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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
73/201

【配信】裏 魔王無双 Ⅱ

 凛音ちゃんの快進撃は、ワンショット4キルという前代未聞の一撃。

 その記録を打ち立てる事になった相手が、奇しくも今回の大会の騒動の原因、首謀者と思しきチーム――『あぶそりゅーと・べろ』というクロクロの水無月サツキさんがヘルプで入っているチーム。

 もっとも、水無月さんについては、これまでの配信やチームの雰囲気、それに件の騒動が引き起こったあの日の行動からも計画に加担している可能性はゼロだと言われているだけに、酷い貧乏くじを引かされたものだと同情が集まっている。


 コメント欄を見る限り、やはりあのチームは相当なヘイトを集めてしまっているらしく、水無月さん以外を煽るようなコメントがかなり飛び交っている。

 ……あまりそういうのはやらないでほしいんだけどね。

 せっかく凛音ちゃんが騒動を上手く誘導してくれているのに、そういうコメントを見て再燃させるような類の人もいるのだから。


 大会の後になってわざわざ再燃させるような投稿が出る可能性や、こうした騒動を引き合いに出して何かと重箱の隅をつつくようにコメントしてくるであろう厄介な層が出てくるのは間違いない。

 そんな事実に「忙しくなりそうだなぁ」と辟易としつつ画面へと目を戻せば、凛音ちゃんの配信画面からはすーっと深呼吸するような音だけが聞こえてきていた。

 

 目を閉じて数瞬、ゆっくりと静かに息を吸い込んでいるかと思えば、次の瞬間にはかっとモデルの目が開かれる。


《――さて、始めようかの》


「――っ!?」


『うお、なんか鳥肌w』

『ぞわっとした』

『覚醒イベみたいであちちち』

『いけーーっ!』


 ――凛音ちゃんの纏う空気が変わったのだ、と。

 モデル越しだというのに、彼女の一声を耳にした瞬間に明確にそれが判ったのは、ひとえに普段の凛音ちゃんを知るからこその事かもしれない。


 もっとも、私ほどに明確ではなくとも何かを感じ取った人もいるようだけれど。

 コメントでも一定数が凛音ちゃんの変化に気が付いたようだし、私の隣にいる佳純ちゃんもびくっと肩を震わせていたし。


《――まさかのワンショット4キルという神業を披露した、ヴェルチェラさんが動き出しました! 方向的にはエフィールさん達と合流するルートに入るようですが……ミウさん、ヴェルチェラさんが妙に壁に寄って走っているように思えますが、これは何か意味があるのでしょうか? しかもさっきから頻繁にジャンプしていますが……》


《あまり見ない動きですが、無意味に壁寄りに走ってジャンプをするとは思えませんねー……。ワンショット4キルで嬉しかったのかも、なんて思ったんですけど、ヴェルチェラさんってそういうキャラじゃないですしー……》


『何してんだ?』

『移動で毎回ジャンプするとか、クラフトゲーかな?』

『心ぴょんぴょんしとるん?』

『陛下に似合わないものばっかコメントで出てきて草』


 日暮さんの実況もコメント欄も、凛音ちゃんがなんで通路の隅を走りながらジャンプしているのかは分からないらしく、困惑しているらしい。

 確かに凛音ちゃんにほっこりクラフトゲームとかされても似合わないは似合わないよね、なんて密かにコメントに同意。


「……あ……っ、もしかして……」


「ん? 佳純ちゃん、どうしたの?」


「いえ、その、なんで隅っこをぴょんぴょんしてるのかなって思ったんですけど、その理由かなってものが思い浮かんだので」


「ふぅん? 何か理由があるの?」


 凛音ちゃんだって華の女子高生なんだし、喜んでああいう事してもおかしくはないと思うけど。

 ……まあ、魔王キャラにそれが似合うのかって言われると微妙だけど。

 それでも訓練された全肯定視聴者ならギャップで可愛いって受け入れてくれるはずよ、きっと。


「えっと、確証とかはないし現実的ではないと思うんですけど……もしかして、『射線確保できる場所を確認してる』のかな、って……」


「え……?」


《――ふむ、いけそうじゃな。エフィ、援護に入る(・・・・・)。跳弾はできそうにないので直線上に誘導してピンを頼む》


《待ってました! 助かるっ!》


「え……」


「……当たりみたいね、佳純ちゃん」


「えぇっ!?」


『は????』

『直線って、まだ小部屋すら突破できてないが??』

『何しようっていうんです?』

『普通に考えたら無理なんだけど、陛下ならワンチャンあるとか?』


 凛音ちゃんとエフィのやり取りに困惑するコメント欄。

 そんな私たちを嘲笑うかのように、次の瞬間にはエフィの画面でチームメンバーに位置を指定するピンが立てられて――――


《撃った!? ――あぁっ!? キル入りました! キルログ流れてます! ジャンプで最高到達点から僅かに低い位置! 絶妙なタイミングで放たれた超電磁砲が、前方の小部屋、通路の出入り口にある僅かに背の低いコンテナの上を抜け、そのさらに前方、通路を抜けた大部屋――これはエフィール選手、ピンを立てて指示していた!?》


《えぇー……あの場所通せるんですかー……? 知らなかったんですけど……》


 ――――実況の日暮さんが叫ぶ。

 凛音ちゃんの画面を映していたからエフィがピンを立てた瞬間までは気が付かなかったらしい。


『は??』

『やっばwww』

『みうみうも大丈夫。あなたと同じチームのサイトォが「あり得ないだろ」って同時視聴しながら頭抱えてますよw』

『普通に分かっててもタイミングがコンマ数秒ズレても通せないだろ、これ』

『しかもエフィのピンの位置上にしっかり撃ってるしw』

『魔王してんなぁw』


「……佳純ちゃんの予想通りだったってことみたいね」


「……ホントにそうだなんて思ってませんでした……」


「でしょうね……」


 コメントも凄まじい事になっているし、こういう神プレイと呼ばれるようなプレイは盛り上がるのよね。凛音ちゃんが武器を手に入れてから、同時視聴者数もあちこちで平均して高まっているみたいだし。

 多分、私たちみたいに配信内容管理をしていなくても複数の窓で観ている――いくつもブラウザを開いて同時に観ている――人が多いんでしょうね。


 そんな事を考えている内に凛音ちゃんもしっかりと移動を続けているし、その間にもピンが立ったその場所に超電磁砲の弾丸が青白いレーザービームのように進んでいって、キルログを一つ、また一つと表示させている。


 こういう、私のような素人目線でも凄いことをしてるのが分かるっていうのは、ゲームに詳しくない視聴者層にも伝わりやすくてありがたいのよね。

 まあ、私がプレイなんてしたら真似しても絶対できないでしょうけれど。


『大量虐殺やでw』

『離れた場所にいたチームの配信くっそうけるw』

『さっきから次々処刑されてるのが怖いらしいw』

『キルログで陛下の名前が出る度に会話なくなってってるのが草』

『離れてってるやんけw』

『魔王から逃げるなってめっちゃ言われてんの草』


 凛音ちゃんの配信のコメントではそんな話まで出ている。

 あいにくウチの子たちのチームの配信と神視点という名の実況視点しか開いていないけれど、凛音ちゃんから逃げるなって言われてるとか、どうしよう、すごく見たい。


 こういう業界にいるだけあって、そういうノリって楽しいよねって気分になるし、反応が面白いだろうなっていうのがよく分かる。


《ヴェルちゃん、キル数やばくね? 今なんキル?》


《む……? まだ13キルじゃな》


《それ『まだ』って表現するのは違うと思うぞー……?》


《ん、普通に大量キルで草》


 うん、それは私もそう思うよ。

 基本的にこの大会、過去の大会とか調べた限り1試合でチームで3キルとかでも珍しくないぐらいだもの。

 なのに当たり前のように13キルで、しかも少ないっていう感想を抱いてるあたり、他のプレイヤーとの意識にかなり大きな違いがあるような気がする。


 まあ、それも仕方ないとは思うんだけれどね。

 もともとゲームとかあまりやってなかったはずだし、SNSとかにも興味を持たなかったものね、あの子。だから凛音ちゃんには普通のゲーマー感覚とか、Vの視聴者層の人達にとっての当たり前が彼女の中にはまったく構築されていない。

 ネットならではの失礼な物言いや配慮のなさ、失礼なノリに対してもハッキリと物を言うし、アンチに対する考え方だったりっていうものに対しても真正面から堂々と言い返せるっていうのは、そういう部分からきてるっていうのもあるんだろうね。


 インターネットっていう、国境もない極めてオープンな世界。

 なのに、身内ノリみたいなノリで気安さを演出させるような物言いをしているインターネット黎明期に流行った掲示板だって今も続いているし、その結果として気安さと失礼さを履き違える人もごろごろいるのがネット社会だ。


 でも、ここ数年――特に流行り病の影響もあってインターネットや配信というものが一般に浸透したのもあって、そういうネットの世界にもライトな層が一気に増えた。


 そういうライトな層を前に、黎明期のインターネットユーザー層が生み出してきたネット社会特有の身内ノリを当たり前のものとして使い続けている結果、失礼な物言いをして増長して歯止めが利かなくなる子供が増える温床にもなっていたりするのも事実。


 けれど、普通の世界と違うネットの世界なら、自分の内側へ、外に自分を出さないようにする凛音ちゃんが少しでも自由になれる場所になってくれるんじゃないか。

 そういう場を与えてあげられたらと思って、半ば強引にVtuber化の話を進めた。

 外見のせいで閉じこもってしまうなんて勿体ない。

 あの子の音楽や絵の才能を活かしやすい世界なら、もっと自由になれるから、と。






 そんな彼女が今、大きく翼を広げて自由に振る舞っている――――

 





《えー、誰がこのような結果を想像できたでしょうか……。本日、第2夜の試合終了時点で、優勝チームが決定してしまいました……! 第1試合では序盤でメインウェポンを手に入れられず、しかし特殊武器を手に入れて20キル。そして第2試合では大会史上最高キルポイント、29キルポイントを手に入れた魔王ヴェルチェラ・メリシスさん率いる『魔王の宝石』が、この時点で、明日の最終2戦を残した時点で優勝を確定させました》


《いやぁ……、これ、普通はこうならないんですけどねー……。こうならないようにチーム戦力もある程度割り振ってますしー……。でも、昨日の第1夜のあの空気ではそうなるかもしれませんでしたけどー……》


《そうですね。しかし本日はゲームとしてもしっかり盛り上がっていました。ですが魔王は違った、という事でしょう。ともあれ、今回の大会のダークホースとして、そして新たな記録を樹立した『魔王の宝石』のヴェルチェラ・メリシスさん、今のお気持ちをいただけますか?》




《優勝と記録という結果はもらった。これ以上は消化試合になってしまい、面白みに欠けるというものであろう。――故に、妾から一つ提案させてもらおう》


《提案、でしょうか?》


《うむ。今回の騒動となったチーミング、ゴースティング。気にしていないと妾は言っておるのに、まだなんやかんやと騒ぎ立てる愚か者は多いようじゃ。故に、そんなモノ(・・・・・)、妾にとっては障害にすらならなかったのだと、その程度で妾に勝てると思ったら大間違いであると証明してやろうではないかと思っての。という訳で、明日の第3夜。チーミング、ゴースティングとやらを使って良いから全員でかかってこい。『魔王の宝石』チームとしてではなく、妾と妾のメイドで全てを屠ってやろう》






《……は?》


《……マジ……?》







 ――――…………うん。




 ……凛音ちゃん、翼を広げて羽ばたくどころか、ロケットか何かでも背負ってない??








大会をメチャクチャにしてまで全方位に喧嘩を売った理由、目的は次話にて。


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