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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
74/201

魔王の魔王による魔王のための



この一話、二話に分けても良かったのですが、区切りが悪くなりそうだったのでまとめてます。


つまり長いです……_(:3」∠)_



「――さて、という訳で今日は終わるとするかの。みな、応援感謝しておるぞ」


『優勝おめおつー!』

『おつおつ!』

『チートで優勝おつw』

『ジェムプロの活躍邪魔すんなよ』

『明日ボロ負け楽しみにしてまーすw』

『FPSやると香ばしいの増えるなぁw』


 コメント欄がお祭り状態なままなのを眺めつつ、配信終了。

 まあこの数日――というか、大会中のコメントは凄い事になってるみたいだからね。

 ソースはレイネの荒ぶる魔力。間違いない。

 こーれ前世の魔霊系はレイネの魔力だけで霧散させられるだろうね。

 結界張ってなかったらお母さんとか周辺住民が気絶するレベルだし。


「お嬢様」


「分かってるよー。とりあえずもうちょっと待って」


「……放っておけばどうにかなる、と?」


「ううん、そうじゃなくて。まあまあ、とりあえずトイレ行かせて」


「……はい」


 うーん、レイネもさすがに我慢の限界だね。

 暴発しそうだよ。


 ――まあ、頃合い(・・・)というか、タイミング的には悪くないかな。

 そんな事を考えながらお手洗いを済ませて部屋へと戻ってくれば、レイネが生姜はちみつレモンのホットドリンクをパソコンデスク横のサイドテーブルに用意してくれていた。


 さすがレイネ、怒りを噛み殺していても万全の奉仕。

 感心しつつ「ありがと」と短く告げてそれを一口。

 優しい味で美味しいなぁ、なんて思いながら『Connect』を見てみれば、案の定ユズ姉さんからいくつかチャットが飛んできていた。


『クロクロの運営責任者と、大会の実況担当の日暮さんと一緒に協議中なのだけれど、手が空いたらVCの〝運営部屋〟チャンネルに参加してもらえるかしら?』


 まあ、うん。そりゃそうなるよね。

 私的な大会という訳じゃなくて、『CLOCK ROCK』ことクロクロが大会運営をしている大会なんだし、私の一存で「はいどうぞ」とあっさり進行できるはずもないからね。


「いかがなさいましたか?」


「呼び出しがかかったってトコだね。さっきの私の発言に関する事みたい。クロクロの運営の人もいるみたいだね~」


「では、魔力を繋いで私に答えていただければ、私が通訳致します」


 あー、魔力を繋げば念話というかテレパシーというか、そういう事はできなくはないし、レイネに代わりに答えてもらったりっていうのもありではあるんだよね。

 今後はそれもありかな。

 案件がきたら、って話だけどね。


「今日はユズ姉さんもいるから、私が対応するよ。今度からお願い」


「かしこまりました」


 という訳で、ディロン、という効果音と共にVCへ参加。


「お待たせしてすみません。ヴェルチェラ・メリシスです」


《お、え……?》


《よ、よろしくお願いします……?》


「……? 何か?」


 挨拶してみたらドン引きされた模様。

 え、もしかして「待たせたの。妾がヴェルチェラ・メリシスじゃ」とか言うと思ったとか……?

 いやいや、さすがに裏方で関わる相手に対してまで魔王時代の物言いを貫くつもりはないよ、私だって。こういう場なんだからそっちを貫くつもりはないというか、普通やらないでしょ、仕事なんだから。

 この前みたいな案件ではレイネがプロデュースするまま深窓の令嬢感出してたけれど、あれは失礼に当たらない範疇になるだろうと思ったからやれただけの事だし。


《あ、あぁ、いえ、すみません。初めまして、『CLOCK ROCK』Vtuber部門統括部長の飯田(イイダ)と申します。よろしくお願いいたします》


《同じくクロクロ所属、今回の『OFA VtuberCUP』の実況を担当している日暮 時雨です、よろしくお願いします》


《『ジェムプロダクション』統括マネージャー、滝 楪です。ヴェルチェラさんとは面識もありますので、挨拶は割愛させていただきます》


「はい、滝さんお疲れさまです。それに飯田さん、日暮さんですね。改めまして、個人勢のVtuber、ヴェルチェラ・メリシスです。お忙しいところ、お手数をおかけしてしまい申し訳ありません。本日はよろしくお願いいたします」


 運営サイドのクロクロからやってきた飯田さんという男性は、おそらくユズ姉さんと同じような立場なんだろうね。

 でも、この話し合いにクロクロの運営サイドから一人で参加っていうと、この飯田さんが全権を握っているって事なのかな? さっきユズ姉さんも責任者ってチャットしてくれてたし。


 ジェムプロはVtuberのマネジメントを主力としつつも様々なグッズ開発に販売、ライブやイベントを行いつつ、メディアやゲーム、VR事業、メタバースといった方向に注力している会社だ。

 だから会社としても主軸としてエンタメ部門に進んでいる。


 けれど、クロクロはもともとミュージックレーベルとして名前が知られた会社だった。

 その一部門としてVtuber部門という部門が立ち上がったっていうのは有名な話だ。

 そういう会社だからこそ、会社内の一事業部として完全に切り分けられていると考えれば、確かに部長という立場が責任者にはなるのかな。


 まあ、配信者、Vtuberをマネジメントする会社ってなると、営業の仕方だとかは普通の会社とは全然違うだろうね。なんせ商品は配信者そのものな訳だし、意思を持った存在だ。迅速な現場の判断は当然求められる。

 だからこそ、部長という立場にある飯田さんが決定権を持っているんだろう。

 普通の会社よろしく悠長に「社内稟議が~~決議が~~」なんて言ってられるような業界でもないだろうし。


 この人が理解しておけば問題ないんだろうね、多分。

 知らないけど。


《配信が終わったばかりでお疲れのところ申し訳ありません。早速ですが……――》


「――何故あのような発言をしたか、ですね」


《え、えぇ、その通りです。あまりにも突拍子もない申し出でしたし、事前に聞かされていない予定外の事態を招く発言です。運営している我々としましても、さすがに無視できないものでして……》


「申し訳ありません」


《あぁ、いえいえ! 頭ごなしに責めたいという訳ではないのです。まずは理由をお聞かせいただければ、というところでして……》


 頭ごなしに責めてもいいと思うんだけどね、この人の立場なら。

 せっかくの大会で、まだまだ新参の、それも個人勢のVtuberに事前に話を通しもせずに勝手に方針転換するような流れを生み出されちゃったんだし。

 ま、理由を聞きたいというのなら先に話を進めてしまおうか。


「本日の第2試合終了時点で、優勝は私の所属させていただいている『魔王の宝石』で確定し、もはや覆せない点差となっていました。このまま『そういうスケジュールだから』という理由で明日の試合を行っても盛り上がらない事ぐらい、飯田さん――それに、実況を担当していらっしゃる日暮さんも、ジェムプロという箱を支える滝さんもご理解いただいている事かと存じます」


《……そう、ですね……》


《うん、そうですね。僕もヴェルチェラさんの意見には完全に同意しますよ。このまま何の捻りもなく明日も配信するとなったら、中盤あたりで視聴数はがくっと減るだろうな、と思ってました》


「ありがとうございます。であれば必然的に手を打つ必要はあったかと」


《それはもちろん。ですが、それなら残ったチームで戦って2位決定戦という形でも……》


《いやー、飯田さん。それは難しいですよ。妥当な流れではあるかもしれませんが、『魔王の宝石』が参加しない形で2位決定戦となれば、ジェムプロの視聴者の方々も出番がなくなった事に多少なりとも不満が出る事もあります》


《……えぇ、そうですね。ウチの子たちの視聴者の傾向から考えて、そういう声は上がった可能性が高いかと》


《……はは。えぇ、まあ私も自分で言っておきながら、そうなる可能性も浮かんでいましたよ……》


 日暮さん、それにユズ姉さんの否定的な意見を聞いて、飯田さんも諦めたらしい。

 というより、最初からそれぐらい当然考えていた、ってところかな。

 いずれにしても、それじゃあ進行はできたとしてもお世辞にも盛り上がるとは言えないだろうね。


「ご理解いただけたようで何よりです。現状、何かしらのテコ入れは必要。しかし多くの参加者、視聴者の希望という様々な要素がある以上、運営側である『CLOCK ROCK』様が裏で勝手に決定するのも、あるいは同じく最大手となる滝さん側の『ジェムプロダクション』と協議したとしても、視聴者の誰もが満足する、というのは難しい状況であったのではありませんか?」


 組織にいる、箱に所属している強みは多様なバックアップにあると言える。

 でも裏を返せば、そういった組織、箱の枠組みを無視して動くという事も難しいし、看板を背負ってしまっているからこそ下手な真似はできない。

 だから、必然的にこういった突発的なアクシデントで勝手に決定したり動いたり、なんて事をすれば問題になる。


 その点、私は私の一存で動けるからね。

 ビバ自由。


《……そうですね。確かに難しい問題です。滝さん、そちらはいかがですか?》


ジェムプロ(当方)としても否定はできませんね。どう考えてもテコ入れは必要な流れではあるかと思っていました。しかし、こういった状況で我々のような箱の運営サイドが手を出そうにも出しにくい、というのは事実です。そういう意味では、下手に我々のような運営サイドが場を収めようとするよりも、いっそこの流れに乗ってヴェルチェラさんに任せた方が良いかと考えています》


 どこか不機嫌そうに冷たく答えるユズ姉さんに苦笑してしまう。


 ユズ姉さんの答え方はつまり、『下手に手を出さなければジェムプロは怪我をしなくて済むから、任せてしまえばマイナスにはならない』という意味を持たせた回答だ。そしてそれは、社会人として――組織の人間として間違っていない。ジェムプロの人間としてこの場にいる以上、優先順位を間違える訳にはいかない。

 だから、そういう答えになるっていうのは私には理解できているけれど、他ならぬユズ姉さんが、守るべき姪っ子である私に負担をかけざるを得ない状況に対して、個人的には納得してくれてはいないらしい。


 ごめんよ、ユズ姉さん。

 止まる気はないんだ。


「ありがとうございます。こういう状況だからこそ、私という大会のダークホースであり、話題の中心でもあった張本人が火種を投げ込めば、その火種は瞬く間に燃え上がり、一種のお祭りのような盛り上がりになるだろうと判断して行動に移したという訳です」


《……炎上するであろう事も狙って行動した、というんですね?》


「えぇ、もちろんです。ここぞとばかりに私を口撃する者も現れるだろう事も含めて、です。不本意な結果という訳ではありませんのでご安心ください」


《それはまた……》


 質問してきた日暮さんに答えたら、なんだかドン引きされた予感。

 解せぬ。

 狙ってやったんだから安心していいよ、っていう訴えだったのに。


《なるほど、話は分かりました。実際、今は打つ手がない以上、ヴェルチェラさんの提案に乗るのは悪くないでしょう。モノロジーのトレンドでも魔王や宣戦布告というワードがトレンドになっている程ですし、今更覆せるとも思えません。ただ……日暮くん》


《え、あ、はい?》


《キミの立場から見て、ヴェルチェラさんの言うイベント――つまり、ヴェルチェラさんを相手に戦う、という配信は充分に盛り上がる要素を持つものだと判断できますか? おっと、無論発言に責任を取れとは言いません。数々の配信を行い、成功してきた一人のVtuberとしての意見を聞かせてもらいたい。正直に言って、私よりもキミの方がそういう目は優れていると思っていますからね》


 おぉ、堂々とそんな事を外様の私やユズ姉さんがいる場で言っちゃうんだ、この人。

 いや、そういうタイプの人だからこそトップにいるのかな。


 前世では配下をビシバシ鍛え上げるタイプの方が多かったぐらいだけど、たまに飯田さんのように配下を信頼して自由にやらせるタイプっていうのもいたんだよね。


 どっちも一長一短ではある。

 前者はやる気があまりないようなタイプだったり、言われて初めて仕事ができるようなタイプには合っていた。

 その結果、一定以上の成長はするし、効率的に成長して平均的に仕事をこなせるようになる。その代わりに、『使われること』に慣れてしまって『他人を使うこと』が苦手になったりする。


 一方で後者の場合、そういう上司の下にいると成長はそれぞれにばらばらだったりするけれど、伸び伸びと仕事もできるおかげか斬新な意見が飛び出してくる事も多かった。単純な話、前者に比べれば意見を口にする事に萎縮せずに済むからだろうけれどね。で、こっちは『人やモノを自由に使うこと』は上手くなるけれど、『他人に言われたままに使われること』はできなくなる。


 こうした違いから、前者は『組織の部下を育てる方法』であって、後者は『個人を育てる方法』という風に私は認識している。


 実際、ユズ姉さんがかつての私に「あれをしろ、これをしろ」と言わずにVtuberという道を示して「興味があったらやってみないか」と言ったのも、これと似たようなものだ。


 Vtuberだけじゃなくて、配信者というのはいわば個人事業主、箱は専属契約先という感じだ。

 箱に所属していたとしても、基本的には他人に使われるのではなく、自分で考え、自分で自分をプロデュースしなきゃいけないし、出演するのも自分。

 そういう人達を相手にマネジメントするのであれば、必然的に『個人を育てる方法』を取れる人でいるべきなんだろうし、必然、飯田さんも『個人を育てる方法』に長けている人が求められるんだろうね。


 そんな考察と人物評価とでも言うべきものをつらつらと頭の中でまとめていると、話を振られた日暮さんが口を開いた。


《……そうですね。当然、盛り上がるとは思います。ヴェルチェラさんのプレイヤースキルは、ハッキリ言って異常です。そんな彼女に良くも悪くも注目が集まっている中、全員にかかってこいと喧嘩を売ってみせたんですから。そりゃあ、ヴェルチェラさんにキルされて活躍できなかった推しに、是非リベンジしてもらいたい――とまでは言いませんが、直接戦ってほしいと考える視聴者は多いかと》


《なるほど、そういう見方もできますか……。滝さん、いかがでしょうか?》


《盛り上がるかと。圧倒的なスコアを叩き出したヴェルチェラさんの実力は確かなものですので、全員で対抗するとなればそれはそれで見てみたい、という視聴者の気持ちも、日暮さんの仰るような推しを応援したい視聴者の気持ちも分かります。それに、こちらとしましても、「ヴェルチェラさんがいたから優勝できた」と視聴者に言われるだけというのはあまりよろしくありませんので、是非実力を証明する機会はほしいところではありますね》


《なるほど……。イベントとして最終日がグダグダになってしまうというのは、私共としましても不本意な結果です。御二方がそう判断しているのであれば、エキシビジョンマッチのような形で認めるのも面白そうではありますね》


 危ない危ない、滝さんって言われたから私が呼ばれたのかと思って一瞬どきっとしちゃったよ。ユズ姉さんの声に被せて返事しそうになったし。

 そんな風に一人で密かに人知れず訪れた危機を乗り越えていると、飯田さんから名前を呼ばれた。


《ヴェルチェラさん。方針としては貴女の提案を受け入れる方向で動きましょう。ですが、私自身、どうしても気になっている事があります》


「なんでしょう?」


《貴女は、何故そうまでして強引にテコ入れをしようとしているのです?》


「何故、とは?」


《正直に申し上げて、今回の大会は数名の参加者による不正行為等もあって、中止にした方がいいのではという声もあがっていました。そんな中でも標的となった貴女が気にしていないと大々的に発信してくれたおかげで、どうにか続行できた。その結果としてキルポイントの記録、第2夜での優勝確定という結果が残ったのであれば、他でもない貴女がわざわざテコ入れしようとする必要などないと考えられます》


「それはそうですね」


《では、何故? 極端な話ではありますが、それを貴女が行う程の旨味があるとは思えないのですが……》


「決まっています。――そんなの、面白くないから、ですよ」


《え……?》


《な……っ》


《……ふふっ》


 あっさりと告げてみせた答えに対して返ってきたのは、三者三様の困惑……という表現は少し違うね、ユズ姉さん笑ってるし。


「私たちVtuberの配信はエンターテイメントです。大前提として、面白くなければ成立しませんよね?」


《それは……そうですね》


「そう、エンターテイメントです。エンターテイメントとして考えれば、今日までは良かったんですよ。不正行為をして沈黙した者達の公開処刑という名のネタ、そして私というダークホースによってキルポイント記録がどこまで伸びるのかという視聴者の興味。それに優勝が決まっていない状況。故に視聴者が〝観る理由〟が確かにありました。ですが、すでに優勝は確定してしまいました」


《それは……、貴女の仰るところの〝観る理由〟がなくなったと言いたいのですか?》


「はい。そんな中でこのまま試合を継続しようものなら、これ以上私がキルを取れば『2位決定戦の邪魔をするな』と言われ、キルを取らずにサボれば『舐めプして生意気』とでも言われるでしょう。他の視聴者の配信でも、きっとその配信者がキルを取っても『魔王の一人勝ちには届かない』と言われ、私が試合を辞退した中では頑張っても『魔王がサボってるからキルが取れる』だのなんだのと言い出す者だって現れるかと。そんな、ただでさえ〝観る理由〟も減っていて、何をしてもマイナスのコメントが飛び交う配信。そんなもの、誰が観たいと思いますか?」


《っ、それは……確かにそうですね》


 改めてこうして口にしてみると地獄だね、実際。


 空気を呼んで楽しんでくれる、応援してくれる視聴者が大多数だ。

 応援してくれる人、コメントはしないけれど楽しんで観てくれている人、視聴者はそういう人の方が圧倒的に多い。


 それでも、「誰が聞いても幸せにならない一言」をわざわざコメントしてくる人は一定数存在している。

 それがネット社会というものだ。

 きっとモニターの向こうでは「言ってやったぜ」みたいな気分で稚拙で身勝手な欲を満たしてご満悦なのだろうけれど、そんなくだらない自己満足は第三者から見れば微塵も面白くないし、むしろ目障りでしかない。


 できるなら自分で気が付いて自重する、顧みてくれればいいんだけど……まあ気付かないからこそ消えないんだろうけどね。


 実際のところ、レイネの我慢だって限界は近い。

 注目度が高い大会だからこそ色々な視聴者がいるものだけれど、私だってアーカイブを観てみる度にイラッとするコメントなんかも時折見かけるし。

 いくらレイネが消してくれているとは言っても、やっぱりそういうのをやってる連中というものは懲りないんだよ。


 何故なら、彼ら彼女らは『責められる位置』にはいないのだから。

 自分たちの姿さえ曝さない立ち位置から、一方的に攻撃できる立場に居続ける。

 反論される余地を見せないからこそ、『一方的な強者』を気取っていられる。

 さも自分は上の立場にいるかのように横柄に、失礼に振る舞えるのだ。


 そんな相手に本気でやり返すとなった時、姿を曝している側は常に弱者の立場でいなくてはならない。

 それができなければ揚げ足を取らせてしまうだけで、己を曝していない相手には何も届かない。犯罪性がなければ開示請求なんて当然できないし、開示請求は相応の手間もお金もかかる。




「――ですので、敢えてそういう文句を言いたがる連中を私の配信に集めつつ、お祭りにしてしまおうかと」




《……はい?》


「これは私の事情なのですが、今回の大会に関する配信で視聴者やチャンネル登録者数が増えたのはありがたいのですが、私はまだ学生です。配信頻度を増やせる訳でもありませんし、むしろやりたい事(・・・・・)もあるので、少し配信頻度を減らすつもりなのです」


《はあ……》


「大会のテコ入れが必要というのは事実ですし、すでに私が『調子に乗って他のVtuberを煽った』という形で多少なりとも炎上している事もまた事実。であれば、この流れを利用してこのまま火を点けたがる連中を集める場を提供しつつ、他の配信者たちの配信では『共通の敵』として扱われること。これによって他の配信者の方々の配信も盛り上がり、守られやすくなるかな、と。そうして明日を乗り切ってから、私は私で自粛という名目で配信頻度を少し落としておきたい、という目的があっての提案です」


《……それは、他の配信者にとってはありがたい話かもしれません。ですが、ヴェルチェラさん。貴女にとっての得があまりにも薄いのでは? 何も貴女がそこまでしなくても……》


「いえ、ご安心を。私としてもやりやすくなる(・・・・・・・)のは事実ですから」


 心配してくれているのを拒むようで悪いんだけど、私にもメリットはあるんだよね。


 もちろん、いい顔をしたい、って訳じゃない。


 当然、大会のテコ入れのため、っていうのはある。

 それに飯田さんが言う通り、普通に考えれば私がやらなきゃいけない事って訳じゃない。

 身体能力の差でアンフェアだっていうのは事実としてある。


 私はそれに対する罪悪感を抱いているからこそ、その罪滅ぼしに他者を助けたい――なんて、そんな事は微塵も思わない。


 ゴールデンウィークが終わって配信を控える事になるし、話題性でチャンネル登録者が増えて注目を浴びた結果、あまり相手にしたくないような類の存在もそれなりに増えてしまったみたいだからね。




 ――――だからいっそ、そういう事をしたがる連中を集めて、大掃除しようかなって。




 さあ集まるといい。

 いつものように他者を貶めるような言葉を口にして、言ってやったぞとさもしい(・・・・)欲を満たせばいい。

 そうしてたっぷり、因果応報で報いを受けるといいよ。




 レイネがたっぷりと想い(呪い)を込めてくれるから、遠慮はいらないよ?






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