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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
幕間 夏休み前のテスト休み期間編
79/201

無自覚なまおー様

「――あの、滝さん!」


「ん?」


「えっと、は、話があるから、良かったらちょっとだけ時間をもらえない、かな……?」


 期末テストがようやく終わって、さてトモとユイカ、それにこのみんと夏休みの予定を話そうかと席を立ったところで、突然クラスの男子から声をかけられた。

 男子の声が大きかったせいで、何やら周りからもずいぶんと注目を集めているようだけれど、まあそれはいいとして。


「で、なに?」


「えっと、その、いいってこと?」


「ん? いや、いいも何も、今ここで話せばいいと思うけど」


「え……っ?」


「え?」


「あー、その、さすがにここではちょっと……」


 ……ふむ、何か言いにくい内容であるらしい。

 ちらりと周りに視線を向けてみれば、なんだか爛々と興味津々といった様子で目を輝かせている子たちが多い。

 なんとなくだけど、キミらワクワクしてない?


 ともかく。

 さすがに何か相談事があって大事な内容というか、デリケートな内容なら、周囲が見てくる中では言いにくい事もあるかもしれない。


 かと言って、はて?


 私はそんなデリケートな相談を受けるほど、この男子と関わり合いになった覚えはないんだけど。

 それにトモとかと夏休みの話をするつもりだし、あんまり時間使う気もないし……うん。


「悪いけど、ぱぱっと話せるような内容じゃなさそうだし、断らせてもらうね」


「え……?」


「私はキミとそこまで関わり合った覚えもないし、そんなキミから話があるからって人前で話せないようなものに対して、私が何かで応えられるとも思えない。だったら最初から断らせてもらおうかなって」


「あ……、え、その……。じゃ、じゃあこの場で言うから!」


「いや、さっきも言った通り、そもそも応えられないから言わなくていいよ? ここで言ってもらっても答えは変わらないんだし。他を当たった方がいいよ」


「…………ハイ」


 なんだかガックリと肩を落としているみたいだけれど、何か良い答えでももらえると思っていたのかな。

 私からすれば名前すら判然としない相手だし、大して話した事もないんだから私が彼の希望に沿った答えを出すなんて有り得ないと思う。親しい人間がいるならそっちに相談した方がよっぽど良いよ。


 ほら、とぼとぼと戻っていった彼の肩に腕を回して声をかけてくれている男子もいるんだし、そっちの男子に相談した方がよっぽど建設的だよ。


「――……リンネ……」


「え? あ、どしたん、トモ? ずいぶんと苦い表情浮かべてるけど」


「……いや、うん。公開未遂処刑っていう文言がちらつくよ、ウチの頭には」


「なにそれ?」


 公開未遂処刑……公開処刑、処刑未遂とかならなんとなく想像つくけど。

 まあギャル系のトモとかユイカとかって造語とか当たり前のように作るから、多分きっとこれもそういう感じだと思う。


「ちなみにリンネ」


「ん?」


「今のって、どうして断ったの?」


「どうしてって言われても、ユイカだって見てたでしょ。私、あの男子のこと知らないし、なのに相談とか持ちかけられても困る。名前も知らないし。そんな相手から知恵や力を貸してくれって言われたとしても、応える程の義理もないから。だったら話を聞いても聞かなくても一緒でしょ」


「あぁ~~……」


「え、なに?」


 質問してきたユイカだけじゃなく、私たちを見ていた他の生徒の数名まで同じような声をあげて天井を仰いだ。


 え、なに、何かの儀式?

 サバト?

 もしくは未確認飛行物体とか呼んじゃうあれ?

 未確認飛行物体とか見てみたいんだけど。


「ね、ねえ、リンネ」


「なに、このみん」


「その……わざと(・・・)、なの?」


「……? わざとって、何が?」


「アッ、ハイ。よく分かった、うん。そっか、無自覚か……。まあそうだよね。さすが陛下……」


「え、なんの話?」


 しかも今普通に陛下って言ってなかった?

 え、今の私の対応と配信の時の私に何か共通する事なんてあった?


「大丈夫だよ、リンネ! リンネはそのままで大丈夫! ね、トモ! このみん!」


「う、うんうん、そだね! ウチもリンネはそのまんまでいいと思う!」


「え、いや、放っておいたらトラウマ量産機になるんじゃないかしら……」


「いいんだよ! 少なくともウチらには害はないし! それより早くファミレスいこ!」


「お、おー!」


 元気に声をあげる――というより、なんだかどこかヤケクソめいた勢いで告げるユイカとトモに引っ張られるように、夏休みの予定を話し合うために予定していたファミレスへと向かう事になった。

 ちらりと教室内を見てみれば、何故か女子からは苦笑い、男子たちからは引き攣った表情で見送られていた。なんなんだ、一体。







「はあ、外あっつ……。死ぬて、こんなん」


「あー、冷房最高……文明の利器マジパネェ……」


 茹だるような暑さの外を歩き続けて、ようやく到着したファミレス。

 その中に入って席に着いた途端、トモとユイカがぐったりとした様子で呟いた。


「夏は外出ると汗ばむし、メイクも落ちるから面倒なのよね……」


「ほんそれ。テンション上がってなきゃやってらんねー。マジ無理」


「あーね。下手に汗かいて雑に拭いたりしたら、それこそ大惨事だし」


 うん、普通はそうだろうね。

 私はまあ、いつも通り魔力障壁でどうにでもなってるけど。

 体感温度も湿度も、冷房で冷えてる部屋と何も変わらないしね。


「……リンネ、涼しい顔してるわよね……。汗ばんですらいないし」


「うん、北欧の血が流れてるからね」


「出たな、超便利な北欧!?」


「それマジだったらウチも北欧んとこの子になる」


「いやいやいや、何言ってるのよ、あなた達……。というよりリンネだって、北欧ってそもそも夏にこんなに気温上がらないじゃない」


「うん、まあそうだろうね」


「じゃあなんで北欧って言ったのよ」


「なんとなく」


 お約束かなって。

 ほら、とりあえず北欧って言っておけばユイカとトモは納得してくれるし、きっと「そういうもんなんだ」ってあっさりと受け入れてくれるんだ。

 ギャルの器はデカいんだよ。細かいことなんて一切気にしてないもの。


 くだらないやり取りをしながらお昼ごはんを注文して、ドリンクバーで飲み物を確保。

 夏の暑さにやられていたトモとユイカ、それにこのみんの表情に活力が少しだけ戻ってきた。


「ところで、リンネ」


「ん? なに?」


「リンネ、さっき学校であった男子のアレ、本当にただの相談だと思ってるのよね? しらばっくれてるとかじゃなくて」


「え、相談以外に何があんの?」


 このみんに言われて、さっきの男子の姿を思い返す。


 ちょっと緊張して開かれた瞳孔に揺れる視線、逃げないと覚悟したのか強張っていた表情に、やたらと鳴り響いていた心音。

 人間には分からないかもしれないけれど、それぐらい普通の状態とは程遠い焦燥に駆られている事が見て取れた。

 あのレベルで動揺しているとなると、ちょっとした命の危機とか、そういうものであってもおかしくないし、だからこそ、赤の他人に「どしたん、話聞こか?」と軽々しく事情を聞くなんて事もできない。


「ちょちょっ、このみん。リンネはそれでいいんだってば」


「ダメよ。逆に変にグイグイ来たチャラ男のせいで自覚して、簡単にころっといっちゃったらどうするの?」


「いやいや、リンネに限ってそれはないって」


 なんだろう、このみんが何かを私に伝えようとしていて、トモとユイカがそれを止めてる感じみたいだけど。

 ヒソヒソと相談するように喋るこのみんの声に耳を傾ける二人が、何か難しい顔をしつつも納得したように頷いている。


 あ、メロンソーダたまに飲むと美味しい。


「……えーっと、リンネ」


「んぁ? はい」


「これから何が始まりますか?」


「え? 夏休みに何して遊ぶか相談するんじゃないの?」


「や、そうじゃなくて。これから私たちは夏休みな訳です」


「そうだね」


「で、夏休みと言えばこう、開放的な気分になったりする訳です」


「へー、なんで?」


「えっ」


「え?」


 夏休みで開放的な気分になるって、どういうこと?

 暑い時期に薄着になるから開放的とか、そういう感じ?


「えーっとほら、リンネ。長い休みで普段とは違って羽目を外せるじゃん?」


「なんで? 長期休みなのは確かに気楽にはなるけど、だからってそれで何かが変わる訳じゃないでしょ。どうせ夏休みはいずれ終わるものなんだから、わざわざ開放的な気分になるって程のものでもなくない?」


「ぐはっ、ド正論パンチ……ッ!?」


 何かいい事があってお祭りをするとかなら分かるけどね。

 たとえば抑圧され続けた民衆が革命で腐った王を打倒した、とかなら開放的な気分っていうのも分かる。生活とかだって変わるだろうし。でも、夏休みって別に決まった時期だけの話だし、何か劇的な変化が訪れるって訳でもないでしょうに。


「だ、ダメだ、このみん! リンネに一夏の淡いアバンチュール目的というか、夏休みにお近づきになりたくて声をかけてきたとか、そういう思春期のアオハルを説明しても通じる気がしない!」


「もともと男子に興味ないって言い切ってたけど、興味どころかいっそ関心すらないんじゃ……」


「リンネはやっぱこれでいいんだよ」


 またまたひそひそと話し始めてしまったので、聞こえてはいるけれど意味を考えずに聞き流す。

 実際、何が言いたいのかよく分からないけど、ユイカもこれでいいって肯定してくれてるし。


 そんな事より、メロンソーダが美味しいのは最初の数口だけだね。

 コップにいっぱい入れてきたのは失敗だった。

 炭酸でお腹いっぱいになりそう。


「そういえばリンネ、アタシら夏休みはそれぞれ予定あるんだけど、リンネって夏休みどっか行ったりしないの?」


「ん、私も出かける予定だったりするよ」


「へー、実家に顔出すの?」


「ううん、そうじゃないんだけどね。というかウチ、実家みたいなものだし」


 未だにひそひそと続けるトモとこのみんを他所に、話しかけてきたユイカに答えていく。


 我が家はもともとお母さんの祖父母の住んでいた家ではあるしね。

 実家に帰ると言えば、みたいな昔ながらの田園風景広がる田舎に家がある暮らしは無縁なんだよね。

 ああいうのが羨ましく思ってしまうのは、ああいう田舎暮らしを体験した事もないからなのかもしれないけど。


「実家じゃないのかー。え、じゃあ何しに行くん? 旅行?」







「んー、強いて言えば……開発?」






「「「開発??」」」


「うん、開発」


 その後、何を開発するのかとか、何処で何をするのかと散々質問責めにはあったものの、のらりくらりと回答をはぐらかして、夏休みに何して遊ぶか会議は無事に終了した。










お読みくださりありがとうございますm

次話より次章開始しますー。



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