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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
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配信後のやり取り

《――やってくれたわね、凛音ちゃん……!》


「いや、ごめんて」


 配信終了後。

 けたたましく鳴り響いた――という程でもない『Connect』を通しての通話呼出音に反応して通話ボタンをクリックすると、ユズ姉さんからの恨み節満載な声。


 そこから出るわ出るわ、お説教の数々。

 すでにジェムプロとクロクロで話し合いも進んでいるのに、とか。

 今後の流れ――つまり不正行為をした面々の参加資格剥奪の流れを知っていたはずなのにどうして、とか。


 そんな説教を耳にしつつも、レイネからすっと差し出された新しい紅茶を口にしながら、特に悪びれる事もなく軽い調子で答えている私の態度に気が付いたのか、ユズ姉さんの深い溜息が聞こえた。


「まあまあ。ユズ姉さんとしても別に悪い話じゃないでしょ?」


《……どういう意味かしら?》


「このままだと延期は免れない。けれど、スケジュール調整だって数十人も対象になるし、しかもそれぞれ所属もバラバラで簡単にできない。問題を起こした人たちを外して新しく集めたとしても、私たちみたいにすでにチームとして組んでいるメンバーと新規参加メンバーの即席チームとじゃ、練習期間が違うだのなんだのって不平不満は噴出しかねない。かと言ってチームまで新しく組むなんてなれば、それはそれで新たな火種にもなりかねない。そうでしょ?」


《ッ、それは……》


 本番に向けた限られた期間の中、多忙な箱に所属しているVtuberやライバー達が時間を捻出して練習してきたチームを、騒動が原因で解散なんて事になり、「はい、じゃあ新しいチームでやってください」とはいかないよね。

 それを許容するとなると、普通に大会に参加しようとしていたVtuberやライバー達だけが割を食う(・・・・)形になっちゃうんだから。


 そうなれば、視聴者の怒りは更に大きくなる。

 当然ながらその怒りは不正を行った張本人たちにも向かうだろうけれど、『悪意のない悪』をぶつけられる形になる人達だって出てきてしまうかもしれない。


 ネット社会の怖いところは、独り言レベルで呟くような垂れ流しの言葉さえ他人に届いてしまうというところ。

 たとえば応援の言葉だって、「あの子と組んでたチームの大会本番を見たかった」とかって何気ない感想めいた一言を投稿したとしよう。その一言を新しく組んだメンバーが見れば、「それはつまり自分が組んだから見たくなくなったのか」という風にも受け取れてしまう。


 もちろん、「その程度の事をいちいち気にするなら配信者にならなければいい」なんて無遠慮に口にする人間は掃いて捨てるほどいる。

 でもそんな言葉は、何も相手の事なんて考えず、ただただ自分は正論を口にしているかのようにマウントを取りたがっているだけの、ひどく独りよがりな意見でしかない。


 ほら、昔の運動部であったっていう「水を飲むのは甘えだ」とか言う頭のおかしい精神論をさも高尚なものかのように語る部活顧問や、「会社の為に協力しろ」だの口にして謎のルールを押し付けて人を飼い殺しにするようなブラック企業とかにあるっていうアレ。

 貫くべき根拠もなければ正当な理由もなく、ただただ思考停止して「我慢するのが偉い、正しい」みたいな謎の根性論を口にしているような、頭のおかしな人間のやり口となんら変わらない。


 受け取った澱みは積もっていって、いずれ受け取った側の心を少しずつ蝕んでいくというのに。

 そんな考えにも至らない人間はたくさんいる。


 まあ、だからってそんな人間にいちいち目を向けて「配慮しろ」なんて言っていたらキリがないし、こればっかりはどうしようもないけどね。

 下手な『正義』を掲げたがる連中もそうだけど、結局のところ、そういう『悪意のない悪』まで統制するのは難しい。


 だから、私は今回の騒動という火に、さらに『分かりやすい目標』という燃料を投入する事にした。

 敢えてわざわざ小馬鹿にしてヘイトを買うような物言いをして、さらに視聴者に対して優勝宣言という話題を提供し、私という分かりやすいまでの『敵』を作り出す。

 そうする事で、そんな私の活躍、あるいは私を倒す他のプレイヤーの活躍に注目が集まり、お祭り騒ぎになりやすくなる土台を生み出し、視聴者の意識をこちらに向けさせた。


 もっとも、それだけじゃないけど。


《……まさか凛音ちゃんがこんな大胆な行動に出るなんて思ってなかったわ》


「奇遇だね、私もだよ」


《ちょっと、なにそれ》


 だって、私の立場的には今回の騒動については沈黙してても良かったんだしね。


 私は個人勢だし、スケジュールを調整するのだってジェムプロとかクロクロとか、そういう大手みたいに大変じゃないし、私たちは被害者というか、狙われた側って形なのは明白だから。

 どうも私のチートとやらを暴こうとしての行動だったんじゃないかって話ではあるし、その疑いさえ案件で晴らせば良かったとも言える。


 でも、ユズ姉さんの負担を減らしたいとも思っていたし、本腰を入れて活動しようっていうのなら。




 ――冷めた態度を気取るなんて、つまらない(・・・・・)





「ユズ姉さんだって、せっかくジェムプロが大会に参加しているんだから、最大の盛り上がりを見せたいって思うでしょ?」


《……え?》


「大手の箱であるユズ姉さんやクロクロ、他の箱の人達だって、今回の騒動で不正を行った連中を排除して仕切り直そうって考える。そうなるのは当然の流れとも言えるし、箱として活動してる以上は妥当な判断だとは思うよ。騒動を起こした連中との関わりを断って、キレイに終わらせたいと考えるのはね」


《……えぇ、そうね》


「でも、そうなったら盛り上がりは欠けるし、普通に参加するメンバー達だけが面倒事の尻拭いをするのと変わらないじゃない」


《そ、それはそうだけど……!》


「ねえ、ユズ姉さん。当事者たちはまだ自分たちの非を認めていない(・・・・・・)んだよ? こんな風に盛り上がったら、どうなると思う?」


《ッ、凛音ちゃん……。あなた、まさか……》


「うん、そうだよ。こうなった以上、不正をした連中は自分から参加の辞退なんて真似はできない。辞退した時点で不正を認めたって見做されるからね」


 未だに沈黙しているらしい今回の騒動を引き起こした連中。

 彼らはまだ自分の非を認めていない。

 そこにジェムプロやクロクロが参加資格剥奪の決定をして発表してしまうと、彼らは「そういう決定になったから従った」という『従う理由(逃げ道)』を得る事になるし、「完全に不正がバレたから謝罪しなきゃ」と『謝罪する理由』を得てしまう。


 もうそうなったら、あとは流れ作業のように謝罪配信が続くだけ。

 反省なんてしなくても、そうしなきゃいけないっていう流れが生まれてしまうってことだ。


 そうなってしまっては意味がない。


 心から反省しているならもうとっくに声明を発表しているはず。

 それでも黙っているあたり、なんとか穏便に済ませたいってトコだと思う。

 おそらく向こうは口裏を合わせてしらばっくれているだろうし、結果として仲間内で見張り合って動けないような状況なんだろう。


 そんな連中に、ご丁寧に謝罪する口実をわざわざ与えたりするような優しさは、私にはない。


 だから早めに動いた。

 注目を集める事を承知の上で、それでも逃げ道を潰すために。


 今までの、Vtuberとしてなんとなくで活動していた私なら、ここまでの騒動を引き起こす事はなかったんだけどね。

 ここまで言って注目を集めようとか、流れをコントロールしようとか、そういう意識はなかったし、むしろそうならないように多少は遠慮してたぐらいだけど、真剣に向き合うと決めた以上は矢面に立つ事に躊躇うつもりはない。


 目立って、注目されて。

 それすらも利用するのが、魔王として生きていた私のやり方だ。


「参加資格を剥奪された事で観念して、そこでようやく不正を認めるような甘さを与えるつもりはないよ。こうなった以上、彼らに残された道は2つだけ。逃げずに参加するか、罪を認めて自白して引退するか。前者であれば、せいぜいこのまま出場してもらって、良心の呵責に耐えつつ、かつこの騒動という口実を得た視聴者の容赦ない口撃を受ける捌け口として機能してもらう。それが彼らへの罰」


《……なかなかにえげつないわね》


「まあね。でも、そんな中で必死になって誤魔化そうとしながら、頑張って立ち向かってきたところを倒すのも盛り上がるだろうし、彼らがこの逆境の中で実力を証明して優勝しても、それはそれで盛り上がる」


《……どっちに転んでも、おいしい(・・・・)と言いたいのね。不正をしていない他のメンバーも、騒動に対しては及び腰で声明を発表したりしていない。つまり、もしも負けたとしても元々何か騒動を引き起こした当人でもないのだから、逆に口撃の対象になるような事もない。なら、そんなおいしい(・・・・)配信、乗らない理由はないわね》


「そういうこと。――それで、ユズ姉さん。不正に加担した連中の出場停止処分だけど、取り消してもらえるよね?」


《……はぁ……。凛音ちゃんも分かってるでしょ? もうモノロジーでもトレンドになっちゃってるし、エフィたちまであなたにあてられてモノロジーで優勝宣言してる。こんな状況で、いまさら参加資格剥奪なんてできる訳ないでしょ……》


「あはは、ごめんね」


《……それに……》


「ん?」


《……正直、私もすごくワクワクしてきているもの。あなたが言う通り、この大会は盛り上がるわ。それこそ、今までの大会で一番盛り上がると言っても過言ではないぐらいに、ね》


 通話越しに、獰猛な光を称えて笑みを浮かべているであろう事が窺えるような声色で告げるユズ姉さんの声に、ついつい私も口角をあげた。


「へぇ……。ユズ姉さんもそんな風に思ったりするんだ?」


《……ふふ、そうね。最近はすっかり大手になっちゃって、どうにも保守的というか、守らなくちゃって意識ばっかりだったけれど……。いつの間にか、忘れてしまっていたのかもしれないわね。そういう、突き進もうっていう気持ち》


 その気持ちは、私にも分かる。

 魔王として生きていた頃、色々なものがようやく上手く回り始めたと感じた頃。

 上手くいくものを守ろうとして、そのせいかどこか息苦しさみたいなものを感じた時期が私にもあった。

 やっとうまく回り始めたから、大事にしたい。

 そう思うだけなのに、何かが酷く退屈になってしまって、気がつけば雁字搦めに守らなくちゃいけない事に縛られてしまうんだよね。


 もっとも、それに気がついてから「突き進んで壊れるものなら守る意味なんてない」とかいう理論で私はそういう考えを切り捨てちゃったけど。


《……ふふ、ごめんね。まあそういう事なら分かったわ。悪い流れじゃないし、その方向で進められるか話してみるわね。ただ、返事は明日になるかもだけど、それでもいい?》


「うん、ありがとう。明日は案件撮影でどれぐらい時間かかるか分からないし、チャット入れておいてくれればいいよ」


《分かったわ。初めての案件、頑張ってね》


 その後は短くやり取りして通話終了。

 ユズ姉さんが動いてくれるなら、ジェムプロやクロクロについてはきっとどうにかなるはずだし、期待しておこう。




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