【配信】作業雑談
お母さんと風見さんを驚愕させ、真のメイドというものを見せつけたレイネのお世話ぶりは、風見さんが帰った後も度々お母さんを驚かせ、同時に完璧にお世話される徹底ぶりに困惑さえさせていた。
お母さんは長期ロケで疲れていた事もあって、夕方には夕飯代わりに軽食を軽く食べてそのまま眠ってしまった。
となると、私としては暇だったりする。
うーん、レイネのモデルを作ろうと思ってたんだけど、そっちは今は進捗もかなり余裕を持って進められてるから焦る程ではないし。
そんな訳で、本当は今日は配信予定ではなかったのだけれど、レイネのモデルを作る作業配信を突発で行う事にした。
「唯一無二の魔界の女王、魔王ヴェルチェラ・メリシスじゃ。突発配信じゃと言うに、よくぞ来たな、我が臣下ども」
『ははーっ』
『でも珍しいね、突発配信』
『モノロジー見てて良かった』
『作業配信?』
「うむ。今日はレイネのモデル作りの作業を行いながら雑談というところじゃな。さすがにこの辺りの作業までは見せる事はできんからの。貴様らにとってみれば雑談配信のようなものじゃな。適当にコメントから質問を拾って答えていくつもりじゃ」
『モデル作りしながら拾うってこと……?』
『マルチタスクじゃないと絶対できないような気がする』
『そう考えるとスゲーよな、配信者って』
『配信者の必須スキルな気がする』
「そも、黙々と作業する必要があるものなら配信せんであろう?」
『それはそうw』
『確かにw』
『黙々と作業されるだけとか、さすがに見ないなぁ……w』
『芸術品とか作ってるならワンチャン見るかもだけどw』
見ていて楽しいものなら見るかもしれないけど、まぁ配信に向いてるかって言われたら確かに向いてはいないだろうね。
さて、なんで今回私が画面表示しながら描くような作業でもないのに配信する事にしたのかと言うと、実は私が『OFA VtuberCUP』にジェムプロチームとして参加する事に、わざわざジェムプロにクレームを入れている連中が一定数いるらしい事を小耳に挟んだんだよね。
今度の『OFA VtuberCUP』でエフィ、リオ、スーの三人と組む事になっている私が、チャンネル登録者数は個人勢にしては非常に多いものの、これまでの動画配信本数が少ないっていう状況である事からも「やる気がないVを出すな」みたいによく分からないクレームというか言いがかりというか、まあそんな声がジェムプロに届いていたりもするらしい。
私を選んだのはエフィだし、ジェムプロもそれを容認している。
なので私がそれに対して配慮する必要があるかと言われれば、そんな事は一切ないっていうのが現実的なところ。
でも、やっぱり面白くはないからね。
「今日の作業はパーツ作成じゃな。この辺りは実際にレイネがお披露目するまでは見せる訳にもいかぬし、見れるとしたら完成してからの話じゃな」
『おー、楽しみ』
『マジで箱になれるのかw』
『メイドさんチャンネル作るの?』
『同じ箱だからチャンネルは分けないの?』
「基本的にレイネは妾と一緒でないと配信する事はないじゃろうし、独立して配信するというのはなかなかに望み薄であろうよ」
『望み薄?』
『陛下大好きかよw』
『画面外てぇてぇ』
『メイドなら人気出そうなのに』
「妾が配信しておらん時間というと、レイネは妾の世話をしておるからの。学校に行ったり個人的な用事で出掛けない限り、常にレイネはメイドとしての仕事に励んでおるという訳じゃ」
『え、勤務時間とかないん?w』
『さすが魔王軍、ブラック企業w』
『労基に通報案件だがw』
『え、本当にメイドなの?w』
確かに現代日本でそんな暮らしをしていたら色々問題にもなるだろうね。
ただなぁ……。
レイネに「就業時間以外仕事禁止」なんて言おうものなら、自分はいらなくなったのかなんて思いかねて問題になりかねないし……。
うん、そこは触れないでおこう。
「なんじゃ、レイネはメイド兼侍女だと言うておろうに。もっとも、この世界に来て妾は公務と言える公務に追われておらんからの。貴様ら風に言えば住み込みの家政婦とでも言ったところかの?」
『つまり本物……?』
『メイドってことは、陛下は本物のお嬢様JKって、コトォ!?』
『JKかどうかの真偽も自称でしかないがw』
『でも未成年ってのは確定っぽい。エフィがあと数年一緒に飲めないって愚痴ってた。何年とは言ってなかったけど』
「……エフィめ。もし正確に年数を言っておったらネットリテラシーの勉強を叩き込んでやろう」
『エフィール・ルオネット〆:大丈夫! マネちゃんから口を酸っぱく言われてる!』
『本人おって草』
『エフィもようみとる』
『まあ大手事務所だし、そこら辺は徹底してるでしょw』
「……エフィよ、あと数十分で配信あるのになんでおるんじゃ……?」
『それはそうw』
『同じ箱ならともかくw』
『ジェムプロは今は配信してないね。まだ早い時間だし』
『初見です。ジェムプロの魔王さんと聞いて来ました』
「何度かコメントしておるクセに初見詐欺するでない。貴様の名、見覚えがあるぞ」
『把握されてて草』
『初見詐欺あるあるw』
『覚えてるんかいw』
『まあ実際、ジェムプロの一員として見られてそうな気配はあるw』
「……うむ、実際本当にジェムプロのVだと間違われておるケースもあるんじゃよなぁ」
最近、本当に私をジェムプロの人だと思ってるっぽい人がいるらしいからね。
ユズ姉さんはともかく、エフィとかリオとかスーとかの視聴者から流れてきた人なんかが多いし。
ジェムプロだけじゃなくて箱に入る気が最初からないんだけどね。
『獅子歌 リオン〆:早くウチにこいよー!』
『リオちもようみとる』
『雪瑪 スノウ〆:ん、大歓迎』
『スーちゃんまでいるとか、もはやジェムプロのVなみによう見られとるやんけw』
「……リオ、スーもおるようじゃが……なんでこうなったんじゃろうなぁ……」
『普通なら喜ぶとこw』
『さすがにその反応は草』
『※注意※陛下は個人Vですw』
『この配信はジェムプロの溜まり場w』
ユズ姉さん曰く、積極的に私と交流とコラボをしていく事で親しいアピールをしていくというのがジェムプロの方針らしくて、配信外での練習だけじゃなくて配信でも練習だったり他のゲームコラボなんかもしないかとは言われてるけど……わざわざ私の配信にまでご丁寧に来なくていいのでは?
というか、せめてサブ垢とかにすればいいのに……。
『作業は順調?』
「うむ。元々レイネは表情があまり変わらぬのでな。パーツもかなり少なかったりするんじゃよ。なので、大量にかき分ける必要もないんじゃが……とは言え、僅かな差を表現できるようにはしておきたいのでな。『分かりやすいバリエーション』が少ない分、僅かな変化をつけて調整する予定じゃ」
『なるほどなー(わからん)』
『夏蜜柑〆:あー、そっか。そういうキャラだとそれができるんだ……』
『エフィママもおるんかw』
『本物の絵師さんにアイデアを与えてるん?w』
「アイデア、という程ではなかろうよ。そもそもVの業界で表情のバリエーションはあった方が分かりやすいからの。真顔、怒り顔、泣き顔、驚愕した顔など、パーツを変えて喜怒哀楽をつける事でより人間らしくというか、表情を豊かにしていくものじゃ。しかし、表情の変化が乏しいキャラクターである場合、それらのバリエーションが使いにくいからの。とかく表情というのは大別すれば喜怒哀楽じゃが、その中でも『喜』だけでも優しい微笑みもあれば呆れたような苦笑など、色々異なるであろう? 故に、レイネの場合は変える分類を喜怒哀楽の大分類で分けるではなく、無表情というカテゴリーの中の分類で分ける、とでも言うべきかの」
『なるほどなー(どういうことだってばよ)』
『夏蜜柑〆:微妙な描き分けで表現するって難しいよね……』
『確かに難しそう』
『ほんそれ。めっちゃ難しそう』
「レイネの顔は数百年と見てきたからの。特に難しいとは思わんよ」
『てぇてぇ』
『自然とそういうセリフが出るあたり、設定がしっかりしてるよなぁw』
『某エルフの某姫なんて、姫感がどっか行ってるからなぁ』
『エフィール・ルオネット〆:どこの誰だろうね?^^』
いや、設定というか事実だけどね。
まあ人間から見れば現実味はないだろうし、設定と思ってくれればいいけども。
というかエフィ、人の配信のコメントで視聴者とプロレスしないでもらえる?