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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
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言霊

「――とまあ、そんな訳で、じゃ。そろそろ一時間になるしの。今日はレイネのお披露目がメインじゃったから、これで終わりじゃ」


『えぇーっ』

『クールメイドさん助かる』

『エフィール・ルオネット〆:ねー、コラボーっ!』

『エフィ、まだ言ってるんかw』


「コラボについては、まあここで話すような事でもあるまい。時間がある時にでも相談という事で……――良いな、エフィ?」


『エフィール・ルオネット〆:ア、ハイ』

『ひぇっ』

『何今の、ちょっと寒気した』

『魔王の威圧って、コトォ!?』


 いや、そんな騒ぐ程に力を込めてないんだけどね。

 配信越しの声から威圧を感じ取れるって事は相当感受性が高いって事でもあるから、別に悪い事ではない。

 むしろ今の程度で感じ取れたって事は、それは魔力の知覚能力が発達しやすい素養もあるって事だし……ふむ、この世界の人間に魔法を教えたら使えるようになったりするのかな?


 まあ、何も感じなかった人たちはコメントが大袈裟だのなんだのと言っているみたいだし、人それぞれ差が結構ありそうな印象だけどね。

 教えるとしても素養があって口が硬い人じゃないと面倒事に発展しそうだし、実験はやめておこう。


「ともかく、今日はこれで終わりじゃからな。今後は妾か、妾とレイネの二人で配信という形になるのでな。レイネも忙しい身じゃからな、毎回とは言わぬが」


『クールメイドさんのソロ配信も期待』

『はーい』

『おう、諦めろ。さっきバッサリいかれただろうが』

『アーカイブ見てこい』


 予定外の波乱――エフィ、リオ、スーの三人によるコラボ宣言――のせいで盛り上がってしまったレイネのデビュー配信。

 ともあれ視聴者の反応もなかなかに掴みは良く、また毒舌クールメイドキャラという方向で妙なファン層を築き上げつつある。


 けれど、コメントでも何人かが言う通り、レイネはソロ配信する気が一切ないと断言したんだよね。


 ――「陛下のお世話をするのが私の仕事です。故に、私一人で陛下のお傍を離れ、配信する必要性は一切感じられませんので」なんて、あっさり言い放っちゃったのだ。


 だからレイネは私の配信のレギュラーメンバーというか、まあそんな扱いになるんだけどね。

 それでも視聴者の多くはそれを納得しつつもレイネにソロ配信もしてみてもらいたいという声もなかなか多い。


「まあ、レイネに何かゲームをやらせてみて妾がそれを実況するとかも面白そうじゃの。特にホラーとか」


『さすがでございます、陛下!』

『一生ついていきます陛下!』

『忠誠安すぎんだろw まあ俺もついていきますけどね、陛下!』

『陛下もレイネちゃんも、ホラーとかどうなの?』


「ふむ、妾とレイネのホラー耐性は……まあ配信の時のお楽しみじゃな。という訳で、今日の配信はここまでじゃ。ではな」


『せめて、せめてちょっとだけ情報を……!』

『実はめちゃくちゃ怖がりだったり』

『普通に爆笑したり?w』

『今日も楽しかったです!』


 エンディングの画面に切り替えてからも、どうもコメントは結構な盛り上がりを見せているらしい。

 特に私とレイネのホラー耐性に関するコメントなんかも多いみたいだけど……まあ、うん。

 魔王と竜種の魔人にホラーが通用するのかと言えば、するはずがないんだよね。


 むしろ視聴者がホラーな現象に襲われる可能性があるんだよね。

 特に一時期に比べれば随分と減ったけれど、未だにしつこく私に対するアンチコメントを投げている視聴者あたりが。


「……陛下、許可を」


「ダメ」


 そう、これだよ。

 というのもさっきからレイネが私に対するアンチコメントを見る度に魔力を練り上げていて、それを私が配信で喋りながらいちいち潰していたりする。


 レイネ、私に対するアンチコメントに遠隔で呪いとか発動させようとしてるんだよ……。


 死に至らない程度だけど、毎朝起きたら枕にかなり多めの抜け毛がついたり、机の角に足の小指をぶつけたり、外出中に急激に催す(・・)とか、そういう小さな呪いを一気にぶつけたりぐらいはできる。


 実際、それは私もやろうと思えばやれるけど、レイネみたいにそういう力(・・・・・)を操る方向に特化している種族に比べると酷く大雑把になっちゃうんだよね。


 見つける方法は、俗に言う言霊と呼ばれるようなものを利用した逆探知みたいなもの。

 この世界の人間はそういうものを軽視している傾向にあるけれど、パソコンやスマホなんかによって打ち出された言葉であったとしても、そこに『意思』が乗っている以上、『力』となってそれは相手に届く。


 だからこそ、私やレイネはそれを逆に追いかけるぐらいはできちゃうんだよ。

 さすがに私はやらないけど。

 ちょっと呪おうと思ったら内側からドカン、なんて事になりかねないし。


 レイネの前世の種族である闇竜魔人。

 彼女たちの種族は呪いで死の大地を生み出したりもできちゃうような類だからね。

 おかげで神々、特に豊穣神あたりから毛嫌いされてるんだよね。

 まあ、レイネも私の一件があったから神々を毛嫌いしてるけど。


「いちいち気にしないの。放っておけばそのうち諦めるだろうしね」


「ですが……」


「まあ、我慢のし過ぎは良くないけどね。酷いものがあればやっていいけど、あまりやり過ぎると私達の配信を見ている人が次々に、みたいに騒がれるようになるかもしれないから、使い所はしっかり見極めるようにね」


「……かしこまりました」


 さすがに手当たり次第やられたら、まあ私達の配信のせいでなんて話が出てきたりもするかもしれないからね。

 今度はそれを使って無駄に騒動を大きくしようとするような者まで出てくるだろうし。


 だったら全部我慢すればって話なんだけど……まあ、しないよね。

 だって私もレイネも聖人でも神でもないし。

 バレない程度には仕返しさせてもらえばいいよ。


「それより、コラボどうしようかなぁ」


「凛音お嬢様のご命令であれば参加いたしますが」


「うーん、微妙なところだよねぇ」


 エフィやリオ、スーにとってみれば、『OFA VtuberCUP』のチームメンバーである私に絡んでいくっていうのは、配信的においしいネタだとも言える。まして、個人勢なのに箱みたいになるってなると話題性もそれなりにはあるんだと思うし。


 ただ……私はともかく、レイネが下手な事を言うと、ジェムプロ過激派みたいなファンがレイネに文句を言ったりしそうなんだよね。


 ……ダメだね、本当にそうなる予感しかしない。

 せめてレイネの言動が『そういうキャラ』として受け入れられる程度になるまでは無理だね。


「ま、しばらくは断るよ。『OFA VtuberCUP』まで一ヶ月あるし、それが落ち着くまでは時間もあまり取れないしね」


 私たちの参加する『OFA VtuberCUP』の日程はゴールデンウィークだからね。

 春休みはなんだかんだでレイネのモデル作ったりOFAの練習したりって慌ただしく過ぎちゃったけど、学校が始まったら配信頻度だって当然少しは落ちちゃうし。


「そうですか」


「それに、二人で配信して遊びたいからね」


「……んん、そ、そうですね……」


 レイネが少し気恥ずかしそうに返事をする姿を見て、ついつい頬が緩む。

 努めてバレないようにしているつもりかもしれないけれど、まあレイネの普段の受け答えとは全然違うから、かえって分かりやすいんだよね。

 さすがにからかい過ぎるとへそを曲げてしまうだろうし、敢えて指摘はしないけど。


「そういえばレイネ。私、明日から学校なんだけど、私が学校行ってる間に出掛けたりできるように鍵とか預かってる?」


「はい、紅葉様より預かっております」


「そっか。まあレイネの事だから家事とかするんだろうけど、適当に休んでいいからね。何かあったら連絡するから」


「かしこまりました」


 あっという間に春休みが終わりになっちゃったけど、なんだかんだで充実していたね。

 ……外に出たのがレイネと身体をほぐす為の手合わせ用に生み出した異空間だけっていうあたり、華のJKにしてはあまりにも寂しいものがあるけど。


「それにしても、本当によろしかったのですか?」


「何がー?」


「この世界では転移魔法もおいそれと使えませんし、空も飛べません。学校まで送迎するために車ぐらいはご用意するのも吝かではありませんでしたが……」


「いやいや、いらないよ。いざとなったら転移すればいいだけだし、そもそもそんなに遠く離れてないのに、無駄だよ。お金もったいない」


 まだ言うか、と思わずにはいられなかった。

 レイネってば、私を送迎するためだけに車を買おうとしてたんだよね、この前。

 しかもお母さんにお金を出してもらうとかじゃなくて、なんとなくやんごとなき身分にあるらしい実家のお金で。


 もっとも、そのお金っていうのもレイネのおかげで稼げるようになったお金らしいから、自由に使っていいとされているものらしいんだけど。

 いくらぐらい持ってるのかなんて聞けるはずもないけれど、「家を建てるぐらいならすぐにでも」とか言ってたから多分凄い事になってる。


 そんなレイネの事だから私の通学――なお、車だったら多分だけど三分ぐらいで着く距離――の為だけに、無駄に高級車とか買いそう。


 どう考えても無駄でしかない。

 お母さんだって、事務所の運転手が送迎してくれるから自家用車なんていらないし。


 私とレイネで出かける時だけ使う?

 うん、ないね。

 芸能人の娘って事とかが知られてるようならまだおかしなファンとか誘拐とかも気をつけたりもしたかもしれないけれど、私の顔は表に出てない。

 そもそも記憶を取り戻すまでは黒髪ウィッグで猫背とかだったから、今の私と前までの私でさえぱっと見て同一人物とは思えないぐらいだろうしね。


 それに、そもそも今の私を人間がどうにかできるはずもないからね。

 この世界にそんな力を持った人間がいるなら見てみたいけど、そういう存在はいるのかな?

 幽霊とかそれっぽいのにすら逃げられちゃってるせいで、まだ人外の存在なんて見た事もないしなぁ。


「さて、凛音お嬢様。そろそろ就寝のお時間です」


「あ、うん。そうだね。明日は久しぶりに学校だから早起きしなきゃね」


「はい。しっかり起こしますので、ご安心を」


「ん、期待してる。……一緒に寝る?」


「……からかってくるだろうなとは想像していましたので、その手には乗りませんよ」


「むぅ……、つまらん」


 ついついにやりと口角をつり上げてしまったせいで、私がからかおうとしている事に気が付かれてしまったらしい。

 事前に構えられてるとさすがに効果はないんだね、残念。


 前世の頃に比べてレイネの表情の変化は幾分かは豊かになった――常人に比べればほぼ動いていないように見えるらしいので当社比ならぬ私比――から、そういう表情はなるべく見たいんだけど、そう簡単には見せてくれないなぁ。


「それじゃあ、おやすみ」


「はい、おやすみなさいませ」


 ベッドに私が横たわったのを見届けて、レイネが部屋の電気を消してそっと退室していった。

 明日からは学校だし、久しぶりにユイカとかトモとか、あとこのみんと会う事になる。


 柄にもなく学校が少し楽しみなような、そんな気持ちを胸にしながら私はゆっくりと眠りの中に意識を落としていった。

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