日の用事が終わりさえすれば、すぐにでも動き出せるかと」


「おー、そうなんだ」


 もともと、レイネが何かやろうとしていたのは知っているんだよね。

 結構前にVtuberの話をした時から、なんか3Dモデルがどうのっていうところには食いついていたし、何かしようとしてるんだろうなぁ、とは思っていた。私が学校行ってたりする時間に何やら出かけてる事なんかもあったしね。

 で、それが先日、期末テストが一段落したところでいきなり「ようやく話がつきましたし、動けるようになりそうです」なんて言い出したものだから驚いた。


 今日はどうやらその仕上げだかなんだかをしてくるのだそうだ。


「とりあえずその件は任せてるけど、本当に私が何かしたりしなくてもいいの?」


「勿論でございます」


「ん、分かった。気をつけてね」


「はい」


 レイネがそこまで言うなら任せよう。

 そんな事を思いながら、マーマレードジャムの塗られた食パンを頬張る。うむ、うまし。

 食欲がなくなるこういう暑い時期でも、爽やかな匂いのものなら抵抗なく食べられてしまうのだから人間って割りと単純だなぁ。





 さてはて、レイネが出かけて自室で作業を開始。


 ゴールデンウィークのあの騒動以来、私は配信活動を一時的に自粛して、頻度を下げているのだけれど、それでもチャンネル登録者数は38万人という人数を誇っている。

 一時は43万人ぐらいまで増えていたんだけれど、『OFA』を含めた対人FPSゲームはもうやらない事などを宣言したりしたら減ったんだよね。そういう配信を求めた視聴者もそれなりにいたんだろうなと思う。


 もしも私が普通にVtuberとして大成したい、頑張っていきたいと思っていたら、これを武器に続ける方向で考えていたかもしれない。

 やっぱり人気を博したいとか、継続的にコンテンツとして、エンターテイメントとして生き残る事を考えると、強みになるもの――たとえば一つのゲームをやり込んでいくとか、一つのジャンルを極めるとかも武器になるからね。


 とは言え、私の場合は魔力があるから、ツールとかは使っていないと言っても、チート(ずるいもの)である事は変わらないし、それを自覚しちゃった以上はやるべきじゃないと思ってる。

 それをやったら、実力で頑張っている他のVtuberや他の配信者に対してフェアではないしね。


 ハッキリ言ってしまうと、今はまだ私も「Vtuber一本で生きていきたい!」という明確な意思はなかったりするから、右往左往するのも良し、やりたいようにやりたい事だけをやるのも全然ありだろうとは思っているのだ。

 だからこそ、これからどういうジャンルで進もうか考えつつネタを探している今の状況で、レイネが何かを用意してくれるっていうのは有り難い。幅が広がるかもしれないからね。


 そんな事を考えつつ、配信のネタ――主にゲームを配信するならば配信でやっていいかなどの著作権的な部分で引っかからないかの確認とピックアップ、サムネイル作りに時間を費やしていく。


 ……ふむ、耐久配信になるようなゲームが昨今の主流かぁ。

 やるとしたら他の配信者の切り抜きとか見ないようにしておかないと。

 コースとか初見殺しみたいなネタを知っていると面白くないだろうし、わざと引っかかるっていうのも面白くない。


 でもまあ、こういうゲームは「知っているVや配信者がやってるから面白い」系かな。

 知らない配信者がこのゲームをやって四苦八苦している姿をわざわざ観ようとは私だったら思わないだろうし、だったら切り抜きで充分って思っちゃうだろうし。


 とりあえず既存配信者向け、新規配信者向けになりそうなゲームをそれぞれピックアップし終わったので、気分転換に『バブル』――匿名質問受け付けツール――を確認。


 最近確認してなかったんだけど、ゴールデンウィーク――というより、レイネが呪いを発動したあの頃から、アンチ系の投稿は一気に激減してるっぽいね。


 あとは……ネタなのかただの勢いなのか、どういう精神状態で書いて思い浮かんだのかも分からないようなものもちらほらと見える。


 ……大丈夫か、この人たち。

 面白くもない長文が延々と書かれていて、オチもない。

 調べてみたら、どうもなんかの元ネタを使った構文、とかいうヤツらしい。

 ネタが通じないと完全に置いてけぼりというか、くすりともできない謎のテンションの長文なものだから、ただただ困惑しかないんだけど……。

 配信で使おうにもネタを知ってる人にしか通じないようなものを使う訳にもいかないし、放置かな。


 あとは……うん、ちょくちょく割りと重めの相談があるね。

 これは多分、私が昔答えたイジメ問題に対する対応の回答とかがあったから、それを見て投げてきたのかな。

 お悩み相談みたいな回とか作って、答えていくのもありかも。

 こういう、Vtuberが相手だからノリと勢いで本音をさらっと投げられる、みたいな人もいるだろうし。


「……しかしまあ、意外と来てるなぁ」


 配信リクエスト、応援メッセージ、読み解くのにカロリーが必要そうな構文っぽいもの、お悩み相談とジャンル毎に分けていく。


 謎のお気持ち表明みたいなものは一読してそのまま消去。

 そんなものは知らんよ、観なければいいだけでしょ。理想を押し付けるぐらいなら理想にマッチする配信者を勝手に探しなよ、うざったい。

 いないなら妥協するか、自分で勝手に作って満足でもすればいい。

 他力本願に他人に対して〝自分の中での完璧〟を求める方がおかしいって事ぐらい、普通分かるでしょ。それはお気持ちじゃなくて、図々しいおねだりでしかないんだから。


 視聴者っていう不特定多数がいて、色々な思想を持った人がいるから、気に入ってくれる人もいれば、気に喰わないって言い出す人もいる。でも、そういう反応を見た時、後者の方が圧倒的に声が大きく見える。目につく、とも言える。


 人が百人もいれば、一人ぐらいは頭のおかしな事を平気で口にする人が出てくる。

 純粋に嫌ってくる人、マイノリティを気取りたがっている人だっているだろうし、ただただ「ノーを言える自分」とやらに酔ってるだけのものかもしれない。その動機は様々だ。

 ただ、嫌っていて拒否を突き付けたがる、相手を傷付けたがるような人は救いようがないけれど、それ以外の人達もまた、その自己満足を受け取るのが一人の人間であるという事を頭で理解していても、本質を、その影響までを理解していなかったりもするから性質(タチ)が悪い。


 これを「ネットが悪い」なんていうのは論外だ。

 生きる上でインターネットを利用するというシーンは出てくる訳だし、情報を得る、人付き合いにおいても何かと深く関わり合うものになったのだから、今更切って捨てる事ができる時代には戻らない。

 かと言って、「じゃあ仕方ないか」と臭いものに蓋をするように、ただただ遠巻きに、目を背ければいいってものでもない。


 単純に何が悪いのかと言えば、本人が大人ならば自ら学ばない本人が悪いけれど、分別がつかない内に悪いこと、やっちゃいけないこと、当たり前のことをしっかりと教えられない、周囲の大人も悪いんだろうね。

 人付き合いの中で学ぶべきこと、やってはいけない事を学ばせられていないのなら、それは教育が悪かったとしか言えないなぁ。


 ……前世というか、魔界じゃ分不相応な事をするのはイコール死だったからなぁ。

 親だって死なせたくないからこそ必死になって真剣に教え込んでいたけど、それに比べてこの世界は生きるのが容易い。

 死なせないために教育しなきゃ、という必死さがなくても生かす事ができる時代で国だからね。

 生き易い時代の弊害とも言えるのかもね。




 ――――そんな事をつらつらと考えたりしながら作業をしていると、玄関先にレイネが転移して帰ってきたのか魔力の動きを感じて、私も時計を見上げる。


 ……え、もうお昼近いじゃん。

 時刻は11時50分。

 部屋に来たのが9時ぐらいだったんだけど、気が付いたらこんなに時間が経っていたらしい。


 なんて考えていたら、部屋の扉がノックされた。


「――凛音お嬢様」


「どうぞー。おかえりー」


「……その、ただいま戻りました」


「え、どしたの?」


 部屋に入ってきたレイネに声をかけつつ顔をあげてみると、いつもは済まし顔で佇むレイネには珍しい、少々困惑した表情を浮かべていた。

 本人の歯切れもずいぶんと悪いようだし、何か想定外のトラブルでもあったのだろうと思って椅子を回転させてレイネに身体ごと向き直ると、レイネは意を決したように私の顔をじっと見つめてきた。


「凛音お嬢様、昼食後なのですが、同行をお願いできますでしょうか?」


「同行?」


「はい。……その、私だけでは判断しきれない問題が発生いたしまして……」


「あら、珍しい。うん、別に用事もないし大丈夫だよ」


「ありがとうございます……! すぐに昼食の準備を済ませますので、きりの良いところでリビングへお願いいたします」


「うん、分かったー」


 レイネだけじゃ対処できないような問題、ねぇ。

 一体何が起きたんだろうと思いつつ、パソコンをポチポチして各種ファイルやらを保存しつつ、いつでも出られるように軽く準備を済ませてからリビングへと向かった。



 



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