【配信】魔王 は ◯◯ を てにいれた !
何かと話題の尽きない今回の『OFA VtuberCUP』。
その第二夜の第一試合会場となったマップ、『兵器研究開発所』は広大なマップを走り回る他のマップとは少々異なる、超巨大な施設。
広々と戦える大部屋もあるにはあるけれど、大部屋はどちらかと言えば少ない方で、長い直線の通路で乱戦になれば、お互いの『兵科』が持つスキルをどちらが上手く使えるかで勝敗が分かれる。
《――ッ、かち合った! げっ、メリーさんのとこだ!? 隙見せたら終わる! このまま前出て突っ切るよ!》
《っしゃー! ゴーゴーゴー!》
《ん、ぶっ放す》
まっすぐ通路を突き進みながら『兵科』のスキルを使って半透明の長方形の盾を構えるエフィに、呼応してリオがテンション高く叫び声をあげて応えてみせれば、密集した相手チームに向かってスーがランチャーを容赦なく放ったらしい、激しい爆音が聞こえてきた。
《ぐぬー、メリーさん『メディック』かー。回復はえー、ヤバいなー》
「のう、おぬしらが言うメリーさんとやら、有名なのかの?」
《ん、メリーさんはプロ勧誘されてるぐらい上手い》
「ほー、そうなんじゃなぁ」
《言うてヴェルちゃんもスナイパーでプロとか勧誘されそうだけどね――っと! お喋りする余裕ないよー! でも相手右通路まで下がった! このままいける! こっちの方が削り早いよ!》
《へいへいへーい、びびってんのか、って!》
《リオ、うるさい》
《突然の裏切り!?》
《ごめん、私もそれちょっと思ったわ》
《エフィまで!? ~~っ、お前らのせいだぞー!》
《酷い八つ当たりを見た》
乱戦でついつい集中して無言になってしまうようなタイミングだっていうのに、戦っている最中だというのにくすりと笑わせるような軽快なトークができているのがすごい。
やはり彼女達はプロのVtuberなのだなぁ、なんて思いつつキャラを操作して移動して飛び降りた先にいたのは――……ふむ、軽く咳払い。
そして妙に機械的かつ甲高い声を意識して、っと――――
「わたし、ヴェルさん。いま、メリーさんのうしろにいるの」
《は????》
《うぇっ!?》
〈ヴェルチェラ・メリシス >> 夢羊 メリー〉
――――告げながら、近接アクションで通路に下がってきた相手の『メディック』をキルする。
《ぶふっ!? ヴェルちゃんいつの間にそっちに!?》
《いやいや、背後取るのメリーさんだろー!? メリーさんの背後取るとか笑うんだけど!?》
《ふ、メリーさん違いわろす。それ羊の方》
「ツッコミの大渋滞じゃな……。換気ダクトから回り込んだんじゃよ。というかメリーさんは羊じゃなくて羊を飼っとる方であろうよ……まあよい。ほれ、チャンスじゃぞ」
《っ、そうだったぁ! ナイスゥ! 押し込む!》
《スー、ツッコミの叫び力が足りないんだぞ!》
《無理。叫ぶとかそういうの私のキャラと違うから》
《キャラ言うなし!》
乱戦になって銃弾が飛び交う中、数発の軽いダメージを受けつつも後方にスライディングするように逃げ込む。
こちらを迎撃しようと振り返ればエフィ達が突っ込んでくるし、けれどこちらを無視すれば次の近接アクションがくると即座に判断し、シールド持ち以外がカバーするようにこちらに対応してきたのか。相手も上手いなぁ。
もっとも、すでにエフィ達が距離を詰め切っているんだけどね。
こういう通路って突っ込む側が隙を晒す側になりがちだ。
なのに全員生き残って、普通に連携して押し切れてしまうあたり、ジェムプロの3人はお互いにお互いのカバーが上手いね。
あ、チャンス。
〈ヴェルチェラ・メリシス >> コレッゾノート〉
《あーーっ、ヴェルちゃんに取られた!?》
《うはっ、ハンドガンでキルじゃん》
「そう言われても、こっちに背中向けておるんじゃもん。後頭部丸見えじゃったし、そりゃあ撃つじゃろ」
《おるんじゃもん、可愛い》
《それな。てか、今のはさっさとキルしきれないエフィが悪いし、エフィのせいだなー》
《なんで!?》
「フゥーハハハハ、キルポごちじゃ、エフィ! ご苦労であったのう!」
《こ、コイツ、味方まで煽りよる……!?》
お互いにわちゃわちゃと言い合いつつも1チーム4名を無事に撃破。
数的優位は向こうにあったんだから、向こうも迷わずに一瞬で押し込む判断をしていればどうにかなったかもしれないけれど、ウチのチームとの戦いではなくその次に向けて無駄な消耗を嫌って下がった、というところかな。
一瞬の判断の迷いのせいで下がって私に背後を取られ、結果後手後手に回ってしまった、というところが敗因だね。
判断するリーダーの資質がエフィの方が上だった、というところだろう。
切り抜きとかで上がってくるだろうし、視聴者の反応とかも後で見ておこう。
盛り上がってそうだし。
《さてさて……、ヴェルちゃん》
「うむ、ここからは別行動じゃな」
《スナイパーライフルないのに大丈夫なのかー?》
「うむ。『メインウェポンを拾えてないからこそ行く価値がある場所』じゃからな」
《……やっぱり、アレ狙い?》
「うむ」
《ぉー、いいと思う》
何を狙っているのかエフィは理解しているらしい。
まあ、アレの存在を知ったのは実はエフィの配信で見たからだし、思い当たるのも当然と言えば当然かな。
薄々勘付いていたらしいスーも小さく感嘆の声をあげて同意しているし、我ながら悪くない選択だと思う。
《まあアレ使ったら盛り上がるし、私はいいと思うけどねー。でも、だったら私らで近くまで護衛した方がいいんじゃない?》
「いらんいらん。換気ダクト経由で移動するし、場所が場所じゃからな。敵と遭遇する確率も低い上に、一人で行動した方が目立たぬしの」
《確かにそれもそっか……。了解、気をつけて!》
《なーなー、エフィもスーも何するのか知ってんなら教えてよー!》
《ん、内緒。まあ、多分視聴者は分かってると思うけど》
《えーっ!? ウチだけ仲間外れみたいでヤなんだけどー!》
離れる、とは言ってもVCが切れる訳じゃないから普通に会話は続くんだよね。
ゲーム内VCで至近距離じゃないと喋れない、っていう訳じゃないし。
配信はエンターテイメントだからね、何するか分かっていても、流れが分かっていても敢えて口に出さない方が盛り上がったりするというものだよね。
リオだってきっと分かってて言って……る…………? リオが……?
いや、うん、分かってるよ、たぶん。
直情型というか、戦略とかとは縁遠い感じではあるけど、きっと。
ともあれ気を取り直し、姦しい3人のVCを耳にしながら再び換気ダクトへ。
さて、このマップ、さっき裏をかいた時も使ったように、換気ダクトっていう一人分のキャラクターがしゃがんで行き来できるような通路があるのだけれど、実はここを使って移動するのは一般的じゃない。
存在は知られているし、いきなり相手の後ろに出たりできるから便利は便利なんだけど、もしも他のプレイヤーと遭遇すると真正面から身動きも取れないまま戦うしかなくなる。
しかもダクト内はゲームシステム上、ハンドガンかナイフしか使えない上に持ち替えられないという縛りがあったりするからね。ここを使おうとするプレイヤーは滅多にいない。
そういう特性もあって、遭遇したら完全に運ゲーになってしまう。
その上、換気ダクトに入ったらチームプレイから外れて行動するのが前提となってしまうのだけれど、今の一般的な『兵科』バランスだと一人で動くより、数がまとまっている方が圧倒的に有利でいられるのだから、この換気ダクトをわざわざ使って孤立するのは主流となっているスタイルに比べてデメリットが大きい。
せいぜい一人だけ生き残った時にスニーキングして頑張るとか、そういう使い方をするのが関の山というところ。
それに、そもそも私が今向かっている場所は普通に戦ってたらいちいち行かないような辺鄙な場所だったりするからね。
換気ダクトを使わないと出入りもできない上に、『メインウェポンを一度でも所持したら行っても意味がない』場所だし。
そんな場所で、わざわざメリットを得るための条件もシビアなものだから、身内だけで遊ぶ時とかに行くような場所であって、大会とかランク戦とかで行くような場所ではない。
――まあ、そういう場所だからこそ、今行くべきなんだけどね。
一般的に「行くはずがない」とか「有り得ない」と認識してしまっているような場所っていうのは無意識に避けてしまうのが人という生き物だ。
とは言え、Vtuberを含めた配信者という生き物である以上、珍しい行動は撮れ高になるし面白くもあるから、あの場所に敢えて行こうとする人も一定数存在してもおかしくはない。
ただ、こういう大会でチームの足を引っ張ってまでやろうとして、結果として味方の負担が大きくなってキルされたりしたら戦犯扱いで炎上確定。
ネタとしては面白いけれど、大会という状況下ではネタを優先するには少々リスクが高すぎる。
ただでさえ大会とか真剣勝負という舞台でやらないような事でもあるけれど、それに加えてよりにもよって今回の大会でそれをやりたがるような人はいないだろう。
何せ、そもそもすでに不正疑惑騒動があったり何かと騒ぎがあったからね。
こんな状況で「挑戦する」というのはなかなかに難しいだろうし、これ以上火に油を注ぐような真似をせず、無難にやろうとするのが『正しい選択』だ。
――――もっとも、それは騒動の中心人物となって巻き込まれた私たち、『魔王の宝石』チーム以外のチームにとっては、の話。
この大会で、私たち『魔王の宝石』チームだけが無茶が通る。
圧倒的な有利、不正に巻き込まれて狙われたという立場にいる私たちならば、こういう場面でミスをしてしまっても応援している視聴者たちは笑い話として受け止めてくれるだろうし、他のチームを応援しているチームも「あはは、バカだなー」と軽く笑う程度で許容される。
だからこそ、他のチームとかち合う可能性は限りなくゼロに等しい。
そこに加えて『スナイパーライフルだけが見つからない』というこの状況。
そしてこのマップ。
こういった条件が揃いすぎているからこそ、ついつい思わず『まるで作為的に仕組まれたような状況』と口にしたぐらいだ。
――いや、むしろ『作為的に仕組まれた』のは存外穿った見方なのかもしれない。
チート疑惑、チーミング、ゴースティング。
これらの騒動によって否応なく注目が集まる中、つい先日の公式案件でチート疑惑を完全に払拭させた事による盛り上がりは視聴回数に表れているし、同時に、私という存在はチート疑惑が生まれる程度にはアンフェアな存在だと証明されている。
そんな私がいて、けれど不正疑惑のせいで注目度は高まっているものの、どうにもゲームそのものの盛り上がりに欠けている大会の現実。
大会が盛り上がらないとゲーム人口は当然増えないし、そうなればゲーム寿命は当然短くなってしまう事に繋がりかねない。
なるほど、こう考えると『公式が動いた』としてもおかしくはない。
あの案件の時に会った女性の方は、どうにも享楽的というか、刹那的な主義であるようなニオイを感じたし、やってもおかしくはなさそうだ。なんとなくそういうタイプは見て判るんだよね。
もともと、あまり他人に乗せられて思惑通りに動くというのはあまり好きではないけれど……まあ、今回ばかりは乗せられてあげようじゃないか。
そんな事を考えている内に、私は換気ダクトを通ってついに目的地に辿り着いた。
部屋の中央には円筒状の大きなガラスが鎮座していて、淡く光を放っているせいかその中が確認できなくなっている。
換気ダクトから飛び降りた私のキャラクターが円筒状のガラスの目の前に駆け寄り、端末を操作させてみれば、端末を操作している進捗を示すようなバーが画面上に出る。
――――そして同時に、マップ全域に警報が鳴り響いた。
《おわっ!? なにこの音!?》
《きたーーーッ!》
《これはアツい》
進捗を示すバーが徐々に進んで、そして……。
【プレイヤー:ヴェルチェラ・メリシスが研究所内に眠っていた試作兵器『携帯型超電磁砲』を手に入れました】
マップ内全域に聴こえる音声と画面に表示されたログは、「さあ盛り上がれ」と言わんばかりに派手な演出だ。
この『兵器研究開発所』というマップらしい特殊な武器という演出。
一度もメインウェポンを手に入れずに到着するという条件が指定されたギミックによって手に入る武器は、その装置を起動させた『兵科』の専用メインウェポンであり、強力な効果を持つ一方、扱いが非常に難しい。
――――そんな武器を、チート並の実力を持っていると知らしめたアンフェアな存在が手にしたのだと高らかに告げるアナウンスに、はたして視聴者や他のチームの面々、そして実況がどんな反応をしているのか。
実に面白そうなので後で絶対に切り抜きとかアーカイブを漁ろうと決意しつつ、私は口角をつり上げた。




