因果応報
最近、暑すぎやしませんかね……_(:3」∠)_
という事で、このお話は第三者視点のホラーテイスト強めな感じになっております。
苦手な方はスキップでどうぞ。
※7/18※
何故か一部推敲前のデータで保存していたものをアップしてしまっていたようなので、最後の方を改稿しました。
全国的にチェーン展開をしている、ファストフード店の従業員控室兼事務所。
長時間の勤務を終えて疲労を滲ませた一人のまだ若い二十代中盤程度の男が、ロッカーの中に仕事用の荷物を片付け終え、ロッカーの扉がしっかり閉まるようにとそれなりに勢いをつけて扉を閉める。
今日もやっと仕事が終わったと一つため息を吐いてから、男は休憩で椅子に座る同僚の後ろを通り抜けるようにして事務所の出入り口へと向かい、ドアノブに手をかけた。
「んじゃ、お先に失礼しまーす」
「はーい、お疲れさまでーす」
周囲の同僚に対して特に労っているという訳でもなく、ただ『そういう挨拶』だからと言葉を口にして職場を去る。
男にとって、職場の同僚とは決して友人と呼べるような相手でもなければ、仕事以外のプライベートでどこかに出かけたり、あるいはオンラインで何かのゲームをしたりというような交流を求める相手でもなかった。
ビジネスライクと言えば聞こえは良いかもしれないが、多少の軽口をぶつけ合うという訳でもなく、ただただ仕事上で必要最低限での交流をする、という程度である。
もっとも、それが良いか悪いかで言えば、彼にとっては前者という結論に行き当たる。
人付き合いがそれほど好きではなく、むしろ他人と会話したりするのは無駄に疲れるという持論の彼にとって、最低限の会話だけで済む付き合いというのはむしろ気楽だった。
他人と無理に歩調を合わせようとしても、そもそも相手が合わせないなら無意味だという事を彼は学生時代に嫌という程に理解した。
もっとも、彼が学生時代にイジメの対象になっていただとか、そういう陰鬱な過去があった訳ではない。
彼が通っていた学校には「ギャハハ」と笑うような不良もいなければ、性格の歪曲した御曹司なんていう存在もいなかった。スクールカーストは存在していたかもしれないが、その底辺にいた訳でもない。上位に理不尽を突きつけられたなんて過去もなく、その人生に特別なドラマのような出来事もなく、ドラマを遠巻きに見つめる事も特にない。青春を楽しむ程でもなく学生時代を過ごしてきた。
そうした学生生活も、ただ生来の気質からどこか冷めた――と言えば聞こえはいいが、斜に構えた――性格が故の結果であった、それだけの話だ。
そんな彼にとっての友人と言えば、いわゆる『ネット仲間』というものに当たる。
インターネットが一般家庭でも当たり前のものとなり、スマートフォンやタブレット端末の開発によってさらに一般に普及されていたものの、それでも多くの日本人は『現実に顔を合わせる事こそが大事』だの『会社や学校に来る者が正しい、来ない者は悪』というような風潮は消えなかった。
そうした背景から、まだまだネット社会はいわゆるオタク文化とまではいかないものの、一般的には「知っていれば便利だけど使えなくても不便はない存在」として扱われ続けてきたのは、急激なインターネット文化の発展と普及に、社会の有り様が追いついていなかったとも言えるかもしれない。
しかし、確かに徐々にではあったものの、社会の有り様は変質していった。
SNSが広まる事によって人と人の繋がりは見知った友人という限られたコミュニティから日本国内全域、そして世界へと大きく広がり、無料のトークアプリ等を使って通話料を無視して通話ややり取りをするのは当たり前に、といった具合に。
その変化を加速させたのが、世界的に大流行した病によるものだった。
対策として政府から大規模な外出自粛要請などが発表される形となったため、否応なくインターネットを利用したオンラインでの働き方、授業などが急速に広められ、普及したとも言える。
これにより、数年という期間でインターネットはより身近なものとなり、これまでインターネットにあまり詳しくなかった世代にも当たり前に受け入れられるようになったと言える。
もっとも、病が落ち着いた途端にせっかくの変化を活かせずに元に戻すという企業等も珍しくはなかったが、それはさて置き。
彼もまた、そんな生活によってパソコン、インターネットというものに手を出した一人であった。
特にオタク文化に興味があった訳ではないが、ちょうど大学生時代に大流行した病によってインターネットを頻繁に利用するようになった。大流行している病のせいでろくに外出もできず、サークルに入る機会もなく、友人もなかなかできない大学生活の暇を潰すためにネットゲームに手を出すようになり、ボイスチャットを使ってやり取りするようになり、同じ趣味を持つ人達と仲良くなっていったのだ。
そんな彼が最近ハマっているものがあった。
それが、動画配信を閲覧するというものだ。
動画配信者がテレビで取り上げられるようになっていて、それなりに有名になっているという事は彼も知っていたが、動画そのものを観ようとは思っていなかった。「所詮素人でしかないし、そういう人種が騒いでるだけ」という、いかにも斜に構えた彼らしい意見で忌避していたのだ。
ただ、暇な時間に何をして時間を潰そうかとネットのゲーム仲間とチャットをしていて、面白い動画があると紹介されて観てみると、テレビとは全く違った方向で盛り上がっている配信者業界の在り方にすっかり虜になっていたのだ。
動画から有名アニメ等の紹介動画を観て、アニメを観てみたり、映画を観てみたり。
こと『時間を潰す』という面で考えた時に、多種多様なエンターテイメントが転がっているインターネットと動画配信という分野はあまりにも強かったのだ。
ともあれ、そうした経緯を経てすっかり配信を観る事に慣れた男は今、急ぎ足で職場を後にして、自宅に向けて自転車を走らせていた。
――あー、夕飯とか買って帰んなきゃだった。
自転車を漕ぎながら、ちらりとスマートフォンを見やれば、すでに時刻は20時を過ぎていた。
今日はゴールデンウィークの目玉イベント、『OFA VtuberCUP』の最終日。
個人勢のヴェルチェラ・メリシスとジェムプロダクション所属のVtuberとのチームが、3日間ある大会の2日目終了時点で優勝を確定させてしまったものの、調子に乗ってエキシビジョンマッチを提案。
その提案は運営側に受け入れられ、20時からは『魔王の宝石』以外のチームで通常通り試合を行い、その後でスーパーエキシビションマッチという名目でヴェルチェラ・メリシスとそのメイドというVtuberのペアチームに対し、残った参戦者の連合チームマッチが行われる事になっている。
その試合でヴェルチェラ・メリシスとそのメイドに与えたダメージ量、キルポイントでポイントの追加が入るというルールが設けられており、ダメージ量次第ではヴェルチェラ・メリシスのキルまで取れれば、大会ポイントが絶望的であったチームでも逆転優勝できるという事で視聴者も盛り上がっていた。
ちなみに、このスーパーエキシビションマッチには『魔王の宝石』チームであった他3人と、さらにその3人と同じジェムプロダクションに所属しているVtuberが参加する事になっている。彼女たちもまた、他のチーム同様にヴェルチェラ・メリシスとメイドを相手に戦う予定だ。
他のチームにヴェルチェラ・メリシスとメイドを倒されて逆転負けしてしまう可能性があるため、それを阻止するべく、彼女たちもまたヴェルチェラ・メリシスとそのメイドを倒せるよう本気で挑み、倒さねばならない、というルールになっている。
ルールが発表された後のネットの声は概ね好意的ではあった。
ルールとしてもそうだが、何より多くのアンチ層を抱えるヴェルチェラ・メリシスを今度こそ潰せそうなものであるということ。それに加えて、場合によっては大逆転で優勝できるかもしれない。
さらに他の『魔王の宝石』メンバーが参加できるという事や、ヴェルチェラ・メリシスの代わりにジェムプロダクションの所属Vtuberが新たに参加する事で、初めてジェムプロのみで構成されたチームで参加するというのも盛り上がっている要因の一つでもあった。
しかし――――
『チート潰せ―!』
『ホント魔王クソ。はよタヒね』
『開幕速攻でくたばれ』
『ホント調子乗り過ぎ、魔王。いい加減潰れてほしいわ』
――――こうした否定的な声はSNS上でもかなりの量が散見されている。
実のところ、この男もまた『マジでウゼェ。チーター死ね、引退しろ、自称魔王』だのとSNSで投稿している内の一人であり、この数日コメントでも似たような言葉をコメントしていた。
しかし、である。
実のところ、そういった投稿をしている多くの者は、何もヴェルチェラ・メリシスに本気で死んでほしいとまでは思っていない。
怒りや憎悪に顔を歪ませている訳でもなければ、そもそも最初からそこまで憎んですらいないのだ。
本質は――もっとずっと単純で、稚拙だ。
自信に溢れて堂々としているのが偉そうだったから。
華のJKとはつまり年下で、年下のクセに偉そうでムカついたから。
自分よりもゲームが上手くてムカついたから、ただ目について気に喰わなかったから言い負かしてやろう、傷つけてやろう。
アドバイスしている、教えてやっているとでも言いたげな、主義主張の押し付け。
――――こうした、あまりにも幼稚で、自分勝手な攻撃性の発露。
インターネットは顔が見えないし、自分が誰かなんてバレない。
どうせ相手はこんなの見てないし。
なんかヤバかったら消せばいい。
こんなキツい事だって平気で言う自分が堂々としていてかっこいい。
――――こうした、相手に対して伝えるつもりさえ最初から持ち合わせていない、ただただ『八つ当たりの捌け口』に選ばれたが故に垂れ流されたもの。
それらはただただ相手の事なんて一切考えずに吐き出されている呪詛のような言葉の数々。他人を傷付けているとも理解していない者達は、涼しい顔をして、気軽に、気兼ねなくそれらを行っている。
――――その報いを、彼らは身を以て受ける事になる。
ゴールデンウィーク、つまりは5月の始まりだというにも関わらず、湿度が非常に高い夜だった。
空気がジメジメとしていて、早くも夏の到来を思わせるかのような奇妙な蒸し暑さと息苦しさのようなものを感じつつ、男は僅かに汗をかきながら自宅アパートへと到着した。
自転車置場に自転車を置いて、そのまま自室へと向かう。
その途中、ふと男は何かを感じたように後ろを振り返り、しかし何事もなかったかのように階段を昇ってアパートの2階へと辿り着いた。
ようやく帰宅したと息を一つ吐いて、乱暴に自転車の鍵と自室の鍵をまとめているキーホルダーを下駄箱の上に放り投げるように置いてから、鍵を閉めて部屋に入っていく。
部屋の中は不在の間の熱を残していてどこか息苦しくすら思えた。
男は部屋の電気をつけてから、まずはパソコンの電源を入れて起動させつつ窓を開けて風を入れ替えた。そうして今度はコンビニで買った弁当を電子レンジに放り込み、慣れた様子でダイヤルを少しだけ回す。
ブゥン、と特有の音だけが響く室内。
そんな中、ふわり、と男の後方でカーテンが揺れた気がして、男は振り返った。
しかし部屋の中の空気が押し流されるような気配はなく、風は無風に近いようでカーテンは僅かにしか揺れていない。特に変わった事はなく、男が気のせいかと思い直したところで、電子レンジが甲高く鳴り響いた。
ちょうど良い温度のコンビニ弁当と割り箸を持ってパソコンに向かうなり、男はインターネットブラウザを開いて動画を表示する。特に応援している訳ではなく、ただ『文句を言うのにちょうどいい相手』として選んでいる、ヴェルチェラ・メリシスのチャンネルだ。
《レイネよ、どうじゃ?》
《は、こちらは敵影はございません。おそらく建物内を経由して移動しているのかと》
《ふぅむ、さすがじゃな》
『いやいやいや、さすがなのは二人でしょw』
『ダブルスナイパーで二人して跳弾遠距離射撃するとか、もう悪夢なんよw』
『もう7キル取ってるしなww』
『索敵とトラップも使えるからな、スナは……』
『こーれスナ固めチームが現実味帯びてきましたw』
どうやらスーパーエキシビションマッチはすでに開始していたようで、配信は盛り上がり、同時接続人数もまた4万人という数字を叩き出しているようであった。
しかし男はそういった注目すべきポイントとは少々違った点に気が付いており、怪訝そうな面持ちのままにコメント欄をじっと見つめていた。
そうして様子を見ていたかと思えば、男は表情も変えずに小さく舌打ちした。
わざわざつけたヴェルチェラ・メリシスの配信が、男にとってみればお世辞にも面白い展開とは言えない流れになっている事に気が付いたからだ。
男が望んでいたのは、決して今目の前に映し出されているような、ヴェルチェラ・メリシスとその相棒、男にとってみれば〝仕込み〟でキャラ付けしているレイネと呼ばれたメイド。そんな二人が高いスコアを出して圧倒して活躍している場面ではない。
出過ぎた杭が打たれるようにコメントで次々に叩かれ、そんな自分たちに我慢できずに言い返す他の視聴者や、ギスギスとしたコメント欄に困る配信者。そして困っていながらも何も強く言えず、ブロックしながら黙るしかない、『言い返す事もできずに沈黙するしかない、自分に勝てない弱者ども』の姿だ。
しかし、今日に限って何故かコメント欄はそういったコメントが見当たらなかった。
コメント欄をスクロールして遡ってみても、それらしいコメントはいつもの配信に比べれば奇妙な程に少ない。
コメントの連投ツールを使って文句を言う、配信を荒らすという手間をかける者もいなければ、一言だけ文句を言っただけでそれ以降は何も言わない者も多い。
――つまらない。
こんな姿を見たかった訳じゃなかった。
苛立ちを舌打ちにして、退屈感をコンビニ弁当とペットボトルのお茶で流し込んで、男はコメントの入力欄をクリックして、一言投下する。
『はよ死ねよ、チート使って俺TUEEEとかゴミ屑が』
上から見下すような物言いで、男はそんなコメントを打ち込む。
まるで濁流のように流れるコメントの中にぽんと投げ込まれたそれはあっという間に他のコメントに飲み込まれていくが、別にそのコメントがヴェルチェラ・メリシスにどうしても届いてほしいとまでは思っていない。
何せこのコメントはチラシの裏に殴り書きした落書きのようなものでしかなく、そこに「相手を傷付けてやろう、追い込んでやろう」という程の明確な悪意があるという訳でもないのだから。
だから、これは彼にとっての自己満足の一環でしかなかった。
ただただ自分が「やっちゃいけないこと」をやって少しだけ高揚する、子供の悪戯にも近い自己満足。ほんの少しだけ気持ち良くなってストレスを発散するための、ほんの些細なもの。
それを受け取った側の者、目にしたくもない者の気持ちなんて一切考えず、感じようともせずに、ただただ自分が少しだけ満たされた気になれるという、身勝手で情けない振る舞い。
ただ、それをやるには相手が悪すぎたのだろう。
相手が、かつて本当に魔界を統べていた女王、ヴェルチェラ・メリシスでなければ。
そしてそんな彼女を慕う存在が彼女の隣に今もなお付き従い、常人の持たない力を持つ存在でなければ。
ありふれた、ただの卑屈な男の〝日常〟だった。
――――ミツケタ。
そんな声が、まるでひそひそと内緒の話をする子供の声のような声量で、唐突に斜め後方から聞こえてくる。同時に、男の背筋に凄まじい悪寒が走った。
心臓が痛い程に強く鳴り、身体は強張っていた。
目を大きく見開いて、ただただ男は何があったのか――否、何もなかったのだと確認するようにゆっくりと振り返って安全を確認しようとする。
そうして振り向いた先に――しかし何かがあるという訳ではなかった。
安堵しながら、「何もなかった、気のせいだったんだ」と言い聞かせる。息を整えた男が振り返るようにモニターへと目を向けると、そこには『34』という数字が黒背景に白文字でシンプルに表示されていて、男は思わず仰け反った。
数字の意味が理解できた訳ではなく、画面がいつの間にか切り替わっているのだと気がつくとほぼ同時に、スピーカーから聞こえていたヴェルチェラ・メリシスの配信の声が妙に遅く間延びして、やがて低音の声になって、ぶつりと切れる。
何が起きたのかは分からないが、少なくとも異常な状況である事だけは男にも理解できた。
椅子から立ち上がり、パソコンを強制終了させるべく電源ボタンを強く押してみれば、想定していたよりもあっさりと電源は落とされたようで、モニターが消える。
ほっと息を吐きながら、きっとパソコンにタチの悪いウイルスでも入ったのだろうと思いながら、気分を落ち着かせる。
とりあえず目に見えて引き起こっていた異常事態が消えた事に安堵して、そうやって自分に言い聞かせていたのだ。
早速再起動したらパソコンの内部スキャンをして――と考えながら、改めて気を取り直してパソコンの電源を入れて顔をあげた――次の瞬間、男は再び身体を強張らせた。
――〝何か〟が、自分の斜め後ろにいる。
人の輪郭をした真っ黒な何かが、真っ暗だったモニターに映った自分の斜め後方に映っていたのだ。
「ひ……ッ!?」
息を呑んだ次の瞬間には、その黒い輪郭は溶けるように消えていき、立ち上がったパソコンには見慣れたロック画面が表示される。
「――ッ、は、はぁ、はぁ……ッ! な、なん、だよ、さっきから……なんなんだよ……!?」
恐怖を打ち払って自らを奮い立たせるように、怒りで恐れを塗り潰して男が声をあげながら振り返れば、やはりそこには何もいなかった。
荒く短い呼吸を少しずつ整えながら部屋の中を見回して、何か異常はないか、おかしな事はないかと確認して……異変は止んだのだと自分に言い聞かせ、ため息を吐いて椅子に座る。
しかし次の瞬間、再び男の耳元で先程と同じ声がひそひそと告げる。
――――アト、33回。
その声が何を告げているのか、男には聞き取れなかった。
ただ声が聞こえたという現実に椅子から飛び上がり、逃げるように玄関口へと逃げ道を確保するように駆け出し、部屋の中を見回して異常を探す。
男が見回した部屋の中、そこには何も異変はなかった。
先程見かけた黒い人影も、語りかけてくる声の主の姿もない。
――気のせいだった、のか……?
警戒しながらも男は自分にそう言い聞かせて、ゆっくりとパソコンに近づいていく。
「……クソ、なんなんだよ、さっきの……。疲れてんのか……?」
普段は特に独り言をわざわざ口にする事はないが、先程の恐怖を振り払いたくて敢えて強い言葉を口にする。
警戒したまま、けれど何も見ないようにと視線を動かしながら、ゆっくりとパソコンの『PIN』を入力すれば、見慣れたデスクトップ画面が表示される。
――きっと何かの見間違いだったんだ、何も起きてはいないのだ。
そうやって自分に言い聞かせて、改めてヴェルチェラ・メリシスの配信を開き直せば、試合を進めながらヘラヘラと笑っている姿が目に映る。
――こっちは不可解で不気味な現象が襲いかかって不愉快だってのに、ヘラヘラと笑いやがって。
そんな感情を、コメントの入力欄をクリックして八つ当たりめいた罵詈雑言を打ち込んでいた、その瞬間――モニターに何かの目が映り、こちらをじっと見つめてきた。
「――ッ、う、あああぁぁぁッ!?」
恐怖のままに叫んで、男はパソコンから逃げるように距離を取った。
――――アト、34回。
にたり、と笑うように画面の目が男を見つめて歪む。
その目の形も声色も、愚か者を嘲笑するかのようであった。
回数が増えた事にすら気が付かないまま、男は恐怖に震えながら、ただただ一つの現実だけを理解した。
異変はまだ終わっていない。
これはむしろ、始まりなのだ、と――――。
※7/18※
何故か一部推敲前のデータで保存していたものをアップしてしまっていたようなので、最後の方を改稿しました。