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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
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検証と推測

 夕飯を食べ終えてリビングでダラダラ。

 お母さんがいる日は、夕飯後は少しゆっくりとした時間をリビングで過ごすっていうのが、私が小さい頃から続けている夜の過ごし方だ。


 お母さんは女優。

 台本を頭に叩き入れたり、役作りをしなきゃいけなかったり、何かと忙しい。

 それなのに食後は短くても一時間ぐらいはこういう時間を作っているのは、多分、私が寂しいと思わないように配慮してくれているのだろう。


 女手一つで私を育て、極力家事だって自分が家にいる時は積極的に行ってくれる。

 忙しいんだから無理しなくていいし、ご飯だって出前でもなんでもいいのに、なんて以前までの私は他人事のように思っていたりもしたけれど。


 前世の記憶を取り戻した今の私には分かる。


 お母さんは、『家族』の温かさみたいなものを私に与えようとしてくれているのだろう。

 仕事の関係で普段は長期ロケとかで家を出てしまう事もあるからこそ、家にいる時ぐらいは私の母であろうとしてくれているのだろう、と。


 レイネがウチに住み込みで働くようになってから、ご飯や家事はレイネが全てやってくれているけれど、それでもお母さんは私のために一品作ってくれるらしい。

 レイネはそんなお母さんの気持ちを汲んでいるのか、それとも私の母という存在が相手だからか、あるいはそのどっちも関係しているのか素直にお母さんの申し出を受け入れている。


 ……母親、か。


 前世では家族どころか家庭すら持たず、そもそも恋愛すら必要としなかった私には実感は伴わないけれど、親という存在が子を守ろうとする時に見せる強さ、温かさというものは部下からも時折垣間見えた。


 ……凄いな、と改めて思う。

 魔法すらないこの世界で、仕事で疲れながらもこうして親として振る舞えるなんて。

 この世界で生まれ育ち、人間の力のみで生きてきたからこそ尚更にそう思う。


「ええぇぇぇ……、もう行っちゃうのぉ……?」


 リビングを出て自室に戻るべく、腰掛けていたL字ソファーから立ち上がろうとした私の腰に抱きついて駄々をこねるように見上げてきた。


 ……母としての在り方だの家族の温かさをだの。

 なんかちょっと改めて感動して、尊敬すらしていた相手がこの有様である。

 もしかして私が一方的に解釈で評価を高めただけで、実はただお母さんが私に構いたかった、とか。


 ……そんなことないよね、多分。きっと。


「うん、作業とか色々したいからね」


「宿題とか~?」


「宿題なんてもう終わってるよ。そうじゃなくて、配信の準備とか前もって進められるものは進めておきたいから。それに、今度の大会の練習もね」


「あらあら、大変ねぇ~……。頑張ってね、凛音ちゃん。お母さん、応援してるわね~」


「うん、ありがとう」


 ………………。


「……お母さん? 抱きついたままいられると立てないんだけど?」


「んふふふ~、立ち上がりたければ私を倒していくがいい~」


「ふむ……」


 夕飯の時に飲んでいた赤ワインがそれなりに回っているのか、にこにこと抱きついたままきゃっきゃと笑い声をあげつつ、ぐりぐりと頭を私のお腹に押し当ててくる。


 お母さん、化粧を落としてると顔が幼くなるタイプで、すっぴんになると少し幼く――というか、ユズ姉さんよりも子供っぽい顔になるせいで、二十代中盤、その一歩手前ぐらいに見えるんだよね。

 そんなお母さんが無邪気に笑ってそんな事をしているものだから、なんだか微笑ましい。


 ともあれ、私も配信の準備や大会に向けての下調べだったり、やりたい事はある。

 なので、ぐっと力を込めて――いるようなフリをして――から、お母さんに逆に覆い被さるような体勢になりつつ腕を背中と膝に回し、そのままぐっと抱き上げる。


 いわゆるお姫様抱っこ状態である。


「あ……、あらぁ~……?」


「――お戯れはここまでだよ、お嬢さん」


「ふぇあっ!?」


 配信で使おうと思っていたちょっとした小ネタ――イケボ風の囁きと、男が見せるような微笑みを意識して表情を少し意識しつつ目を細めながら口角をつり上げてみせる。

 すっかり私から剥がされたお母さんが変な声を漏らしていたし、どこからそんな声を出したんだかと思って見ていれば、なんだか目を丸くしていて顔が赤い。


 ははぁん、これ酔ってるね?

 もともとお母さんはお酒に強くないしね。


「ずいぶんと顔を赤くしているようだね?」


「はぇっ!? え、っと、その……!?」


「レイネ」


「はい」


「こちらの御令嬢を、寝室に連れて行ってあげてもらえるかい?」


「畏まりました」


「ぁ……」


 近くに寄っていたレイネにイケボ風な声と喋り方を維持したまま声をかけてお母さんを預けると、レイネもあっさりと、まるで重さを感じていないかのようにお母さんを持ち上げた。


 お母さん、なんか私からレイネに手渡した時、少し名残惜しそうな声出してたみたいだけれど……私がさっさと自室に戻るって事に気がついたんだろうね。

 フ、いまさら気が付いてももう遅い、というヤツだね。


「少し酔っているようだから、ゆっくりお休み」


 微笑んでイケボ風な挨拶をしてみたら、お母さんはなんだか妙に顔を赤くしたままこくりと小さく頷いて、レイネに運ばれてリビングを出ていった。


「……酔っているのは、凛音お嬢様のソレ(・・)のせいかと思いますが」


「……すごいはかいりょくだったわ……」


 なんだかレイネとお母さんが会話しているようだったけれど、その声が何を言っているのかまではテレビを消してコップを片付けている私の耳には届かなかった。






 自室に戻り、まずはOFAを起動。

 プラクティスモードという、一人でマップを探索できるモードで戦闘マップの中を確認して歩いていく。


 どこならば視界を確保できるか。

 どこから狙えて、どこを狙えるか。

 曲がり角はどこか。


 そして何より、跳弾は見た目通り(・・・・・)に飛ぶか。


 OFAの地形は跳弾をある程度は見た目の傾斜通りに弾いてくれるけれど、それがほんの1センチでもズレるとあらぬ方向に弾かれる、なんて事も珍しくはない。

 実際、現実で考えたら多少の凹凸や回転、加わる力なんかはもちろん、風向きや天候なんかも含めた様々な要因で弾かれる方向なんてものはいくらでも変わるものだろうけれど、OFAの場合は現実に比べれば割とその辺りは緩い。


 とは言え、いや、だからこそかな。

 ぱっと見ただけだと跳弾が期待通りに飛んでくれない、なんていうケースも充分に有り得る。

 実際、撃ってみたら予測していた方向とはまったく違うところに飛ぶなんて事も珍しくはないし。


 いくら元魔王だからって、それらを一見して全て見抜くなんて芸当はできない。

 データはプレイヤー目線では見た目上は似ていても違いが分からなかったりするから。


 だから、調べて回る必要がある。

 狙いやすい位置が多い場所、少ない場所もしっかりと把握して、戦闘中にその位置へと移動する事も考えるとマップの理解度というものがかなり要求される。

 調査不足だったせいであっさりと距離を詰められてしまったり、逃げる場所を一見して判断したら行き止まりだった、なんて事もあったしね。


 撃って、移動して、撃って、微調整して、撃って。

 ただただ延々と、機械のように繰り返して情報を収集しては調整していく、を繰り返す。

 こんな姿を配信でやったら、私の導き出した跳弾ポイントを真似されるだけならともかく、面白くはないだろうなぁ、なんて頭の片隅で考えながら。


「――ふぅ」


 今日覚えたマップは1つだけ。

 これだけでも3時間という時間を要しているみたいだけど、さて、これが早いのやら遅いのやら。


 なんとなく肩が凝ったような気がして椅子の背もたれに体を預けて伸びをしつつ、別モニターに表示していた『Connect』にちらりと目を向ければ、ユズ姉さんに投げかけていた質問の返事が届いていた。


 返事が遅れた事の謝罪から入っていたその文面は、要約すると『個人勢のVtuberに対しても珍しい依頼』だそうだ。

 というより、企業勢でもない限りは基本的にオンラインでやり取りして動画を撮影し、それを先方に送ってチェックしてもらう、というのが主流であるらしい。

 生配信でプロモーションするような案件であれば入念な打ち合わせだったりも必要になるけれど、私の場合は『撮影させてほしい』という動画を使う事が前提のような言い回しだったし、だったら尚更、わざわざ顔を合わせる必要はないはず、だそうだ。


 もっとも、ユズ姉さんもそれはあくまでも推測の域を脱しないものであるらしいし、撮影の方法なんかも特殊なものを想定しているのかもしれない以上、なんとも言えないみたいだね。


 真剣な推測と、その続きには『できれば断った方がいいと思うわ。あなたは未成年なのだし、どうしても企業案件に乗っかりたいという訳じゃないでしょう?』というアドバイスで締めくくられていた。


 うん、それはそうなんだよね。

 実際、私は別にそういうのに乗っかって有名になりたいとか思ってないし。

 となると、断る方向で良さそうだね。


 そう思いつつ返事を打ち込もうとしていると、ユズ姉さんが追加でチャットを飛ばしてきた。


 ――『ただ……。そうね、凛音ちゃんって『江籠(エゴ) カルゴ』ってVtuber知ってる?』。


「なにそれ、エスカルゴなら聞いた事あるけど」


 聞いた事もないVtuberの名前を訊ね返すチャットを送りつつ私は私でその江籠カルゴというVtuberのチャンネルを調べてみて――その動画を見て苦笑する。

 そんな私の苦笑とほぼ同時に、『Connect』でユズ姉さんから連絡が届いた。


『黙っていてもいつか耳にするかもしれないから、先に教えておくわね。暴露系のVtuberなんだけど、OFAが上手いってそれなりに名前が売れてきている個人勢なんだけれど、今度の『OFA VtuberCUP』にも参戦するんだけど……、どうも、凛音ちゃんを疑ってるような発言をしたり、色々やってるみたいなのよ』


 ――なるほどね。

 道理で最新の動画が『話題の魔王サマの跳弾を真似て検証しよう!』なんて動画であるらしい。

 コメントを見ればやっぱりチートだ、みたいにも色々書かれているみたいだ。


『あなたの配信でOFAの運営がチャットでチートを否定したでしょう? だから、もしかしたらOFAの運営もそれを立証したい、なんて考えているのかもしれないわね』


「え、なにそれめんどくさ……」


 要するに、私は運営と暴露だかゴシップだかとの戦いに巻き込まれつつあるって事だろう。

 そんな裏事情が見えてきたせいか、ついつい私の口から本音が漏れたのであった。

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