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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
57/201

【配信】宣戦布告

「待たせたの。よくぞ集まった、臣下ども。唯一無二の魔界の女王、魔王ヴェルチェラ・メリシスじゃ」


『こんばんはー』

『巻き込まれ事故おつかれさま』

『不正への言及に期待』

『不正してるのコイツじゃんw』


 コメント欄を見てみれば、なんとまあ流れが早い。

 どうも昨夜のチーミング、ゴースティング被害の当事者である私の配信という事もあって、注目度が高まっているらしい。


 相変わらず私を不正と言い続けるのもいるけど、この後の話を聞いてどう反応するのやら。

 少々意地の悪い笑みが浮かぶ。


「さて……、まあさすがにあの話題に触れないでただの雑談をしよう、という訳にもいくまい。視聴者数の多さも、ただの雑談枠にしては妙に多いからの。貴様らが聞きたがっている内容は言われんでも分かるというものじゃ」


『さすが陛下』

『お、触れてくれるんだ』

『助かる』

『ばっさりいく陛下がどう答えるのか楽しみ』


 コメントの流れる早さがさらに加速して、次々に期待の声が投げかけられる。

 そんな期待を裏切る(・・・)事になるけど、ね。


「どうにも昨日の練習マッチでの最終試合、3戦目の試合内容が色々と物議を醸しておるようでな。それについて昨日からモノロジーでも色々とトレンドを掻っ攫っておるようじゃが……先に言わせてもらおう。――不正行為なんぞ妾は知らん」


『明らかだったじゃんw』

『まあ大手が沈黙してるのに何か言えるはずもないわな』

『え、ジェムプロに口止めとかされてるん?』

『さすがにアレは何もなかったとは言えないんじゃ』


 うん、コメントが言う通りだとは思うよ。

 チーミング、ゴースティングについては切り抜き動画で状況証拠となる場面が大量に上がってるし、不正に加担しなかったメンバーの匂わせ発言も出てる。

 そんな中で私がこんな発言をすれば、まあ期待外れでもあるだろうし、チームメンバーであるエフィ達の上、つまりジェムプロからそう指示されたと勘ぐるのも無理はない。


 もっとも、それはお門違い。

 そうやって否定したり騒動を抑えようとするぐらいなら、そもそも私は配信なんてしようとしなかったしね。


 小馬鹿にするように、皮肉を嘲笑うように鼻で嗤う。


「ふ……っ、貴様らが騒いでおる昨日の3試合目なんぞ、妾からしてみればキルポイントごちそうさまという感じでしかなかったが? 有象無象が寄ってたかっておったので撃ちたい放題じゃったし」


『煽りよるw』

『くっそww』

『そういう問題じゃないんだよ』

『不正されてたんだからちゃんと言った方がいいよ』


 ん?

 なんか不正を糾弾したいのにできない、みたいな謎の深読みまで発生してない……?

 いや、想像力逞しいというかなんというか。

 そういうのは求めてないぞ、私。


「本番でもあれぐらい撃ちたい放題撃たせてくれんもんかのう? 選り取り見取り、選びたい放題のバーゲンセールみたいなもんじゃろ、あれ」


『バーゲンセールは草』

『まあ実際のとこ、ジェムプロ無双だったしなw』

『いや、だからって不正許すなよ』

『チート使ってるお前が煽るなよ』


「不正のう。あぁ、確かにバーゲンセールをわざと生み出して、敢えて妾たちにポイントを大量に捧げた、という意味では不正に見えん事もないかの? ふむ、であればお節介も甚だしいぞ? 妾たちはそんなこと、一切頼んでおらんしの」


『その発想はなかったw』

『それで不正したって言いがかりつけるとか、ニュータイプの嫌がらせじゃんw』

『草草草』

『チート認めろよ』


 煽れば煽るだけ、コメントの反応が過激になる。

 不正行為を行ったであろう面々を擁護するようなコメントも、ごくごく稀に見かける程度にはあるらしいけれど、煽られて加熱したコメントにあっさりと流されていく。


 一方で、私がチートだと矛先を変えたがるコメントもちらほらと増えてきた。


『チートで俺TUEEEして煽ってんじゃねぇよ』

『陛下がチートじゃないってのは公式が認めてただろ』

『どう考えたってチートじゃん』

『チート扱いで不正の矛先変えようとして必死w』

『まだチートとか騒いでるヤツいるんかw』


 うん、普通なら「人の配信のコメント欄で言い合いするな」と言いたいとこではあるんだけど、こうなるのは予定通り(・・・・)だ。

 だって、そう仕向ける為にヘイトを買うべく煽っている訳だし。


 今回の騒動の原因は、不正行為であるチーミングとゴースティング。

 もうそれを否定できるような流れではない。

 誰もが「あいつらはやった」という認識を抱いているし、こうなってしまっては擁護しようがないと考える視聴者の方が圧倒的に多いのは明らか。


 すでに大勢は決している、というヤツだね。

 いまさら覆せるはずもない。


 そうなると、せいぜい痛み分けを狙うのが関の山。

 戦で言うところの死兵のようなもので、死なば諸共と言わんばかりにこちらに刺しにくるしかない。

 



 ――だから(・・・)煽る(・・)




「まあ、それはともかく、じゃ。なんぞさっきから妾をチートだのなんだのとほざいておる輩もおるようじゃ。公式にも認められた妾に対し、自分が認められぬからとキャンキャンキャンキャンと喚いておる畜生風情にもいい加減飽いておるのでな。あまり乗り気ではなかったんじゃが、とある仕事を受けようと思っての。そのお知らせじゃ。――察しが良い者もおるようじゃから、まあもったいぶる必要もあるまい。『OFA』の公式から案件が来たので、そのお知らせじゃ」


 画面に表示されるのは所詮はモデルだけれど、配信までに少々モデルをいじっておいたおかげで、私の表情のそれに実に近い嘲りが浮かぶ。


 それと同時に、画面上にデカデカと案件用のサムネイルを表示。


『は?』

『はああぁぁぁ????』

『え、リアル映像あり!?』

『手元公開って事はチートなんてやりようがないじゃんw』

『相変わらず噛みついてる連中もこれにはだんまりw』


 サムネイルに記載されているリアル映像やらの説明もあいまって、コメントが再び加速している。

 一方で、チートだのなんだのと言っていた人間のコメントはぴたりと止んだ。


『リアル出てくるのってピアノとお絵描き以来だ』

『これは完全なる証明完了の予感』

『チートだのなんだの未だに騒ぐバカが多いしなぁ』

『Vなのにリアルを出さなきゃいけないって、なんか違うよなぁ』

『チート疑惑でぐちぐちうるせー奴らのせいで出なきゃいけないんか』

『Vでやってんのにそんなことまでやんなきゃいけないなんて、ホント迷惑』

『ホント根拠もなく騒ぐ奴らウザい』

『今回の大会のせいで変なの増えたしな』


 次々に流れるコメント。


 応援してくれるのはありがたいこと。

 私に対して同情を抱くのだってありがたいと言える。

 でも、赤の他人が赤の他人に悪意をぶつける理由にされるのは御免だ。


 ハッキリと言ってしまえば――――




「――勘違いするでないぞ」




 ――――この一言に尽きる。


「妾がチートを使っているだのなんだの騒ぎたい者なんぞ、勝手に騒がせておけばよかろう。配信を始めた頃も言ったはずじゃが、見たければ見ろ、見たくなければさっさと()ね。取捨選択は貴様が決めることであり、妾は無理に見てほしいだのとは思っておらぬ。勝手にせい、と言っておる」


 去る者は追わない、というのが私だ。


 そんな私である上に、さらに本気でVtuberとして活動しようとしなかったからこそ、私はそのスタンスを余計に貫いてきたし、視聴者がそれを受け入れてくれようと受け入れなかろうと、深く関わり合うつもりにもならず、以前の私なら、今回の騒動だってこうして関わろうとはしなかった。

 言いたい事は勝手に言わせておけばいい、やりたいようにやっていればいいと対岸の火事よろしく傍観して、動こうとは思わなかった。


 Vtuberとして活動していくこと。

 お母さんとユズ姉さんに薦められたのがきっかけとは言え、()もまた「変わりたい」と心のどこかで思ったからこそ受け入れた活動。


 具体性もなく、漠然としていた()の願い――自分らしく在れる居場所を作るという願いは、結果としてかつての記憶が蘇ったおかげで叶った。

 けれど、その一方でVtuberとして活動する事に対しては、どこか惰性めいたものがあって立ち位置を曖昧にしてきた。


 それで応援しなくなるのなら、それまででいい。

 それでも応援しているのであれば、それでいい。


 そんな風に、他ならぬ私自身がVtuber活動に対して本気ではなかった。




 ――――でも、それは今日この時まで。




 本気でやるからには、そんな自分を支えてくれる存在には全てを以て応えよう。

 それが、魔王であった私の矜持。

 その矜持を貫くべく、私は動くと決めた。


 今回『OFA VtuberCUP』の参加を決めたのは、困っているユズ姉さんに少しは恩を返したいと思っただけ。

 こんな騒動になって一番堪えているのは私ではなくて、私を巻き込む形になってしまったと考えるであろうユズ姉さんだと思う。

 当事者である私は全然堪えてないし。


 私を最も支えてくれているのは、お母さんとユズ姉さんだ。

 そのユズ姉さんの負担を少しでも拭って、かつ今回の大会を盛り上げるために、私は言葉を続ける。


「今回の件もそうじゃ。チーミングだかゴースティングだか知らんが……くくっ、何をくだらん事で騒いでおる。妾は魔王ぞ? 人間が知恵を、力を結集してどうこうしようとしてくるなど今更珍しい事でもない。いっそ妾から言わせてもらえば、ゲームという魔力の差も関係ない極めて平等な戦いにも係らず、わざわざそこまでしてなお妾に届いておらんのでは不甲斐ないとしか言えんな。何せ妾から見れば、影響などほぼなかったんじゃからの。おっと、キルポイントは多く稼げたか」


 かつて魔王という存在であった私に歯向かおうとする者は多く、それぞれがそれぞれの身勝手にも安い『正義』を胸に抱いて襲ってきた。

 私は魔王として、自らを慕い、支える民を守るべく身勝手な『正義』を蹂躙してきたけれど、私はそんな私自身を『正義』だと思った事など一度たりともない。


 私は私の征く道を進むのみ。

 そこに正しさがあろうがなかろうが、関係などない。

 自らの行いに自信も責任も持てない輩が、身勝手に正当性を主張するのに使う言葉に成り下がっている『正義』。

 そんなモノを自分が口にするのも、他人によって自分をそんなものに当てはめられて使われるのも虫酸が走る。


「今回妾が乗り気でなかったというのに仕事を受けるのは、そのような畜生風情への証明ではない。あくまでも妾を信じておる者への配慮じゃ。臣下である貴様らが、くだらぬ妬み嫉みを抱く連中や、幼稚な自尊心を満たしたがってキャンキャンキャンキャン吠えておる連中という、至極どうでも良い存在に煩わされておるようじゃからの。妾を信じる者に応える為に、くだらんチート疑惑を一蹴するにもちょうど良いからこそこの仕事を受ける。ただそれだけの話じゃよ。――まあ、今の妾がこれを受ければ注目度も高いであろうし、宣伝にもなるであろう。公式も嬉しかろ?」


『かっけぇ、と思ったらw』

『それはそうなんだがw』

『OFA公式※:それはそうです、ハイ』

『公式いいぃぃぃ! 認めんなや!w』

『おい公式ww』

『まさかの肯定w』


 盛り上がるコメント欄に現れた公式アカウントの返事を確認して、ちらりと斜め後方に目を向ければ、レイネが僅かに会釈して応えてくれた。


 さすがはレイネ。

 マネージャーをしてほしい、という私の要望。

 今回の展望を聞かせた上で、先方とのやり取りも含めてレイネに任せたのだけれど、万事問題なく話を取りまとめてくれたらしい。


 まあ、今日電話して明日撮影、明後日の夜に放送が決まってるっていう時点で、全て(・・)の承諾を得たんだろうとは思っていたけどね。


「――さて、最後に宣戦布告じゃ」


『お、なんぞ?』

『宣戦布告?』

『なになに?』

『どういうこと?』


 ――ユズ姉さんには悪いと思うけれど、こうさせてもらうよ。


「誰とは言わぬが、隠れずかかって来るがいい。チートなどというくだらぬ言い訳を砕いた上で、貴様らがただ弱者であったのだと理解できるよう、妾が踏み潰してくれようぞ。昨日の夜の時点で、すでに賽は投げられておる。尻尾を巻いて逃げるなんぞ許さぬ」


 くつくつと笑いながらも、獰猛に画面を見つめながら続ける。


「さっきも言った通り、不正があったかどうかなんぞどうでもよい。いっそチーミングやらゴースティングやら、好きにやってかかってこい。キルポを捧げてくれるというのであれば大歓迎じゃぞ? 全て妾が――いや、妾たち『魔王の宝石』が踏み潰し、喰らいつくしてやろう。完全なる敗北を貴様らに味わわせてやろう。つまるところ、貴様らが何を企もうが、尻尾を巻いて逃げようが、結果は変わらぬということ」


 にやりと笑って、私は最後の一言を口にした。


「――かかってこい、小童ども。優勝は、妾たち『魔王の宝石』がもらう」


『優勝宣言きたああああぁぁぁぁっ!』

『エフィール・ルオネット〆:ちょっ、ヴェルちゃん!?』

『獅子歌 リオン〆:おおおぉぉぉ! やってやるぞー!』

『雪瑪 スノウ〆:ん、皆殺しよゆー』

『エフィール・ルオネット〆:ちょっと!!??!!??』

『これはむしろ激アツww』

『ここまで言われたら逃げれないだろw』




 このあと、ユズ姉さんにめちゃくちゃ怒られた。

 解せぬ。

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