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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
解き放たれる魔王節
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一家の団欒 Ⅰ

 炎上しているかと思いきや、何故かむしろチャンネル登録者数が増えていた。

 首を傾げつつこの理由を探っている内に、その原因が幾つか判明した。


 一つは、私の煽り文句がVtuberの切り抜きを専門としている有名なチャンネルで切り抜かれて、視聴回数が妙に多かったこと。

 そしてもう一つは、私があの後、モノロジーで「輝きを魅せろ」というハッシュタグにてそれぞれが燻ぶらせているもの、情熱を注いだものの成れの果て、夢の残骸とでも言うべきものをアップし、これから私が配信でもそれを取り上げていくと宣言したせいか、多くの人がやる気になって色々とアップしてくれたおかげだ。


 当然ながら私を批判する人も多いようだけれど、うん。

 発言を偉そうだの、何様だと批判している人もいるようだけれど、前世を思い出した私から言わせてもらえば「偉いに決まっておるであろう。妾は魔王ぞ?」という気分なので痛痒など微塵もない。

 そもそも負け犬の遠吠えなどいちいち気にせぬよ、はっはっは。


「……とは言え、これは予想外かな」


 翌日の放課後、家に帰ってきた私が今見ているのは、私の初配信を発掘したというユズ姉さんが働いている事務所、ジェムプロ所属のVtuberであるエフィール・ルオネットのモノロジー。


『ヴェルちゃん魔王のあの発言は、私も支持するかな。息苦しい方向に流れるより、足掻いてみせる方がカッコイイからね! 私も絵描くわっ! #輝きを魅せろ #ヴェルチェラ・メリシス』


 どうやら私を支持するという方向を明確に示したらしい。

 普通、大手事務所に所属する程に炎上に巻き込まれたくないと静観を貫く方が一般的である。

 特に今回の私の発言はなかなかに過激なものであったというのが一般的な見解のようだというのに、何故か彼女は私を支持すると表明してみせたのだ。


 もしかしてユズ姉さんが何かしたのかと邪推しかけたけれど、それはないかなぁ。

 ユズ姉さんは良くも悪くも仕事人間で、私情を挟んで私の火消しを行わないだろうし、自分が一生懸命支えてきたタレントにそんな無茶なお願いをしないだろうし。


 しかし……リプ欄を見れば「画伯が、絵……?」と困惑している発言が多い。

 かく言う私も、彼女の描いた絵がひど……前衛的かつ先進的な、そう、他に真似のできないタイプの絵である事を知っているだけに、思わず顔が引き攣った。


 私は苦手なモノを克服しろと言った訳じゃなく、情熱を注いで忘れ去ろうとしているものを呼び起こせと言ったつもりなんだけど。

 まあ、さすがにそれを私がモノロジーで語るのはマズいと思うので言わないけど。


「凛音ちゃん、大丈夫なの……?」


「心配はいらないよ。むしろ炎上してくれた方が好都合とも言えるからね」


 私の配信をしっかりチェックしている上に、どうやら私が炎上寸前の騒動を生み出した事を心配してくれているらしいお母さんに訊かれ、私は平然とそう答えてみせた。


「炎上するぐらいでちょうどいいよ。もちろん、炎上系Vtuberになりたい訳じゃないし、そうそう狙ってやっていく事じゃないとは思ってる。でも、私という人間を知ってもらうなら、今回のこれは炎上するぐらいでちょうどいいから」


「……そっか。うん、凛音ちゃんがそれでいいなら、お母さんもいいわ」


「うん、ありがとう」


 確かに私は何故か4千人という登録者数が増えてしまい、個人勢の新人Vとしてはかなり凄まじい勢いだと言えるし、認知度も皆無とは言えない程度であるとは言っても、結局のところそれだけでしかないのだから。


 前世を思い出した私から見て、この世界はなかなかに歪に思える。

 漫然と、漠然と、機械的に社会に関わらせる仕組みを作り、個の夢や希望というものをすり減らさせ、それを正しいコトとしてしまっているような、そんな歪さがある。


 だからこそ、私の煽り文句を聞いて心を奮い立たせてくれる切っ掛けになったのだとしたら、それ以上の事はない。

 その結果として私という人間の考えに合わないのなら、離れていけばいい。

 しかし私の言葉で生きている人の誰か一人でも、これを切っ掛けに輝くというのなら、此程に痛快な事はないじゃないか。


 もっとも、その影響力もたかが知れている、なんて考えていたのに、今朝の段階で登録者が激増して1万人なんていう数字を超えていたのは想定外ではあるけど。


 ともあれ、私にとってVtuber活動はかつての妾でいられる場所としても楽しめるし、それが形になっていくというのは楽しい。

 できればもう少し力を入れて色々とやってみたい気持ちもあるけれど、この身は花も恥じらう女子高校生である。

 学校生活と配信生活、この二つを両立させていかないと、お母さんやユズ姉さんにも申し訳ないので、なんとか頑張っていかなくては。


 なんて言いつつ、モノロジーでは昨日から何かと文句を言い続けてくる輩に堂々と言い返していたりもするのだけれど。


『一万人突破、じゃと……? 予想しておらなんだ……。感謝するぞ、臣下ども。しかし、切り抜きやら何やらは凄いのう』


 という、昨日の流れそのままに今朝投稿。

 そして返ってくる罵詈雑言にくつくつと肩を揺らす。

 そちらに追加してさっき投稿したのがこちら。


『気に入らぬのであれば黙って目を逸らせば良かろう、暇人じゃのう。粘着するのは結構じゃが、痛痒に値せぬのでな。いくら反論を垂れ流されようが、妾にとっては意味がないと知れ。妾は変わらん。昨日も言った通り、ただ輝きを魅せてみよ』


 こんな一言を投稿したせいもあって、どっちの投稿でもリプ欄は大変盛り上がっている。

 ふと視線を感じてそちらを見れば、お母さんも嬉しそうにこちらを見てにこにこしていた。


「ふふ、なんだかすごい事になってしまったけれど、ユズと一緒にあなたにVtuberを勧めて良かったわ。あなたがそうやって自分を偽らなくて良くなったのも、そのおかげだと思うもの」


「うん、私もやって良かったと思うよ。ありがとうね、お母さん」


 きっと前世の記憶がこのタイミングで蘇ったのも、お母さんとユズ姉さんのおかげだろう。

 記憶が戻る前だったのに明確に前世の私の事を設定として、その見た目も描いているあたり、記憶が蘇る予兆はあったのかもしれないけれど……配信寸前の緊張の中でようやく思い出す事になったあたり、無意識下に配信のタイミングで思い出すと理解していたのかもしれない。


 さて、そろそろ次回投稿用の動画でも準備しようかと思ってリビングから立ち上がろうとしたところで、お母さんのスマホが突然鳴った。


「あら、ユズからね。もしもし、ユズ? どうしたの? ……え? えぇ、今私の目の前にいるわよ? あら、そう? じゃあご飯も用意しておくわね。ふんふん……。えぇ、待ってるわね~」


「ユズ姉さん、なんて?」


「あなたに話もあって、お邪魔してもいいかって。7時ぐらいに来るみたいね」


「ふーん、私に? なんだろう? 分かった」


 今は十七時前だし、ちょうど夕飯の時間ぐらいって事かな。

 お母さんに返事をしてから私は自室に向かった。


 私の家は一軒家だ。

 元々は祖父と祖母が暮らしていたらしいのだけれど、私が生まれる前に祖母が亡くなり、そのすぐ後に祖父も亡くなってしまったらしく、今は私とお母さんが暮らしている。


 元々は古い家だったのだけれど、私が中学生の時に大規模なリフォームを行ったおかげで家自体は真新しく見える。

 お母さんがピアノを買ってくれて、私の練習用、兼絵描き用のアトリエなんてものを建てていたりするので、私の部屋は元庭先の位置にある離れが自室のようになっている。


 片親だというのに凄いお金を使っているけれど、お母さんに関して言えばそれも特に問題はないらしい。

 というのも、お母さんの仕事は女優だ。

 天才子役としてデビューして以来、ずっと芸能界に身を置いてきて、大きくなってからは実力派女優としてその名を知らしめている。

 ちなみに私を生み、乳飲み子ではなくなるまでの期間だけ女優業を一時休止して、完全に体型まで戻して復帰したというツワモノである。


 父親? 知らぬ。

 ちらっと聞いた話では、お母さんは未婚の母であるらしい。

 もっとも、父親は判っているそうだけれど、私が知りたがらないし、お母さんも話したがらないので話題に上る事はない。

 私が生まれるに至った事には感謝すれど、お母さんを一人にさせた父親は万死に値する。

 こっちの世界でも魔力があるので、二日に一回ぐらい足の小指をぶつける呪いでもかけてやろうかと思わなくもない。

 もしくは爪を切る度に深爪になる呪い。


 やろうと思えばできてしまうので、ちょっと本気でそういう小さな悪戯めいた呪いを開発したくなる。

 魔力とは肉体ではなく魂に宿るもの。

 それは理解していたが、まさかこのような異世界で、しかも魔法という存在が架空のものとなっているこの世界でもその法則が生きているとは思ってもみなかった。


 魔力を今後使う事があるかは分からないけれど、あって困る事もないだろうし、しっかりと使っていこうと思っている。


 特に転移魔法。

 移動が楽になるから使っていきたい所存。

 その辺りも使えるかを確認しておかないとなぁ。

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