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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
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エフィの独白

「……敵わないなぁ……」


 ――正しさは、自分で選んで歩いた先についてくるもの。

 そんなヴェルちゃんの答えを聞いて、私――ジェムプロの一期生、エフィール・ルオネット――の口を衝いて出た呟きは、幸い配信には乗らなかったらしい。






 ――――最初に彼女の配信を観たのは、私の趣味となった新人Vtuber配信漁りの最中だった。






 この数年、流行り病による巣ごもり需要とでも言うような影響もあって伸びたVtuber業界。

 自分で言うのもなんだけど、Vtuber業界の最前線を突っ走り続けてきた私や同期の面々が手探りで築いてきた。

 その自負もあるし、矜持だってある。


 もちろん、それをなぞる(・・・)ように真似るのは決して悪い事ではない。

 うまくいっている先人に倣ってというのは悪い事ではないだろうし、成功例があるのならそれを真似た方が簡単で単純で、うまくいくかもしれないと考えるのは分かる。


 でも、同じような事しかしない、安全な道だけを進もうとしているその姿を、視聴者が選ぶのかと言えば、選ばない。

 だってそれはすでに自分が観ているものと同じな訳だし、それを応援もしていない人がやっていたって、結局のところ退屈(・・)に思えてしまうし、どうしたって応援しようとか観ていたいと思わせたりとか、そういう興味を損なうから。


 テレビだってそうでしょう?

 同じような番組、同じような内容のものをやってるなら飽きるし、観なくなる。

 どうせ観たとしても、その時に出ているキャストがいいとか、好きな芸能人が出ているからとか、そういうもので選ぶようになってしまう。

 でも、それでもあまりにも番組内容がつまらなければ、結局観る気だってなくなっていく。そうやってテレビ離れは加速したんだから。


 そんな状況に危機感を覚えて、目立ちたくて他の方向に進むVtuberも少しは増えてきたけれど……正直に言ってその方向性はどうにも迷走している。


 奇を衒って、大衆受けしないジャンルで視聴者を獲得してはいるものの、大手と言われる私の所属するジェムプロ、そしてウチと比肩すると言われているクロクロの配信チャンネルに比べてしまうと、なかなか難しいものがある。


 もちろん、これは自慢でもなければ見下している訳でもなく、純粋な数値に対する評価に関する話だ。


 結局、奇を衒ったところで、それは『Vtuberを知っている視聴者層』が『ちょっと違うジャンル』として観るのであって、『元々Vtuberに興味がない、知らない視聴者層』を新規開拓するまでには繋がらない。

 だからどうしても伸び悩んでしまうのだろうとユズさんもそう評しているし、私もそれには同意見だった。


 ――じゃあ、『元々Vtuberに興味がない、知らない視聴者層』をどうやって獲得するのか。

 もちろんそれはいつだってジェムプロの課題となっている問題だし、だからこそ、様々な分野に積極的に挑戦を続けてきた。

 それこそ、知名度が皆無と言えるような時代からずっとずっと、それに対抗するにはどうすればいいのかと悩み、苦しみ、もがいてきた。


 そうしてもがいてきた結果、私たちの業界はインターネットの強みを活かす事にした。

 国内のみではなく、海外の視聴層を取り入れていくべく海外勢を募集してみたり、なんて事もしてきた。

 テレビへの進出だってそうだ。そうやって積極的に動いている。




 ――そうしながらも、私は待っていた。




 私たちとはまた違った方向性、異なるアプローチで視聴者を惹き付けるような、そんな開拓者となれるような眩しい存在。

 既存のVtuber視聴者だけじゃなく、Vtuberというジャンルを押し上げて、新規の視聴者さえも引っ張ってきてくれるような、新しい風というものを。


 そういう新しい風を探して、最近はジェムプロの新人オーディション映像も確認させてもらっている。

 もっとも、ジェムプロの既存のVtuberと同じようにただ真似たい、ただ追いかけているというだけでは、それはジェムプロとしてだけじゃなく、停滞しつつあるVtuber業界としても欲しい人材とは言えないというのが私とユズさんの本音だ。


 ジェムプロとしても、ジェムプロと、そして今のVtuber業界がこのままでは頭打ち(・・・)してしまう事を理解している。

 だからこそ、ついつい厳しい目で応募者を見ているせいもあってか、何度も行っているオーディションであっても合格者ゼロなんて事も少なくない。

 ちょっと面白い、ちょっと珍しい、ちょっと声がいい、なんてものは必要としていないから。




 ――でも、新しい風となれる存在はなかなか現れなかった。

 それどころか、この業界そのものがどうにも一つの壁みたいなものにぶつかっているというか、そんな状況がここ一年半程続いているような気がする。




 じわじわと数字は伸びているけれど、どうしても爆発力が目に見えて下がっているような気がする。

 チャンネル登録者は増えているけれど再生回数は横這いだったりもするし、全然チャンネル登録者数に比べると届いていないんだよね。


 それはつまり、飽きられてしまったんじゃないだろうか。

 そんな不安が、どうしたって常に付き纏っている。


 今じゃ視聴者も、悩みなんてなさそうだとでも言いたげに軽口を叩きつけてきたりもするけれど、そうじゃないんだよ。

 私たちは何年も活動して、そういう動揺を隠して、誤魔化して、押し殺すのが上手くなっただけ。


 ――未来が見えない事への不安がなくなった訳じゃない。

 再生回数が伸びないというのは、それだけで不安だし、チャンネル登録者数の増減に今だって一喜一憂しているんだよ。


 ――軽口の誹謗中傷に傷つかなくなった訳じゃない。

 ネットに書き込まれている事をいちいち受け止めないようにしてるし、相手にしないように努めているけれど、傷つかなくなったり慣れて無感動に何も感じなくなった訳じゃないんだよ。痛いし、傷つくんだよ。


 でも、そういう事さえなかなか言えなくなってしまった。

 配信中のちょっとした一言でさえ、悪意の有無も関係なく切り抜かれ、まるで悪意があるかのように、盛り上がって視聴回数が伸びるからと切り抜いてアップされる事もあるから。

 純粋に愛して応援してくれてやっているのではなく、ただただ私たちの切り抜きなら視聴回数を稼げるから、お金になるからってやりたい放題やってる人もたくさんいる。


 でも、私が文句を言えば『代弁者』を気取った人々が誰かを攻撃してしまう。


 百歩譲って本当に厄介な相手だけならともかく、『エフィのために』とかそういう正当化された大義名分を背負って、私を応援してくれているだけの人にまで攻撃が及んでしまったりもするかもしれない。


 ――そう考える内に、文句の一つも気楽に言えなくなって。


 私が嫌いなだけ、気に喰わないだけならともかく、『そういう事をお前がするからメンバーの誰々までおかしな目で見られる』みたいに言われてしまったり、私だけじゃなくて箱全体に迷惑がかかるかもしれないって不安も生まれて。


 ――そうして、バカの一つも気楽にやれなくなって。


 まるで、有名になればなるほど、私たちは自由を失っていく気がして。

 そうやって閉塞感みたいなものばかりが漂ってきて、息苦しくすら思えてしまう。






 ――――そんな中、ヴェルちゃんが現れた。






 個人勢のVtuberでありながら、すでにチャンネル登録者数も50万人に届こうとしている、デビュー半年に届かない大型新人。

 その中身は私たちジェムプロの立ち上げ当初に、若くして芸能事務所から移籍してきたという統括マネージャーをしてくれているユズさんの姪っ子で、華の女子高生。


 モデルの見た目、キャラクター性、声だけじゃない。

 彼女の言葉、物言い、そしてその裏打ちされて溢れ出る自信は、他人の心を強く惹き付ける。


 普通、女子高生というまだまだ若い相手――それこそ、私よりも5歳以上も年下の子が口にする言葉は、どこか若々しくて厚み(・・)もない、現実味もないものだ。

 思春期の子供がどれだけ本を読んで知識を得たとしても、それは実感の伴わない特有の薄っぺらさが拭えないものになるだけ。


 けれど、あの子の配信で告げる言葉、堂々とした物言いはそういう浅さ(・・)を感じさせない。


 彼女の演じるVtuberとして設けられている設定。

 まるでそれが本当だったかのように、数千年とかいう時を本当に生きていたのではないか、そう思わせるぐらいに精神が成熟しているように見える。

 もちろん、Vtuberというガワ(・・)が実際の年齢を感じさせないから、という事も少なからずあるだろうけれども。


 だから、だろう。

 あの子の言葉はまっすぐ届く。

 真に迫る、というと少々言い過ぎだとは思うけれど、実感と熱を持ってこちらに伝えられる言葉は心に突き刺さり、震わせ、熱くする。


 あの子はきっと、本当の意味でこれからも素直に、真っ直ぐ視聴者達に様々な言葉をぶつけ続けるんだろうなって、そう思う。

 良くも悪くも他人を惹き付けるカリスマ性とも言えるようなものを持っていて、目を離せない輝きを放っていて、真実を真っ直ぐ貫くような力のある言葉を口にする。


 ――この子の登場で、何かが変わるんじゃないか。

 あの子を見ていると、そんな期待が胸を焦がす。


 だからこそ、私は。

 ジェムプロの一期生であり、Vtuberとしてトップと言えるような位置にいる私は、彼女を応援する。


 大手にいない彼女であり、しがらみに囚われず、自由にそのカリスマ性を発揮できる彼女と対極のような位置にありながらも、彼女を肯定し、『トップVtuberにも肯定されているのだ』とアピールすると、そう決めた。


 もしもこの子が人の悪意に潰されてしまいそうな時は、絶対に支えよう、と。

 もしもこの子が小さく纏まってしまいそうな時は、絶対に発破をかけよう、と。

 それが、Vtuberの時代を切り拓いた私だからこそできる、新たな時代の作り方なのかもしれないと、そう思って……―――――






 ――――……いたんだけど……。






《くくくっ、くっははは……! くはーっはっはっはっはっ! ほれ、立ち向かってみせぬか。何を尻込みしておるんじゃ、ん? 妾はここにおるぞ? ほれ、そこの貴様、撃ってみせよ! ……つまらんのう、そこの貴様じゃぞー》


〈ヴェルチェラ・メリシス >> 夏目 棗〉


《貴様もじゃな。ほれ、隠れてどうするんじゃー?》


〈ヴェルチェラ・メリシス >> XaM〉


《あ、逃げおった。こらー! そこまで近寄ってきたんならかかってこんかーっ! 腑抜けどもめー!》






 第1試合、中盤。

 マップの高い位置に堂々と姿を晒して立ったヴェルちゃんは、その場から動かないと宣言して、視界に入る全ての他プレイヤーを蹂躙しながらめっちゃ煽ってる。






 ――――この子、私が支えるとか必要なくね……?




 


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