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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
52/201

【配信】悪意には、悪意をもって Ⅱ

 マップ名、研究島。

 カスタム戦の練習マップとして選ばれたこのマップが、よりにも寄ってあの憎たらしい魔王という設定のV――ヴェルチェラ・メリシスの操るスナイパー向きの戦場と言われている、中から長距離レンジ向きと知られる場所なのは、お誂え向き(・・・・・)とでも言うべきかもしれない。


『タイプ音注意。あと不自然にキャラが固まらないようにね』


『りょ』


『化けの皮剥がしてやんよw』


 不自然にならない程度に会話をしつつキャラクターを操り、その裏で『Connect』でチームメンバーに向かって私――江籠 カルゴ――が注意を促せば、プロのトラストさんとVのアストさんこと、通称ストツーの二人から返事がきた。


《うふふ、楽しみですねぇ~》


 ほんわかとした、おっとりとした声で喋るもう一人のチームメンバー、水無月 サツキ。

 彼女は普段の配信でも独特の空気感、清楚さ、おっとりとした喋りに視聴者から聖女様なんて呼ばれている、お姉さん系のVtuber。


 あの『ジェムプロ』や、そんな『ジェムプロ』に比肩しつつも対極的というべきか、女性しかいない『ジェムプロ』と違って、男性Vtuberも積極的に入れて男女混合での配信等も当たり前に男女混合で行っている大手Vtuber事務所『CLOCK ROCK』こと通称クロクロという箱に所属する人気配信者。


 彼女だけは私とストツーが今回こうして動こうとしている事も、それに他の事(・・・)も含めて何も知らないただのチームメンバーで、偶然にも抽選会で割り振られただけの第三者でもある。


「サツキ様、注目のプレイヤーっていますか?」


《んー、そうですねぇ~。もちろん、ヴェルチェラ・メリシスさんですよ~。あの人の跳弾は、ちょっとした芸術みたいなものですもの~。カルちゃんも跳弾練習してましたよね~?》


「あ、ハイ。私もアレは凄いなって思って。……でも、どうやっても上手くいかなくて。あんな、『普通じゃないプレイ』ができたらいいなって思ったんですけどね……」


《同じ長距離が得意なカルちゃんでも、やっぱり難しいんですか~?》


「……です、ね。同じ角度から撃ってみても全然違うところに飛びますし……」


《あー、あの魔王サマの跳弾ね。話題になったよな、トラさん》


《ウチのチームでも真似しようとしてたけど、無理だったって話だからなー。実際、俺も条件を一緒にしたはずなのに狙ったトコには飛ばなかったし》


《プロのトラさんでも無理なんだなー》


《跳弾はマジで無理。普通にやっても(・・・・・・・)できねぇよ、あれ》


《あらあら、ヴェルチェラさんは凄いんですねぇ~》


『聖女様マジ聖女』

『チートだからなぁw』

『化けの皮剥がしてやれー!』


 ――チートだからできてるんだよ。


 私だってそう言ってやりたい。

 今日は配信もしてるしそんな事は言えないけど。

 でも、ほら。こうして私の気持ちを代弁するようなコメントが流れているんだもの。

 やっぱり、アレはチートだ。


 さすがに今日はチートの決定的な証拠は手に入れられないけれど、1戦目と2戦目はわざと早く負けて行動パターンを監視。そこでチートらしい行動がなければ、3戦目で徹底的に追い詰める予定だ。

 そうして化けの皮を剥がすために、すでにいくつか(・・・・)のチームにもひっそりと声をかけて協力する約束を取り付けてある。


 もっとも、さすがに『チートを潰そう』とまでは言ってない。

 私はあくまでも『憧れて検証している』という姿勢を取っているのだし、それでコメント欄が沸いていても、それは私の意思ではないと言える。

 ただ、『あのヴェルチェラ・メリシスのスナイパーライフル、接近戦とか乱戦に持ち込んだらどこまでできるのか気になるよね』と。そして、『話題の相手だし、突っ込んでみたら配信映えするかも』と言った、ただそれだけ。


 決して、チーミング――FPSにとってのマナー違反、不正行為として知られている、裏で協力して一つのチームを潰すような真似をしよう、とは言っていない。


 ――そう。それだけで、事足りるんだよ。

 私たちは配信者だし、今話題の相手に対して仕掛けるというのは、それだけでおいしい(・・・・)から。


『やっぱ長距離活かそうとしてるのか、見晴らしのいいタワー取りが多いな』


『タワーってなると限られるし、追い込みやすいかもな』


『その中でも一番戦いになりやすそうなところって言えば……セントラルタワーね』


『だな。1戦目も2戦目も早めにそこに向かってるし、確定だろ』


 ストツーの二人も私と同じ読みだったらしい。




 けれど――――




『あのクソチート女も配信してるし、俺がそっち見ながら場所の指示出すわw』




 ――――ぇ……?




『それ、ゴースティングするってこと?』


 トラストさんのチャットを見て、慌ててチャットを打ち返す。

 ゴースティングっていうのは、配信者の配信動画を見て居場所を特定して狙い撃ちにしたりっていう、明らかなマナー違反だし、OFAでは違反行為とされている行為。

 配信でそんな真似をしたら、炎上どころの騒ぎじゃ済まない。


 確かに私はチーミングを遠回しに焚き付けたりもした。

 その結果としてチーミング行為を促すように仕向けたとは言っても、明らかに『チームを組みましょう』とか『ヴェルチェラ・メリシスをみんなで潰そう』とか、そんな事までは明確に口にしていなかった。


 それを口にしたり明らかにしたら問題になる。

 だから、私はあくまでもそうなるように仕向けはしたけれど、でも明言はしなかった。

 だって、そんな事をしたと知られれば、いずれ誰かから軽々しく暴露されて問題になったりもするかもしれないじゃない。


 マズい事になるかもしれないし、さすがにそれはやめた方がいい――なんて、そうチャットを打とうとしたところで、『Connect』で今回私が声をかけていたメンバーの集まっているサーバーのチャットが動く。


 その内容に、思わず血の気が引いた。


『チーター女の映像見ておくから、セントラルタワー以外のトコに向かったら言うわw 潰そうぜw』


 トラストさんが、堂々とヴェルチェラ・メリシスのゴースティングをすると宣言したのだ。


 ――な……にを、考えて……。


『さすがにヤバくね? ゴースティングとチーミングとかアウトじゃん』


『ダイジョブだっての。相手だってチーターなんだし、それを暴くためなんだからw』


『うけるw』


『チーターだって決まった訳じゃなくね? そんなんしたら俺らがヤバいって』


『ビビってんなよw ダイジョブだってw あんなのできるなんてぜってーチートだからw』


『まあ、プロのトラストさんが言うならガチでチートか』


『は、ウザ。チートかよ。俺も乗るわ』


 ……ちょ、ちょっと待って……!


『卑怯な魔王退治とか、俺ら勇者じゃんw』


『確かにw っしゃー、魔王退治としゃれこむかー!』


『俺はパス。抜けるわ』


『私も抜けるね。周りに言いふらしたりはしないけど、さすがに参加したくない。つか、チートって決まってからならともかく、決まってもないのにそういうのどうかと思うし』


 盛り上がるチャットの中にちらほらと見える、行き過ぎた流れを冷静に見て抜ける人たち。

 なのに、流れはまったく止まらなかった。


『ゴースティングなんて黙ってりゃバレねぇよ』


『勇者じゃないからしゃーなしw トラストさん、監視がんばw』


『盛り上がってきたw』


 ……マズい、マズいマズいマズい……!


 何よ、これ……!

 こんな大々的にやったらどこかから漏れるかもじゃん……!


『ちょっと落ち着いて。さすがにそこまでやったらヤバイ』


 慌ててチャットを打って、この流れを止める。


 フザけんな……!

 普通に考えれば分かるでしょ、どんだけバカなのよ、コイツら……!

 もう何人もサーバーを抜けてるんだから、そこから暴露とかされたらどうすんのよ……!

 今回はもうサーバーを抜けた人達にも見られる可能性がある以上、下手な真似はしない方がいいに決まってる。もしこれでうまくヴェルチェラ・メリシスに一矢報いたとしても、私達が怪我するかもしれないじゃない……!




 呆れと怒り、それに焦りといったものを抱えながらチャットを打って今回は延期、手を出さないようにと釘を差そうとしたところで――――




『いやいやいやw 言い出しっぺカルゴちゃんじゃんw チーミングの発起人じゃんw』




 ――――流れてきたチャットに、思わず固まった。




『俺らを誘導してたのだって、バレたらマズいからっしょ?』


『さすがに気付いてたけどなー。堂々とチーミングしてる訳じゃないし、偶然って言える範囲ならお祭りっぽい感じでいいかなって思ってたけどさ』


『まあ、カルゴちゃん魔王ちゃん気に喰わないんだろうなとは思ってたよw 検証とか練習とか言ってんけど、ちょいちょいそういう雰囲気あったしね、キミの配信』




 ――な、にが……。




『ま、カルゴちゃんもチートだって疑ってたんでしょ? トラストさんが言うようにチートが相手なんだから別にいいじゃん』


『そそ。むしろVのイメージが悪くなるかもだし。だから早めに処しておきたいのは確か』


『分かるわー。俺らだって真面目にやってんのにさー』




 ――……止まら、ない。




『ま、お祭りみたいなもんじゃんw 楽しもうよw』


『だなー、打倒魔王でさw』


『JK泣かせちまうかーw』


『ヘンタイくさいな、それw』




 勢いを増したソレ(・・)を前に、私は何も言えずに固まった。


 ――……そう、だよ、ね……?

 私は……悪くない。

 そうだ、ヴェルチェラ・メリシスがチートなんて使って調子に乗ったからこうなるんだ。


 私は……悪くない……。

 だって、私達は正しい事をしようとしているんだから……!


 そんな風に自分に言い聞かせている内に、ついに3戦目が始まった。

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