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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
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第二章 エピローグ

 慌ただしかったゴールデンウィークが終わって一ヶ月ちょっと。

 じめじめとした雨が続く梅雨の時期に入り、本格的な夏の到来がぐっと近づいてきた。


 この時期の、晴れ続きの中でぽつぽつと雨が降り始めて、熱したアスファルトを冷やした時に立ち上る、独特な匂い。この匂いを嗅ぐと夏の訪れが近いと強く感じるのは、きっと私だけじゃないはず。

 ただ、夏日を思わせるような暑い日が数日続いたと思ったら、急激に気温が下がって、という具合に「夏だと思った? 残念、まだでーす」みたいな煽ってるような気分になる気温差が激しいこの時期は、ぶっちゃけ私は嫌いだ。


 もっとも、梅雨に入って毎日ジメジメとしていて嫌だね、なんて話していたら、「は? 花粉症は死にたくなるレベルだが? 春に比べれば天国なんだが?」と真顔でトモがそんな事を言い放ち、私とユイカが爆笑したのも記憶に新しい。

 ちなみにこの時、一緒にいたこのみんが「自分も来年はそうなるかも……」なんて言いながらスマホで必死に治療法と治療費、漢方なんかが効くという記事を見つけて漢方をチェックしていて、その必死さに思わず軽く引いたのは内緒。


 色々調べているのはよく分かったけど、それ共有しなくてもいいんだよ?

 いや、いつかなるかもしれないっていう言い分は分かるけど、ね。


「……アタシらもなるかもしれないんだよね、来年から」


 お昼休み。

 教室でこのみんがオススメする漢方なのかハーブティーなのかよく分からない特集の組まれたページを見せてもらっている中、ユイカがぽつりと呟いた。


「そっか。残念だね、ユイカ。来年はユイカもあちら側か……」


「っ!? え、アタシだけ!?」


 私、花粉が酷い時期は魔力纏って地味に薄い結界張ってるしね。

 防護服着てるようなものだもの。言わないけど。


「ほら、私は別にだけど、さ。ユイカはもう……初期症状が……」


「――ッ、ま、さか……ッ! み、認めない! 認めてたまるか!」


「ふ、ふふ……ふははは! 貴様が認めようが認めなかろうが、花粉症(ヤツら)は止まりはせぬよ、ユイカ。ほぉれ、お仲間(・・・)が呼んでおるぞ? ん?」


「……ねえ、ユイカ……? おいで……? ほら、私たち、ずっとイッショ、でしょ?」


「ひぃっ!? く、くるな……っ! くるなぁぁぁ!」


 トモ参戦。

 背後からユイカの肩に手を伸ばして掴むと、割りと本気で驚いたらしくユイカの身体がビクッとしてて、そのおかげか妙に演技が上手く見える。


「……はあ。あなたたち、急に即興で劇みたいになるの、なんなの」


「ただの悪ノリ。というか、冷静にツッコミ入れてるこのみんだって、花粉症になってしんどい時にやったじゃん」


「んなぁっ!? ち、ちが……! あれはしんどくて頭が回ってなかったの!」


 すんっと元に戻ったユイカの鋭い返しに、このみんが顔を赤くして声をあげた。

 あー、改めて言われると恥ずかしくなるヤツね、わかる。

 なんか黒歴史みたいになるんだよね。


「あ、そういえばリンネ。最近あんま配信してないっぽいけど、まだ自粛してるん?」


「そうそう、アタシもそれ気になってた」


「あまりそういうの質問すると復帰を無理に勧めているようでどうかと思ったけど……。そうね、私も気になってるかも」


 トモの質問を皮切りにユイカとこのみんも乗っかってきた。

 いや、切り替え早いね、みんな。

 すっごい話題飛ぶじゃん。


「んー、まあそもそも自粛っていうか、ちょっとやる事が多くて配信後回しにしてる感じだけどね。『OFA VtuberCUP』が終わって妙に注目されてチャンネル登録者伸びてるし、休むタイミングとしてはちょうどいいかなって思って」


「え、そういうタイミングってむしろ視聴者を定着させるために頑張るんじゃないの?」


「普通ならそうかもしれないけど、私の場合はほら、『OFA』っていうFPSゲームのスーパープレイみたいなので注目集まったじゃん? でも私、別にFPS好きでもないし、今後もそういうの期待されても困るからね」


「えー、もったいないなー」


 確かにトモが考える通り、普通ならチャンネルに注目が集まっているなら頑張るタイミングなのかもしれないし、ユイカが言う通り、もったいないと言えるかもしれない。

 でも、残念ながら私個人としては、チャンネル登録者数が増えた事をシンプルに喜べないんだよね、状況が状況だっただけに。

 何かと色々な理由で話題になっちゃった大会だから、「ヴェルチェラ・メリシスを観たい」という層じゃなくて、「OFAの跳弾技術を観たい」だったり、「騒動で話題になってるからチェックするために登録した」という視聴者が大多数だと思う。


「確かに、最近チャンネル登録者数が結構推移してるっぽいわよね。でも、週に一度の配信でもアンチっぽいコメントとかは全然見なくなったし、安定してきてると言えるんじゃないかしら?」


「……このみん、よく見てるね」


「私はあの大会より前から臣下だったもの、当然よ!」


「おぉ、ちっこい様がドヤっておる」


「誰がちっこい様よ!?」


 古参臣下感を出したこのみんをトモがからかったせいで、このみんが凄まじい勢いで食ってかかった。


 いや、否定はできないよ。このみん、実際のとこかなり小さいし。

 多分、身長145センチもない……というか、もしかして140センチもないかも……?

 目測じゃ分からないけど、かと言ってシンプルに質問しても怒りそうなんだよなぁ、バカにしてる訳でもないのに。


 ほら、小さい女の子ってそれだけでちょっと可愛いからね、人形みたいで。

 このみんの場合、顔も結構整ってるし。


「でも、ゴールデンウィークの頃はリンネの配信、凄かったもんねー。アンチというかさ。ああいうの、アタシらも似たような業界だから湧いて出てくるっていうのは理解してるけど、いい気分はしないよねー」


「ま、そらそうでしょ。ウチらを気に喰わないなら見なきゃいいのに、なーんであんな風にいちいち目につくところで文句言うんかねー。事務所の先輩も時々メンタルやられてるっぽいし」


「私はそういう業界は分からないけど、難しいわよね。ああいうのは放置していても増長するし、構っても面倒だもの」


 トモとユイカは芸能事務所所属のアイドルの卵だけあって、私の置かれたあの状況について思うところもあったらしく、不完全燃焼気味というか、面白くないというのが本音みたいだ。ちょっと口を尖らせながらうんざりとした様子でぼやいている。


 このみんが口にしたのは一般的なアンチに対する認識なんだろうね。

 遠い世界の出来事とまでは言わないけれど、それでも視聴者として配信を観てくれている側にだって、アンチ系のコメントだとかは気になるというか、目につくんだなぁっていうのがよく分かる。


 まあ、私に対してアンチ行為をしていた人達は今頃、精神的に追い詰められているだろうけれどね。


 自分にしか見えない幻覚のように現れる下位悪魔。

 下位悪魔はそういう行為を行った本人がパソコン、スマートフォンやタブレットを手に取ろうとする度に姿を見せるらしい。かと言ってそういうのを手に取らないように努めている場合は、ふと鏡を見た時に映ったり、隙間から覗き込んだり、っていう行動を繰り返す。

 誰かに相談してもどうにもならず、かと言って神社やお寺なんかでのお祓いなんかも、この世界の力は弱すぎてレイネの力を前に解呪なんて到底できない。


 学生、社会人、主婦、ニート。

 色々な部類の存在がいたようだけれど、開示請求なんてしてもお金で解決できてしまう。それだけじゃ再犯するような連中だっているだろうし、精神的に追い詰められるのがどれだけ苦しいか、どれだけ辛いかを理解させるという意味でも【呪詛返し】は効果的だろう。


 まあ、とある掲示板では心霊騒ぎがどうのってたまに話題になってるみたいだけれど。

 もっとも、そんなネタは元々ありふれているものだし、「ヴェルチェラ・メリシスのアンチをしていたら心霊現象に遭うようになった」なんて結びついて掲示板に投稿したところで、「はいはい、必死に燃料ばら撒いて乙」ぐらいの扱いをされるのが関の山。


 あのゴールデンウィーク配信から一ヶ月半。

 今もまだ自然解呪に至った人物がいないというのだから、わざわざ他人を叩こうとするアンチという存在が、視聴者人数に比べていかに少数派で、いかに執着的に大量のアンチ発言をばら撒いていたのかが窺い知れるというものだ。


「あー、早く夏休みにならないかなー!」


「夏休みはレッスン合宿とかもあるけど、ちゃんと休みも取れるしね。リンネ、このみん。夏休み遊ぼうよ」


「うん、私は大丈夫だよ。このみんは?」


「私も大丈夫だけど、お盆時期は実家に顔を出しに行ったりもするのよね。だから、できたら7月の終盤から8月の前半あたり。あとは8月の20日以降あたりがいいかも」


「ウチらも似たようなもんだよね、ユイカ」


「だねー。お盆時期に合宿があったりするからさー。スケジュールハッキリしたら連絡するねー」


「えぇ、分かったわ。ま、ウチの学校は夏休みの宿題なんてものもないし、みんな比較的自由に過ごせて助かるわね」


「それなー! 夏休みに宿題がどっさり出されるってウチの養成校の友達が言ってたけど、ウチはそーゆーのないし、マジで良かったよー」


 確かにウチの学校は夏休み――というか、長期休暇の宿題らしい宿題ってものは存在していない。

 これって学校側の方針なんだけど、「成績を気にするなら勉強は自分でするし、自分で学ぶ。長期休暇期間は仕事を詰め込む生徒もいるし、宿題を出してもやる気のない生徒には身にならない。よって、無駄な宿題は出さない」なんていうスタンスを貫いているんだよね。


 実際トモとユイカが言うように、学校が休みの間に合宿や、場合によっては撮影とかもあったりするんだろうし、このみんみたいに家の仕事の付き合いで社交界とまでは言わなくても時間を取られる行事に参加する生徒も少なくないみたいだしね。


 まあ、私はそういう立場にはないけど。

 夏休みは自分の予定で少し忙しくなるだろうな、ぐらいしか予定ないし。




「――もっとも、今度の期末テスト成績が悪いと、今年は問答無用で補習対象になるけれど」


 


 このみんのそんな一言で、夏休みに海に行こうだの海は馬鹿な男が湧くからプールにしようだのと盛り上がっていたトモとユイカが、まるで石化の呪いにでもかかったかのようにピシリと固まった。


「……え、っと……このみん?」


「なに?」


「補習って……?」


「言葉通りよ。7月いっぱい、朝から夕方までみっちり毎日補習ね。仕事で一学期あまり学校に来れなかったとかでも、補習は極力参加するように、って」


「そんなの去年なかったよね!?」


「高校2年生だもの。さすがにそういう対応もあるわよ」


「…………おわた。ウチらの夏休み、短いかもしれん」


 ……いや、うん。

 その話、先生が何度かしてたから私は知ってたけどね。






 結論から言えば、トモとユイカはこの後、このみんと私に泣きつく形となって猛勉強を続け、どうにか期末テストの補習必須ラインを突破する事になったのだけれど、宿題を出さない代わりとまでは言わないけれど、実はこのラインが高い位置に設けられていたらしい。

 発表後、学校内ではかなりの数の被害者……げふん、補習対象者が崩れ落ちる事になっていた。




 そんなクラスメイトに心の中でご冥福をお祈りしつつ、私たちの高校2年生の夏休みが始まろうとしていた。







お読みくださりありがとうございます。

物語自体は続きますが、これにて長かった第二章は完結となります。


この章の裏テーマは『ネットの闇』ですね。

ディープな話題ではありましたが、Vtuberというテーマである以上、やはりどうしたって付きまとう問題になると思いますし、触れておくべき部分だろうと考えてこのようにしました。

この小説のジャンルはもともと『ヒューマンドラマ』ですしね。


ただし、第三章からは魔王様がハメを外してやらかします(宣言)

それはもう、世間様を賑わすレベルで。

シリアスとはだいぶかけ離れるので、温度差注意です(?)


ともあれ、改めてこの場で御礼を。


まずは誤字報告につきまして、報告ありがとうございますm

誤字(例:「誤:荷物を発想した → 発送」など)はありがたく適用させていただいていますが、それ以外は基本的に読み直し、伝わりにくければその周辺を一部編集などで対応させてもらっていますので、提出いただいた通りの修正ではない場合もあるのでご了承くださいm


その他、ブクマやいいね、評価などたくさんの応援ありがとうございます!

こうして書き続ける上で大変励みになっております!

これからも更新頑張っていきますので、応援よろしくお願いします!(直球)


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