エピローグ
「――へぇ、じゃあ東條の父親が関係する会社の……」
このみんが泣き止んでから、このみんがどうして東條を毛嫌いしているような素振りを見せていたのに従って私を呼んだのかという話になった。
どうも事情を聞いてみると、東條の父親――県議会議員でもかなりお偉いさんだったらしい――の影響力を受ける会社の社長令嬢であるらしく、どうしても東條には強く出られないという立場だったみたいだ。
「じゃあもう心配いらないじゃん」
「んぇ? なんで?」
「……リンネ、ニュースとか見てないの?」
「うん、見てないね。どこの芸能人が熱愛だの結婚だの離婚だの、公人でもない人のプライバシーをこれ見よがしに面白おかしくしている報道ばっかなんだもん。ああいうの見るの好きじゃないんだよね」
私の場合はお母さんが正にその対象にされてるから、っていうのもあるけどね。
まるで実際にあったかのように切り取って報道されたりしたのを見た事あるし、幼心ながらにお母さんを酷く言う人達っていうイメージがあったりもしたから。
「あ、それは分かるかも」
「いや、リンネもユイカもそれは分かるけどさ。そうじゃなくて、東條の父親、犯罪に関与していたとかで大々的に報道されてたんだけど知らないの? 辞職どころか除名処分になった、みたいなニュースとか流れてるよ?」
「へー」
そうなんだ。
あぁ、だから引越し業者がどうのこうのって言ってたのかな。
色々と世間様に顔向けできない立場になっちゃったりしたんだろうね、きっと。
東條にも洗脳と呪いがかけてある。
洗脳の効果は、『周りには言えない隠し事を洗い浚い吐く』というものだからね。
当然犯罪じゃなくても恥ずかしい秘密、他人には言えない性へ……ゲフン、特殊な趣味とかそういうのも含まれるけど。
うん、ノーマルだったら大した事ないよ、多分。知らないけど。
まあそんな洗脳のせいで、自分がこれまでやってきた悪事を父親に協力してもらってもみ消してきたのか、それとも父親の犯罪を東條が知っていて、警察に自供したりしたのかな。
「……で、リンネ? 何か言うことは?」
「良心の呵責に耐えられなくなったのかもね」
「……はあ。はいはい、そういう事にしておけってことね」
「なになに? トモ、どういう意味?」
「ううん、なんでもー」
……うん、まあトモはもう気が付いてるっぽいね。
私の特異性というか、魔力は分からなくても人間らしからぬ力を持った存在だって事に。
怖がられたり面白おかしく騒がれないっていうなら知られても構わないし、ユイカにも教えてあげてもいいんだけど、自分から「私、実は魔力が使えるんだ」とか言うつもりはないけどさ。中二病扱いされそうだし。
ちなみにこのみんは今になって泣きじゃくっていたのが恥ずかしくなっているのか、耳まで真っ赤にして私たちの横で顔を見られないように椅子の上で膝を抱えながら顔を埋めてる。
ちんまりしてて可愛い。
「ねぇ、このみん」
「……何よ。っていうかなんでアンタまで愛称で呼ぶのよ……」
「いいじゃん。ウチの事もトモって呼んでよ。で、このみんさ、ウチらと友達って事でおけ?」
「……ぇ?」
「あ、トモだけズルい。アタシもユイカって呼んでよ、相澤さんとか堅苦しいし。だからこのみんって呼ばせてね」
「……ぇ、ぁ、その……。な、なんで……?」
トモに友達宣言されて顔をあげたこのみんが、顔を赤くしてあわあわしてる。
言動はキツく見えるけど悪い子って感じじゃないんだよね、このみん。
ツンデレ感あるけど、このみんの場合はツンデレ感の失礼さというか、罵倒とか暴力とかもないからツンが強すぎなくて面倒くさくなるようなタイプじゃないし、何より素の良さみたいなのがあっさり見えて可愛いしね。
いいぞ、もっと可愛がってあわあわさせるんだ、コミュ力つよつよペアよ。
「このみんさぁ、東條がいなくなってから明らかに周りから距離置かれてんじゃん。だったらウチらと一緒いなよ」
「そーそー、絶対その方がいいよー」
「……ぃ、いい、の……?」
「バッチこーい。このみん可愛いし」
「うんうん、このみん可愛い。……ツンデレ似合うし、やっぱツンデレはロリに限る」
ユイカ、それぼそっと言ってるけど私にはバッチリ聞こえてるからね?
意外とサブカル方面にも強かったりするんだね、知らなかったよ。
「リンネも問題ないでしょ?」
「大丈夫だ、問題ない」
「ぶふっ!? げっほ、げほ……っ!」
「ちょっ、ユイカ?」
「だ、大丈夫……?」
あ、ユイカにはしっかり通じた。
トモとこのみんがいきなり噴き出したユイカに驚いて声をかけて何事かと聞いてるけど、うん、放っておいてあげていいんじゃないかな。
苦しそうに涙目になりながらこちらを見てきたので、軽く頷いておいた。
同好の士という事が分かりあった瞬間だね。
「あ、そうだ。私明日から用事あるから春休みにするんだけど、三人は?」
「今日でノルマ終了だからウチも休もかな」
「アタシはトモに付き合ってただけだから、もうノルマ終わってるー」
「ありがとうごぜぇます~~」
「よきにはからえー」
「何してるのよ……。えっと、アタシも謝りたかっただけだし、休めるわ」
「そっか、じゃあみんな明日から春休みだね」
「まあ、ウチらは長期休みはレッスン漬けでやる事多くて、むしろ学校ある方が平和だったりするけど……」
「だね……」
トモとユイカはアイドルの卵みたいな感じらしいし、まあそうだろうね。
私もこの春休みは二人みたいになんだかんだでやらなきゃいけない事も多いから、ちょっと同感。
「このみんは?」
「似たようなものね。パパとママに付き合って色々出掛けたりもしなきゃいけないし」
「そっか。じゃあ次に会うのは二年になってからだね」
「アタシらもまた同じクラスになるといいねー」
「え?」
「え? なに?」
「……ユイカ、クラス変更申請出したの?」
「んぇ? なにそれ?」
「……相澤さん……じゃなかった、ユイカ。この学校、クラス変更申請を出さない限りクラスは一緒よ?」
「え? そうなの?」
「ついでに担任も変わらないね」
「えぇっ、そうなの!?」
ウチの学校は前にも言ったけれど、お金持ちのお家や芸能関係者が通う学校だからね。
いちいち毎年クラス替えなんてしていたら、ただでさえ仕事もあって休みがちな生徒とかはどんどん孤立してしまうし、担任にいちいち事情を説明したりとかえって手間が増えちゃうんだよね。
そういう理由から、クラスの空気が合わない、馴染めないとかの理由で変更申請を出さない限り、三年間ずっと一緒なんだけど……ユイカ、知らなかったんだ。
「……あぁっ!?」
「え、何?」
「あ、アタシ、職員室行ってくる! 居心地悪いからこの前クラス変更申請出しちゃった! 取り消してもらうように言ってくる!」
「あーらら。んじゃウチらも付き合うよ」
「だねー。いくら春で暖かくなったとは言っても、ちょっと肌寒いし」
「うん、そうだね」
いや、私は寒くないけどね、魔力あるし。
まあ言わないけども。
入学して以来、年を越してVtuber活動を始め――記憶を取り戻すまでは隅っこで埋没するように過ごしていた、高校生活一年目。
今年に入って記憶を取り戻してからはなんだか妙に激動というか、忙しい日々を過ごす形にはなったし、なんだかんだでトモとユイカ、それに新たにこのみんっていう友達と呼べるような存在が初めてできたり、一年前の私じゃ全くと言っていい程に想像していなかった、賑やかな高校生活一年目の終わりを迎える。
それはなんだか、ちょっと疲れるというか、大変な事もあるけれど……でも、二年生になって、またこんな風に賑やかな日々が待っていると考えると……、うん。
――――悪くはないね。
お読みくださりありがとうございます。
これにて第一章が終了となります。
ブクマ、イイネ、評価など、本当にありがとうございます。
大変励みになっておりますm
少し幕間を投稿してから第二章に進みます。
年度末でバッタバタですけど、そろそろ落ち着きたい…。
ともあれ、改めてありがとうございました。
引き続きお楽しみくださいm